第113話

 武器改造。

 既存武器にダンジョン産素材を組み合わせることで、パワーアップを図る。


 そんなざっくばらんな説明が、ステータス板には浮かんでいた。

 どんな風に改造できるのだろうか。


 鞭から電流バリバリバリとか、鞭が鋼の刃になったりとか、鞭から火が噴き出したりとかそんな事出来るのか!?

 やってみたい!

 全部混ぜられる? 無理ならそれぞれ鞭用意するのも有だぞ?

 殺傷力は?

 レディークィーンのように自由自在に動かせる? 伸びる?


「あ、浅蔵さん? 落ち着きましょう。ね? 鞭の事はいったん置いといて」

「は!? な、何故俺が鞭の事考えてたって分かるんだ?」

「そりゃあ……ねぇ?」

『にゃー』


 なんで二人して通じ合っているんだ?

 いや、二人は俺の考えている事を理解している。つまり二人は俺とも通じ合っている!

 鞭のようにしなやかな絆で結ばれているってことか!


「浅蔵さん。鞭は忘れましょうね」

『帰るにゃよー、あさくにゃー。あっし、お腹すいたにゃー』

「よし。帰るか! ぐふふふ」


 二人を送り届けたらホームセンターに行こうっと。






 あれもこれもそれもどれも、鞭製造の素材になりそうな物を片っ端から拝借してきた。

 最近、19階のホームセンターの品物が減ってきている気がする。24階はまだそうでもないが、そのうちあれこれ利用者が現れるんだろうなぁ。

 ホームセンターに置いてある工具類は、それだけで武器として使える物がいくらでもあるし。


「うわぁ、浅蔵さんどうしたのぉ?」

「しっ、瑠璃。そこ触っちゃダ――」

「お帰り大戸島さん! 俺ね、新しいスキル手に入れたんだ! それで鞭をね、改造しようと思ってさ。いやまぁ素材はダンジョン産じゃないとダメなんだよ。でもいろいろ作りたいからまず本隊になる鞭をね、作ろうと思って」

「うわぁ、そういうことぉー。えっと、じゃあご飯温めるねぇ」


 とりあえず五本ぐらい作っておこう。


「浅蔵さん、先ご飯食べるんやけん、作るなら後にせんと。あとお風呂も先に入っとくんよ? 夢中になって入りそびれたりしたらダメやろ?」

「あ、う……うん。分かったよ」

「それと。ダンジョン図鑑のレベルも上がっとったやん。確認しとかんと。寧ろ階層進んだら確認する癖付けた方がいいんやない?」

「あぁ、そうだね。マスキングしてて中表紙見てないもんだから、すっかり忘れていたな」

「ご飯の後確認しましょう。マスキングテープ用意しとくけん」


 まず夕食。それから図鑑の確認。そしてマスキング作業に風呂。

 鞭の作成時間がどんどんずれていく……。


 食事を済ませてソファに腰を下ろし、図鑑をテーブルの上に広げておく。

 片手で図鑑を抑えながら、隣ではセリスさんがマスキングテープを剥いでいた。


「はい、終わりっと」

「よし、どれどれ――」


 図鑑レベルは13。

 モンスター情報やアイテム情報でページ数が稼げているのもあるが、30階の地図でかなり稼げたな。

 デッキごとに見開きで地図が表示されていたので、半分のデッキしか行ってなくても12ページにもなった。


 新しく追加された機能はっと――


・・アイテムコピー機能の改善(劣化版)  lv10

・・ダンジョン施設の設置 lv13


 劣化……今までのは超劣化版だ。性能がもう少しよくなるってことか。

 消費するDBPは1万。倍になったのか。


 気になるのがダンジョン施設。まるでダンジョンマッスター物みたいだが、それだと冒険家をいかに苦しめるかって施設になってしまう。

 詳細は無い。代わりに図鑑の巻末に追加ページが出来ていた。


 施設は四つ。

 エスカレーター、温泉、闘技場、ガチャ。


 エスカレーターはその名の通り。地下一階から二階に下る階段の所にエスカレーターが出来る。代わりに階段は無くなり、セーフティーゾーンも消滅……。

 デパートのエスカレーターのように、下りてくるりと反転すれば、次のエスカレーターがある。そういう構造で、五階層ごとに設置位置が変わるようだ。

 移動が楽になるが、代わりにセーフティーゾーンが無くなるのは問題だなぁ。


 温泉はなかなかいいかもしれない。

 浸かれば傷が治る、ようはポーション風呂みたいなものだ。


 闘技場は経験値稼ぎの場だな。ただしドロップゼロ。

 希望する階層のモンスターが、制限時間内で一定数ずっと湧き続ける仕組みらしい。

 もちろんそこで死ねば――ゲームではないので当然死ぬ。


 ガチャ。これ一番ダメだろ。

 使うのはお金。この時点でもうダメだ。破産する未来しか見えない。

 出てくるのはそのダンジョンで拾える物限定。

 ポケットや武器が確認されているので、それらも出るのかもしれない。


 一つのダンジョンに設置できるのは、どれか一つだけと書いてある。

 その上――


「施設の設置に必要なDBPが……」

「十万……。浅蔵さん、今いくらあるんですか?」

「ん……地図コピーにしか使ってなかったから、そこそこ溜まっているとは思うんだけど――」


 うん。溜まって入る。約九万ポイントだ。

 施設設置には足りてない。


「しかし十万……やっと溜まったポイントが設備設置で消し飛ぶのか……」

「これ、地図コピーもままならなくなるんじゃ……」

「でもぉ、温泉効果は凄いよねぇ」


 怪我が治る――確かにこれなら冒険家の死亡率も激減する……のだろうか。

 結局温泉まで怪我人を運ばなきゃならなくなる。だとすると、重傷者は運んでいる最中に……。


「うぅん。微妙だなぁ」

「そうなん?」

「瀕死の重傷負った人を温泉までどうやって無事に運ぶ?」

「あ……」

「それ言われるとぉ、確かに? どこに温泉設置するかにもよりますよねー」


 一階に設置しても、利用できるのは浅い階層でのレベリングをしている人ぐらいだ。

 もちろん浅い階層でも命を落とすことはあるが、下層に比べると断然その確率も低い。

 だがらといって下層に設置しても、利用出来る人数が限られてくる。


「まぁ必要なのは浅い階か深い階かと言われれば、深い方だろうなぁ」

「でも結局どこに置くって話になっちゃいますよね」

「まぁー、そもそもポイント足りないんでしょ~?」

「その通り。っていうか、地図のコピーの事も考えると、例えあったとしても十万ポイントなんて使えないよ」


 施設のことは横に置いておこう。

 それよりも今は――。


「浅蔵さん。ちゃんとお風呂先に入ってからやけんね」

「ぐっ……み、見抜かれていたのか」

「顔、にやけとるけん」


 くぅっ。思わず顔に出てたかぁ。

 くそぉ。

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