第190話:よーい、どん!
宇佐の地下25階で、虎鉄はスキルのレベル上げに励む。
万が一のために同行するのは女子メンバーだ。
そして男子メンバーは……。
「うわー、いるねぇ」
翔太がうんざりしたような声を出すのも仕方ない。
26階へと下りる階段には20人ほどの冒険家がいて、ちょっとした作戦本部みたいな感じになっていた。
踊り場には運動会で使うようなテントが張られ、長机に椅子も完備。
更に戻って来たメンバー用なのか、石油ストーブもあった。
その中でやたら寛いでいる8人がいる。他は忙しなく動いている者や、ガクガク震えているのもいる。
震えてるのは探索から戻って来た連中だろうな。
なんで探索から戻って来たメンバーが床に座っていて、寛いでる連中が椅子に座ってるんだ?
なんで毛布だの温かい飲み物だの用意してやらない。
なんであいつらは仲間を労おうとしない。
椅子に座る寛いでいる奴らがこっちに気づくと、忙しそうにしていた数人が階段を塞ぐ。
「おい、通れねーだろ」
「通す気がないから塞いでんだろ」
芳樹がカチンときて言えば、相手も応戦する。
通す気ないって……お前らなぁ……。
「冒険家同士でのあからさまな妨害は処分対象だって知ってる?」
翔太がにやりと笑ってスマホを取り出した。
ぶっ。こいつ録画したのかよ。
「そんなもん。ここで握り潰せば分からないだろう?」
おっと。あちらさんはやる気なようだ。数で勝ってると思っているんだろうな。
「"分身"」
『止めておいたほうがいいぞお前ら』
『握り潰す前に地上に転移するとか、そういうの考えない訳?』
『下層攻略するパーティーは、アイテムであれスキルであれ、だいたいは転送手段を持っているもんだぞ』
「ひっ。な、なななな、な、なんだ!?」
俺+分身の俺13人が鞭を構える。
本当はピシーッってやりたいけど、狭いなここ。
「お、おい止めとけっ。あいつら福岡の最下層攻略パーティーだぞ」
「げっ。マジかよ」
「さ、最下層攻略つっても、同じ冒険家だろっ」
「君たちさぁ、そうやってる間に僕らが地上で報告するとか考えない訳?」
「なんかアホらしくなってきた。行こうぜ」
「だな」
省吾が盾をガツンと打ち鳴らし、その気迫に気おされた奴らが道を空ける。
最後に俺
──が。
「よ、よし。い、いい、行くか」
「も、もも、もう既に、ヤ、ヤバぃほど、さむっ」
さっきの威勢はどこへやらというほどに寒い!
ひたすら寒い!
『おお、俺、俺たち、先行くからな』
分身レベルが上がって14になると、俺12人に。
1ダース分になった。
6人ずつ2チームに分け左右に散る。
俺、芳樹、省吾、翔太、甲斐斗、春雄の6人でひたすら真っ直ぐ進む。
もし万が一ボスを見つけても、遠巻きに観察するだけだ。もし見つかって追いかけられたら、とにかく逃げる。
ただそれだけだ。
「ボボ、ボ、ボスって雪男だっけ?」
「適任すぎだろ」
「とに、と、とにかく進むぞっ」
ボス探しは体力との勝負だ。
気温マイナス45度……とてもじゃないが何時間もこの中を歩いていられない。
ひたすら30分進む。
そしたら──
「あ、ああ、あさ、あさく、ら」
「おお、おお、おう」
全員が俺に捕まって図鑑転移。
転移先は家の前!
「はや、は、早く」
「あぁぁ、て、手がかじかんで、ド、ドアノブ、ま、回せ……あ、開いた」
中に入ってリビングで脱力する。
はぁ……温かい。幸せだ。あ、ねむ……
「浅蔵ぁぁ、眠っちゃダメだぁぁっ」
「ここなら死なないだろ。俺も眠い」
「コーヒー飲もう。昼飯は温かい鍋がいいなぁ」
「食堂行ってもこの時期、鍋とかないぞ」
「じゃあうどんでもいい」
ポットのお湯でそれぞれ好き勝手にコーヒーだのお茶だのを入れて温まる。
俺はもちろんココアだ。
はぁ、生き返るぅ。
「しっかしあの連中、ムカつくなぁ」
「とんとん拍子にいいスキル貰えて、大分でトップに躍り出て調子に乗っちゃったんだろうねぇ」
「しかし、ああやって仲間でボスを独占し、他の冒険家の妨害をしてきてのし上がって来たというのはなぁ」
きっとサポートメンバーがボスの捜索に出て、メインのメンバーは楽して階段で待っているだけなんだろう。
あの極寒の中、誰にも労われることなく……それで仲間のためだって言えるのか?
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