第13話
図鑑最強伝説始まった。
水弾の勢いは図鑑に触れた瞬間ゼロに。水は弾け、地面にぼたぼたと落ちる。
そのくせ表紙はまったく濡れていない。防水なんてレベルじゃないぞ。
更に驚くべきことがある。
「お前……命がけで俺に攻撃してたんだな」
物言わぬカタツムリは、水弾を吐き出し過ぎて干からびた。
最初の1/10のサイズまで縮んでるよ。なんて痛々しい攻撃なんだ。
すっかり弱ってピクリとも動けなくなったカタツムリに、止めの鞭を打ち込み討伐完了。
遺体の横には元のサイズの殻がゴロンと転がっていた。
これ、ドロップアイテムなのか……大きすぎて邪魔なんだけどな……。
カタツムリ攻略法は、遠距離から攻撃して水弾を吐き出させること。
吐き出し尽くして干からびたら、サクっと止めを刺す。
水弾は図鑑でガード。
よし。俺の分のアクリルシールドは作らなくて良さそうだぞ!
「という訳だ」
「モンスターって、思っていたほど恐ろしくなさそうですね……」
「いやいや、油断しないでね。一匹しか居ないからよかったものの、あれが三匹も四匹もいたら、四方から水弾打たれてヤバいから」
実際水弾の勢いは凄かった。しっかり踏ん張っていた俺でも吹っ飛ばされたんだしな。
シールド無しであれを食らったら、相当なダメージを受けるだろう。
多数vs多数の戦闘も、考えておかなきゃならないな。
翌日は昼までにアクリルシールドをもう一つ完成させ、昼から店舗裏手で集団戦の訓練をした。
まずはナメクジを二匹。
二人にはゆる~りと移動するナメクジの動きに合わせ、常に一定の距離を保たせる。
瀕死になって体の色が変色したら、アクリルシールドを構えずぶずぶずぶ。
「先生ぇ。ナメクジさんの足が遅すぎて、距離を保つ練習になりませぇん」
「うん……やっぱりそうなるか。じゃあ1階のモンスター出す? スライムも当然遅いから、ミミズか……いやこれも遅いか。残るはバッタだな」
「飛んでいっちゃわないかしら?」
……そこが問題だ。
だがこればっかりは試してみるしかない。
なので一匹だけ取り出した。
野に放たれたバッタは、俺に襲い掛かる。
「おぅふ。割と痛い」
そりゃあ1メートルにもなる巨大バッタの頭突きだもんなぁ。
さて、距離を取ろう。
バックステップで俺が下がる。
バッタはその強靭な足でもってジャンプし、距離を詰める。
バックステップ――ジャンプ――バックステップ――ジャンプ。
うん。これダメやん。
「バッタさんでも練習できませんねぇ」
「そうだね……」
そう分かった瞬間。セリスさんが鎌を振り下ろしバッタを葬った。
「カタツムリにするたい」
「あ……うん。でも水弾の威力結構あるから、しっかり盾構えてね」
鎌を片手にそんな事言われたら、ダメだって言えないじゃないですか!
取り出したカタツムリは二匹。
俺も鞭を片手に参戦する。
「角には毒があるから、必ず距離を取って!」
「はいっ」
「殻を割ったら倒せませんかぁ?」
「硬いから無理だよ」
とは言ったものの、実際に確かめて貰った方が良いだろう。
二人には棍の方でカタツムリの殻を叩いて貰う。
「っー……硬いですね」
「うぇん、全然ダメぇ」
「まぁ胴体部分はナメクジ同様なんで、そこを狙うしかない。あとは水弾を撃ち始めたら――」
わなわなと震え出したら、盾を構えて踏ん張る。ひとりでは吹き飛ばされるかもしれないので、大戸島さんがセリスさんの後ろに回って支えるようにして立ってもらう。
俺は出来れば二人の前に立って、図鑑で水弾を防ぎたい。
全員が躱せればいいんだけどな。
カタツムリがわなわなし始めた。
「来るぞっ」
「瑠璃、後ろに!」
「うん」
ささっと大戸島さんがセリスさんの背後に回り込む。
二匹のうち一匹は彼女らを、もう一匹は俺を狙って来た。
ドンッ。ザパーンっという音と、二人の小さな悲鳴が聞こえた。
「大丈夫か!?」
「は、はい。なんとか」
「ふわぁ、ビックリしたぁ」
「干からびるまで水弾を吐かせた方が楽なんだけど、耐えれそう?」
セリスさんは少し考えて、首を左右に振る。
「アクリル板が持たないと思う。でも――躱せますよ」
「え?」
その言葉通り、次の水弾をセリスさんは簡単に躱した。しかも大戸島さんの手を引いて。
なんてことはない。
わなわなし始めたら、カタツムリの背後に回り込むだけだ。
動きが遅すぎる故に、人の動きに着いて行けてない!
結果。奴の視界に入っている俺だけにヘイトが向くのか、集中砲火を浴びることになった。
い、いいんだ。
図鑑最強だから!!
カタツムリを同時に四匹相手取り、それでも対処可能になった。
数が多い場合はなんとかして、カタツムリを同じ方向に向かせることに。
すると水弾が来るときに、躱しやすくなるからだ。
「まぁ動きが遅いんだし、無理して戦わず、走って逃げてもいいけどね」
「駆け足でも余裕で逃げれそうです」
「そうだねぇ。ところで浅蔵さぁん」
店に入って今日の復習最中。
大戸島さんが声を掛けて来た。
「浅蔵さぁん、途中からゴム手袋無しででんでんむしさんを取り出してましたが、角は大丈夫だったんですかぁ?」
「え?」
「私も気になってた。慣れて来たんとやろうけど、気をつけたほうがいいばい」
……そういえば……いつの間にか、まぁいいやーって外してたな。
感知にしても……初日は正直、神経すり減るぐらいビクビクしてた。
いつモンスターが来るのか。感知はちゃんと働いているか。
怯えた姿を二人に見せる訳にもいかなかったし、平常心を保っていたけど。
昨日今日なんかは、「あ、また来たな」って程度にしか思わなかった。
それでいてちゃんと警戒心も持てていたし。
もしかしてこの慣れって――『順応力』スキルのおかげ!?
じ、じゃあ……感知スキルに精神を蝕まれることもなくなる!?
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