第12話

 鞭の新作を止めて、盾の新作を作ることにした本日四日目。

 今日もセリスさんはラジオ体操を欠かさず行っている。

 大戸島さんの寝つきの早さも相変わらずだったし、寝るたびに肌艶が良くなっている気すらする。

 絶対スキルだ! そうに違いない!!


 それを調べるには、24階のどこかにある階段に行かなきゃならないんだよなぁ。


「今日で四日目だ。近いうちに移動を考えているんだけど。何も直ぐに地上を目指そうって言うんじゃない。少し移動して、図鑑の地図を埋めて行こうと思うんだ」

「そうですね。階段を見つけて、それから準備を整え上に向かう方がいいでしょうね」


 進んでは後退、進んでは後退。

 目的地がハッキリわかってから、準備をして迷わずそこまで一直線に進む。

 迷子になりながらだと、精神的にも辛いからな。


「その間に、防具を強化させようと思うし」

「防具ですかぁ?」


 盾はアクリル板で作り直す。そうすれば視界を塞がれることも無いし。

 膝や肘を守れるよう、子供が自転車に乗る時に付けるプロテクターの改造もいいだろう。


「大人用の各種サポートに縫い付けたらどうですかぁ?」

「いいね、それ」

「裁縫なら私も手伝えます」

「私もぉ」

「じゃあそっちは二人にお願いしよう」


 店から手ごろなアクリル板を――いっぱい用意しよう!

 出来れば少し曲げたい。時間が掛かりそうだが、頑張ってみよう。






 七輪を用意します。バーベキューコーナーにありますね。

 木炭を用意します。ここは贅沢に備長炭!

 火を点けます。狭い所だと一酸化中毒怖いので、お店の方で火を点けます。

 大丈夫。火災報知器も機能していないから。


 炭に火が点いて熱くなってきたら、あとはひたすらアクリル板を炙るようにして熱を加える。

 火に近づけすぎると溶けるので注意!


 警察官が持ってるような、強化プラスチックの盾だろうか、あれっぽくしたい。


 真ん中部分が熱くなったら、急いで曲げる!

 ここ人力!

 電気があればちゃんとした道具もあるんだけどな……乾電池じゃあ動かないっていう。


 あまり強引に曲げると割れるかもしれないので、慎重に、だが手早く作業をしなきゃならない。

 少し曲げたらアクリル板が冷め、再び熱する。

 あまりやり過ぎて板の強度が下がってもダメなんで、少しカーブした所で完成させとこう。


 合皮で持ち手も付けて――流石にベニヤ板と違って、穴を空けるのは難しいのでそれは無し。


「よし、完成だ!」


 盾一個作るのに、半日以上かかりました!!

 これをあと二個作る!!

 






 本日の夕食は――。


「高級フカヒレスープです!」

「凄い! 豪華!!」

「お鍋の用意、出来てますぅ~」


 お中元に感謝。

 自力脱出も視野に、お湯を注ぐだけのタイプや、お湯ぽちゃで食べられる系は温存することにした。

 ひと手間必要な物をここで食べてしまおう、と。


 お湯を入れた鍋に『フカヒレ』以外の具材とスープを投入。

 しっかり混ざり合ってから、真空パックされたフカヒレを入れる。


「フカヒレって食べたことないんだけどさ。これ本物なのかな?」

「それ気にしないで食べた方がいいんじゃ」

「本物っぽいですよぉ。このお店、フカヒレ料理出してるお店ですからぁ」


 と、箱を見て大戸島さんが言う。

 お店の名前でフカヒレ料理が出ているのを知ってるって……実はお金持ち!


 ……まさか本当に、俺が勤務する会社の親会社社長と関係があるんじゃ。

 そんなフカヒレスープと、今日は麻婆ナスだ。

 プランターの野菜たち、ありがとう!

 でも食べきれないぐらい採れてます。どうしよう。


 砂糖と塩、そして酢で漬けたキュウリをかじりながら、中華を頂く。


 んん~、美味い。


 ん~んん~……ん。


「感知だ」


 短く言うだけで、二人は食事の手を素早く止める。

 今のところ観察できたのはカタツムリとナメクジ。どちらも移動速度が遅い。

 待つこと5分。

 遠ざかるどころか、近づいている!?


「っち。店の方に来てるな」

「ど、どうしますか?」


 とりあえずサービスカウンターへ行こう。窓から確認して、こっちに真っすぐ向かっているようなら……倒すしかない!

 窓を開き見てみると、カタツムリがゆーっくりとこちらに向かって来るのが見えた。

 しまったな……。ナメクジばかりでカタツムリとの戦闘をしていなかった。

 二人にいきなり本番をやらせるのは危険だし、俺一人で行こう。 



「俺が出る。二人はここで待っていてくれ」

「私も行きますっ」

「大戸島さんをひとりにさせられないだろう?」

「じゃあ、私も着いて――」

「ダメだっ。ナメクジとの戦闘はゲージ越しだったが、今度はそうはいかない。何があるか分からないんだ。二人を危険な目に合わせる訳にはいかない」


 鞭と、完成したばかりのアクリルシールドを持って店を出て行く。

 俺に気づいたカタツムリが――頑張ってこちらへとやって来るが遅い。

 

「てぃっ」


 放った鞭は奴の殻に当たって弾かれた。

 うぅん。殻を割るのは無理そうだな。

 ならば体だ。


 ピシーッと唸った鞭が、奴の体に小さな傷を付けて行く。

 鞭の攻撃力は高くは無いが、ある程度距離が取れるし、相手次第では安全に戦えるのだ。


「ふはははーっ。そうれっどうだ!」


 ピシピシと、なんとも心地の良い音が胸に響く。

 動きの遅い奴がこちらに向かって50センチ進めば、俺は50センチ下がる。

 決して奴には届かない距離から、容赦なく鞭を振り下ろす。


 さぁ、このまま倒れやがれ!


 んん?


 わなわなとカタツムリが震え出したぞ。

 な、何かやらかす気か!?


 思わず盾を構えた瞬間。

 奴の口からなんか飛んで来た!

 そして俺吹っ飛んだ!


 え、今の何?


 ババっとバックステップで奴との距離を取る。

 遠距離攻撃を受けたようだが、なんだったんだ?

 10メートル以上離れて、慌ててアクリルシールドを腕に通し図鑑を取り出す。

 チラみしつつ、そこに追加されていた文章は――。


【自らの攻撃が届かないと分かると、命を賭けた水弾攻撃を行う】


 命がけ……。カタツムリって、ナメクジ同様水分だらけの体だよな?

 その水分を吐き出して攻撃してるってのか!?


 げっ。わなわなし始めたぞおい。

 水飛んで来たーっ!


 アクリルシールドを握りなおす暇もなく――。

 条件反射で手にした図鑑を――構えてしまった。


 吹っ飛ばされる。

 そう思ったのだが……あれ? 飛ばされてない?


 再び飛んでくる水弾を、再び図鑑でガード!

 パシャ――という、なんとも軽い音がして水が弾けた。

 衝撃も何もない。


 あ、そういえばこの図鑑……決して破損しない……って、書いてたな。


 もしかして、図鑑が最強の盾なのか!?

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