第198話:殲滅後

[レベル20以下のパーティーは後ろに下がるように]

[無茶はするな。下がって後方支援に回るんだ]

[怪我をした方は緑の旗のあるプレハブ小屋へ来てください]


 スピーカーからの指示で、前線で戦う冒険家が徐々に交代していく。

 10階層のモンスターが出てきたタイミングだ。


「浅蔵さん。モンスターってこんなんいっぱいおったと?」

『ずぅーっと湧いてくるにゃあぁ』


 スタンピードが始まって、かれこれ三時間経った。

 今もダンジョンの入り口からはモンスターが溢れ出ている。

 各階層のモンスターが順番に出てきている――にしては多い気がする。

 ぜったい増しましにしてるだろ。


 交代で前線に立ち、一匹も外へ漏らさないようにする。

 一匹も――。






[20階層のモンスターを確認。レベル35以下の冒険家は後ろに下がるように]

[あと6階層だ。みんな、頑張ってくれ]


 スピーカーからそんな声がして、俺とセリス、そして虎鉄が壁から下りた。

 

「浅蔵さん、分身なんども出しとったけど大丈夫?」

「あぁ。分身してただけだからね」

『ちゅーするにゃか?』

「こ、こんな人が多い所でするかっ!」

「なんだ豊、吸血鬼モードか?」

「芳樹、お前まで……」


 芳樹たちも準備万端だな。


「よし、分身にはあちこち散らばって貰うか」

「サポートあざーっす」

「ほんと良いスキルだよねぇ」

「術者本人に恩恵は皆無だけどな」

「省吾、戦闘前から止めささないでくれ」

「あー、すまん」


 いつもと変わらない。

 そう、変わらないんだ。

 気負う必要はない。いつものように、ただモンスターを倒せばいいだけ。

 しかも謎解きもないんだ。楽勝さ、楽勝。


「行くぞ――"うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ"」


 省吾のヘイトスキルを合図に、俺たちは迫りくるモンスターの殲滅を開始した。

 乱戦状態なので、今回俺は鞭を使わず図鑑で殴ることに専念。


 悲しいかな――


「愛鞭より図鑑の方が攻撃力高いんですけどぉぉ」

「もう図鑑をメインウェポンにすればいいんじゃね?」

「嫌だあぁぁぁ」


 いっそ鞭の先に図鑑を括りつければ……いや、俺の手から離れた瞬間に、図鑑消えるやん。

 はぁ……なんでダンジョン図鑑じゃなくって、ダンジョン鞭じゃなかったのか。

 まぁ鞭に情報の書き込みとか出来ないけど。


 二十分ほどモンスターの殲滅をしたら、他のパーティーと交替。

 二十分休憩してまた交代。

 そうやって体力が限界にならないようにする。

 ギリギリで戦うのは危険だ。常に囲まれた状況だからな。

 だからこそ、近県に救援要請を出したんだ。

 それに応えて集まってくれた冒険家たちなんだ。


 こんな大規模共闘、今までなかったよな。

 なんだろう。

 不謹慎だけど、なんかワクワクする。


 それから、どのくらいの時間続いたんだろう。

 前方から「雪男だ!」という声が聞こえた。


 壁の上から遠距離射撃をしている春雄から、無線で連絡が入る。


『ダンジョンボスのイエティだ』

「んなもんまで出るのか。どうする、みんな」

「イエティからスキル貰えんかったやつおるー?」

「はいはーい。ボク貰えなかったぁ」

「あ、私も」


 芳樹の言葉に、翔太を木下さん、それから甲斐斗、省吾、あとセリスと俺が手を上げた。

 インカムの向こうで春雄も「俺も」と返事をしている。

 どうやら貰えなかったメンバーの方が多そうだな。

 けど――


「今回はさ、他のパーティーに譲ろう。まぁここのダンジョンはもうなくなったし、次はないんだけどさ」


 俺がそう言うと、みんなは「ま、いっか」と同意してくれた。

 同時に「裏ボスも出てくるんじゃ?」という声があり、急いで裏ボスの情報をスピーカー持ちの職員に伝えることに。


『伝えた』


 という春雄の声がインカム越しに聞こえると、すぐにスピーカーから指示があった。


[裏ボスが出る可能性があります]

[水系遠距離攻撃手段を持った方は、レベルに関係なく壁の上へ移動してください]

[ボスの体は溶岩で出来ています。触れれば溶けてしまいますので、水を掛け、固まった箇所を攻撃してください]

[なお、攻撃後も――――]


 スピーカーからの説明が続く間に、イエティを討ち取ったという声が聞こえた。

 何故か複数から。


「春雄、どうなっとん?」

[イエティ、五体いた。どうぞ]

「五体!? おいおい、ボーナスステージかよ」

「やったら裏ボスも五体出るかもしれんと? あいつおるだけで暑くなるんじゃ」


 セリスの心配は現実になった。

 しかも五体じゃなく、十体。


 ただ……


「裏ボス貰いまっせぇ!」

「水が効くなら、氷もいけるだろ?」

「ボスが十体も出てくるさかい、ランカーが集まって鬱陶しいわっ」

「そういうあんたもランカーじゃろ?」

「喧嘩せんといてっ。あ、そこ、火傷しとるやん! "ヒール"」

「え、マジ天使。結婚しよう」

「いやたい!」


 各県のトップランカーたちは強かった。

 事前説明があったとはいえ、あっさり攻略するんだもんな。


 まぁイエティの時とは違い、裏ボスは「裏ボスしかいないマップ」のモンスターだ。

 取り巻きもいなければ他の雑魚もいない。


 そう。

 こいつの登場は、各階層の一般モンスターが全て討伐された後だった。


 これまでモンスターに囲まれる状況だった冒険家たちが、今度は取り囲む番に。

 こうなるともう、ただの獲物でしかない。


 俺たちが一時間かけてようやく倒した溶岩ケルベロスは、登場して僅か十分と持たなかった。


『ギュオオオォォォォォォンン』

「うしゃー! 最後の一匹、わいら浪速花道パーティーが打ち取ったでぇ!」


 歓声の声があがり――


【ちっ。スタンピードが終了したよ】

【これにより、大分宇佐ダンジョンが消滅するよ】

【該当地区にいる人間は退避しないと、建物と同化・・しちゃうぞ】

【カウント開始――900――899――898――】


 た、建物と同化!?

 聞いてないぞ、そんな話っ。

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