第111話
レディークィーンが寄せて上げてボールになって回転を始める。
俺、図鑑構えて正面で構える。
レディーボールが図鑑に衝突し、息切れするまで回転し続け自爆ダメージ。
回転が止まって擬人化状態になると(いやあれ人間とは思えない姿だし)、ダメージと回転によってふらふら。
そこへ全員が一斉に攻撃をする。
これを三度繰り返したところで、レディークィーンは金切り声を発して倒れた。
「くっ――最後の最後で嫌なスキルを使いやがる」
『か、体が痺れてやばい』
『おい今の、アラームじゃないのか? ロボが入って来たぞっ』
ただでは死なない――か。
「セリスさん、大丈夫か――あぁ、気絶してる!?」
『俺たちがなんとかする!』
『虎鉄! おい虎鉄!!』
虎鉄もダメか。
最後のあの声は、麻痺ではなく他の効果だったようだ。それに加えゾンビ階層のアラームのように、モンスターを呼び寄せる物だったのか。
くそっ。
ガクガク震える足に文字通り鞭を打ち、セリスさんの下へと向かう。
『っしゃー! ボムボム食らえ!』
『大盤振る舞いだぞ!』
残っていたボム野菜を全部投げているようだ。
今のうちに俺の足、しっかりしろ!
『俺! 奥に階段だっ。セリスさんと虎鉄抱えて行けっ』
『階段まで行けば追って来れないだろうっ。早く!!』
『俺の――セリスを守れ!』
『は? お前のじゃないだろうっ。俺のだ!』
「いやお前らのじゃないから!!」
『『いいから行けよ!』』
なんで俺が怒られなきゃいけないんだ!
だが文句も言っていられない。分身の言う通り、ズテージの奥、赤いカーテンの後ろには下り階段が見えていた。
足は――多少震えているが大丈夫だ。
リュックに虎鉄を入れて背負い、セリスさんはお姫様抱っこをして階段へと向かう。
『あぁ、やっぱり俺がセリスさん抱っこして運ぼうかな。本体俺、か、代わってやってもいいんだぜ?』
「いや、代わって貰う旨味がどこにもないから遠慮する」
背後から聞こえる俺の声に答え、一歩ずつ階段を目指す。
ふと――
前方に転がる長いモノが目に入った。
え? あれってまさか?
「鞭かああぁあぁぁぁっ!?」
俺は駆けた。
抱っこしたセリスさんをぎゅっとして。
そして見た。
やっぱり鞭だ!!
え? え? えぇ?
武器のドロップ!?
ほとんど噂レベルでしか聞かない、ダンジョン産装備。
それが目の前に……ある!
拾いたい。
いや、拾わなきゃダメだろう!
でもセリスさんも放したくない! 柔らかいから!
ならどうするか。
ふ。地面に落とした鞭をカッコよく拾うのは――
「足で蹴り上げる!」
――特訓もやっていたが、それがここで役立つとは。
つま先に鞭を引っ掛け、そして蹴り上げる!
手は塞がっているので、首に引っ掛けよう。
そう思ったのだが、これは上手くいかなかった。いかなかったが、代わりにセリスさんの体に引っかかった。
右肩から左腰にかけ、斜めに鞭を掛けた形になって……少しいやらしい。
ぐぬぬ。今はまじまじと観察しているときじゃない。
セーフティーゾーンに急げ!
階段へと下りて彼女を下ろし、分身を解いてから彼女と虎鉄を介抱した。
気を失っていたのはトータルでも三分ほど。
いや無理だろそれ……ボス倒してもロボ軍団に殴り殺しされるじゃん。
芳樹たちはどうやって乗り越えたんだ?
俺が気絶しなかったように、抵抗は可能なんだろうか?
俺の場合考えられるのは、順応力だ。
感知のプレッシャーはもう既に皆無だが、たぶん常に発動している感知のせいで、微々たる経験値が入っているのだろう。
おかげで順応力のスキルレベルは9だ。
19階のゾンビアラームを一度聞いているし、レディークィーンの耳障りの悪い声も今の戦闘中に聞いていた。
だから耐性があったのかもしれない。
こういった状態異常を引き起こす攻撃に対する抵抗力を上げるスキルは、他にもいくつかあるからな。
事前に抵抗力を上げるスキルなんかも。
ここの情報も後で上に伝えておかなきゃ。
だが今はこれだよ、これ。
「浅蔵さん……な、なんかにやにやしとるけど、どうしたん?」
「え? 知りたい? 聞いてくれる?」
「う、うん。聞くけど……聞きたくない気もする」
「聞いてよセリスさーん。これ、拾っちゃったんだよぉ~」
目覚めたセリスさんに、俺はレディークィーンからの戦利品を見せた。
黒光りするしなやかな鞭!
長さはこれまで使っていたものと変わらず三メートルほどだが、奴が使っていたものがそのままなら伸びるはず!
しかし気になるのが素材だ。
どう見てもゴム製。いばらの鞭のように棘があるが、触っても居たくないし、握ればぶにっとして柔らかい。
「触ってみる?」
セリスさんにそう声を掛けると、
「え、遠慮しとくばい」
と後ずさる。
気持ちいいのに。
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