第114話
31階から34階までは、ありふれた洞窟タイプの構造だった。
自転車を使えるところは使って、無理なところは徒歩で。
朝8時半から夕方5時までの、規則正しい攻略生活で九日ほど掛かった。
帰宅後は鞭作成に取り掛かり、分身と協力して編み込みにもひと手間加えたりなんたり。
そうこうする間に分身レベルが上がって、俺が四人になった。
図鑑関連以外は完全コピーなのもあってか、分身全員が武器改造スキルを使えるという。
おかげで鞭の魔改造バリエーションも豊かなラインナップを用意することが出来た。
「で、こっちが手元のスイッチ押すと――」
改造した鞭のお披露目会。自宅の庭とも言える、ちょこっと広い場所でセリスさんたちに見せている。
鞭の手元にスイッチがあり、これを押すと先端から火が噴き出す仕組みだ。
レッドスライムから極稀に出る『火吹き石』というのがあって、それを鞭の先端に埋め込んでいる。
その石に電気を流すことで火を噴く仕組みで、スイッチから伸びた銅線によってON、OFFが可能。
「単三電池式なんだぜ」
「……はぁ……」
「じゃあ次! こっちは今のをスタンガンタイプにしたやつ!」
スイッチを押せば先端からパチパチと電気が流れる。
先端にスパークストーンというのを埋め込んだ。
「それから――」
殺傷能力を上げるため、28階のシャークから取れる鋭い歯を出し入れ自在にした鞭を披露。
そしてメインディッシュは、レディークィーンからゲットした『ゴム製いばらの鞭』を改造したものだ。
「ゴム製って言ってもね、使い手の意思によって硬度が変わるみたいなんだ」
「え? どういうことですか?」
「うん。触ってみて」
セリスさんに鞭を差し出し触って貰うが、彼女は首を傾げて「柔らかい?」と。
見ていた大戸島さんや、ちょっと暇そうにしていた上田さんまで触っていくが、みんな「なんで?」という顔をしている。
そう。この鞭は何もしていないと柔らかいんだ。殺傷能力なんてまったく無さそうに見える。
だがいざ気合を入れると――
「ふんっ!」
「わっ。なんか棘がシャキってしたぁ」
「イタッ。えぇ、さっきふにゃってしてたのに」
「わぁ、ほんと。カッチカチばい」
「まぁ今は戦闘中じゃないから、気合入れるっていうか、力む感じになるけど。とにかくこんな風になるんだ」
ぷにぷにだった棘は、俺の気合と同時に硬くなり、そして鋭く刺さるようになる。
それだけではない!
レディークィーンが使っていた時、インチキだと言わんばかりに伸びていた。
3メートルが5メートルぐらいに。
「ほぅら。伸びるぞーっ」
「うわぁっ!? あ、兄貴危ないっす!」
「はははははははは。俺の意のままに伸び縮みするんだぜー!」
「あれ、浅蔵さんに持たせたら、ダメなやつじゃなぁい?」
「……でも浅蔵さん以外、誰が使うと?」
「それもそうだねぇ~」
残念なのは空中での静止から、再動作が出来ない点だ。
まぁそれはいい。伸びればそれでいい。
ここまではドロップした際のデフォルト動作だ。
ここに改造を加え、鞭の先端に34階で拾った『ソードラビットの角』を取り付けた。
角と言うか、実際はソード=剣だ。ただし片刃の鎌に似た形をしている。
それほど大きくは無いが、殺傷能力としては十分だ。
これを折りたたみ式で先端に編み込んで、鞭を振るって切り刻む――なんてことも出来るようになった。
「こんな風にね!」
用意していた木材を宙に投げ、鞭を振るう。
最初の一振りで折りたたんだ鎌を伸ばし、次の一振りで木材を――斬る!!
「うわっ。えげつなー」
「よく切れますねぇ」
「あんなのが兎さんの頭にあったのぉ~?」
「う、うん……当たらなくて良かった……」
あー、うん。我ながらあの兎の角に刺さらなくて良かったと思うよ。
それほど木材はスパっと切れていた。
「ま、まぁこれで攻撃力の強化も出来たし、最下層目指して今日も頑張るぞ!」
「はい!」
「頑張ってねぇ~。あ、お弁当持ってくの、忘れないように~」
「準備出来たら、応援しますからぁ」
「いってら兄貴、時籐。あと虎鉄ぅ~」
『にゃ~』
「と、意気揚々とやって来た訳だけども」
「こ、これ……きゃっ」
「セリスさん!?」
35階。
そこは一面の銀世界。
というか氷の世界。
壁も天井も、そして床すら氷に覆われたそこで、セリスさんはすってんころりん。
くっ……。今日はスパッツ改めレギンスなのか!
ダンジョン内はこういった特殊構造の階は、それなりに気温が変動するからね!
たぶん10度ぐらいだろうけど、寒いよね! スパッツじゃ少し辛いよね!
でもピッタリフィットしたレギンスも悩殺ものです本当に神様ありがとう!
っと、神様に感謝している場合じゃない。
「芳樹たちもここで手こずってるって話だしなぁ。よっと」
「ありがとうございます。芳樹さんたちに追いついた?」
「うん。追いついてる。あいつらもまだここをクリアしてないんだってさ」
まるでスケートリンクのようなここを突破したパーティーは居ない。
他のパーティーは自分たちでスケッチブックなんかに地図を描きながら進むが、俺たちは図鑑が自動でやってくれる。
図鑑を出していなくても――だ。
その上実際に歩いていない壁の向こうもマッピングしてくれるので、それを見てある程度道を予測することも出来る。
階段も俺の視界には映らなくても、壁の向こうに現れれば地図に乗るので無駄なく動けた。
そのおかげで先行組にここで追いつけたんだが……。
「こればっかりはなぁ……スケート靴を頼むか?」
「浅蔵さん、滑れると?」
俺はセリスさんと目を合わせず、そっと明後日の方角を見る。
スケート……滑ったことありませんが何か?
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