第110話

 卑怯だ!

 何故奴の鞭は伸びるんだ!?

 何故奴の鞭は空中で停止し、再び動き出すんだ!?


 射程3メートルの俺の鞭では、まったく届かない!

 だが――

 奴の鞭は一本!

 こちらは三本!


「『ここは俺たちが奴の鞭を防ぐ! その隙にセリスさんと虎鉄が、奴を攻撃してくれ!』」

「わ、分かりましたっ」

『あっしに任せるにゃー』


 分身ABと俺とで、奴のを絡めとる。

 残念ながら奴自身を絡めることは出来そうにない。

 だって3メートルの鞭じゃ、奴の体をぐるっと一周することすら出来そうにないんだもん!

 あれじゃあ大根の桂剥きボムくんも、きっとお手上げだろう。

 だがら鞭を絡め捕った。


『んまっ!?』

「ふんっ。鞭使いは鞭が無ければただの――えぇっと、デブ?」

『ムッキイイィィィィィ!』

「ぅおっと!」


 レディークィーンが力任せに引っ張ろうとする。

 こっちも必死に抑え込む。


 俺たちは男だぞ。女(?)に負けて堪るか!


「とは言っても、こっちは三人なんだよなぁ」

『三人でもギリギリだけどなぁ』

『向こうは化け物だ。仕方ないよなぁ』

「でも向こうだって六人ばい!」


 セリスさんはそう言って薙刀を振るう。

 広いカジノステージなら自由に振り回せると、柄を追加して通常モードになったそれがバックダンサーのひとりを貫いた。


『ンホオォォッ!』

「もう嫌あぁっ。攻撃したらいちいち変な声だされて、気持ち悪いっちゃっ」

「あぁ、ごめん。俺たちあれの鞭を抑えるので必死……」


 といいつつ、迫ってくるバックダンサーには図鑑の角を一撃見舞った。


『アァッー!』


 確かに……気持ち悪い上にマジむかつく。

 

『"奥義・爪とぎスラッシュ"!!』

『おぅふっ!』

『ここが痒いにょかー?』

『おぉ、おぉぉっ』


 虎鉄はあまり気にしていないのか、上半身裸のバックダンサーの背中をバリバリしてやっている。

 どうやら本人たちが気持ち良さそうにしているから、善意でバリバリしているようだ。

 うん。あっちは虎鉄に任せよう。


 そしてこっちは!


「くっ。肉が分厚過ぎて、なかなか刺さらんばいっ」

「ぜい肉で防御とか……マジ化け物」

『むっふっーん』


 俺は別に褒めてない。

 なのに奴は自らの垂れさがった肉を寄せてあげて、何かアピールしているようだ。

 そして徐に鞭を――捨てた!?


「おいっ。鞭使いがそれ捨ててどうする! 鞭使いとしての誇りは無いのかっ」

『っていや待て。なんか様子が変だぞ』


 両手でたわわな肉を寄せ上げし、更に脂肪が増量されているように見える。

 その体はどんどん膨れ上がり、何故か巨大な脂肪ボールになった!?


「あ、浅蔵さん!?」

「ちっ。特殊攻撃だ! セリスさん、躱すことに集中!」

「浅蔵さんこそ気を付けてっ」


 はい。俺の方が回避能力劣ってます。

 

 ばうんばうんと弾む脂肪ボールに回転が加わり、そして転がり始めた!


「セリスさん!」

「平気!」


 物凄い回転で迫るレディーボールを軽くステップで躱すセリスさん。

 流れるブロンドの髪が綺麗だ。改めて惚れそうだ。


 レディボールはポーカー台に突っ込み、あっさりとそれを木っ端みじんに。

 うん。あれ当たったらダメなやつ。


 とか思ってたらこっち来た!

 躱す――そう思った。

 だが立ち位置が悪かった。


 一段高くなったステージとの境。

 その段差につんのめり、バランスを崩したところにレディーボールが転がって来た。


「浅蔵さん!?」

『おい逃げろ!』


 逃げられない。もう無理だ。

 だから――だから――


「ダ、ダンジョン図鑑!」


 を呼び出して、前に突き出した。


 ぎゅるぎゅるぎゅると回転するレディボールが、突き出した図鑑に衝突する。

 押し負ける訳にはいかない!


「――と思ったけど……なんか余裕?」


 レディーボールは回転を続けたまま図鑑に当たっている。

 だが目で見る回転のわりに、まったく衝撃が無い。


 そうだ。これ、衝撃も吸収というか、無効化するんだったっけ。


『今助ける!』


 分身が短剣をレディーボールへと突き立てるが、回転に弾かれ逆にふっ飛ばされた。


「止めとけっ。回転の軸をしっかり狙わないと、どうしたって弾かれてしまうと思う」

「でも浅蔵さん!?」

「大丈夫。図鑑は最強。図鑑は最強なんだよセリスさん」


 心配する彼女ににっこり微笑んで答えると、彼女はならばと俺の隣へとやってくる。


「もしもの時は……一緒やけん」

「……馬鹿だなまったく。大丈夫だって。でも……そうだな、一緒だ」


 良い雰囲気だけど、今は戦闘中だ。それに――


『あっしも! あっしもーっ』

「ほら来た」

「もう虎鉄ったら」


 だいたい俺たちは良い雰囲気になると、虎鉄が割って入って来てもふれと言わんばかりにすり寄ってくる。

 流石にモフッてやる余裕もないけどな。


 回転が収まると、全身ズタボロのレディークィーンの形へと変化する。

 奴の回転を図鑑で止めるということは、もしかして行為そのものがカウンター攻撃になっているのか?

 だったら簡単だ。


 ボロボロになりながら奴は再び寄せて上げてを開始する。

 そして回転を始めると、俺は正面に立って図鑑を構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る