第109話
まずは階層ボスを探す。
ボスだろうとそうじゃなかろうと、倒してから階段を探すことにする。
「よし、行くか」
『にゃー』
「はいっ」
『おけ』
『じゃあ扉、開くぞ』
分身の声に全員が頷き、そして観音開きのそれが開かれる。
全員が一歩、カジノへと踏み込むと、背後の扉がバンッと音を立て閉じる。
――と、突然カジノ内の照明が消えた!?
「浅蔵さんっ」
「全員その場で動くなっ」
『んにゃー。さっきのいっぱい出て来たにゃよぉ』
「え?」
『待ってろ。今懐中電灯を――イテッ――』
『こういう時、背負ったリュックや中身もコピーされるのはいいな』
分身が点けた懐中電灯で、ようやく辺りが照らされる。
が、それとほぼ同時に船内の照明も復活した。
ショボくれる分身。
それまでスロットマシンが列を成していた一角が、まるでモーゼの十戒に出る海を割るシーンのように、ずささささとマシンの列が左右に移動する。
【レディース・ジェントルメン! これより福岡02ダンジョン一の美女、レディークィーンによるステージショーの開幕です!】
スロットマシンの列が割れ、俺たちの正面にステージが浮かび上がる。
「は? な、なんだこのアナウンス。セリスさん聞こえたか?」
「は、はい。ちゃんと聞こえたばい」
『あっしにも聞こえたにゃよ。すてーじしょーって、ご飯のことにゃか?』
『虎鉄。お前は今のお前のままでいてくれ。でも取り敢えずご飯じゃないからな』
たまに脳内で流れるボーカロイドのアナウンスとは違い、声は男のもの。そして起伏のある喋り口調だった。
ここを『福岡02ダンジョン』と、しっかり言っていたな。
カジノ内の照明が僅かに落とされ若干薄暗さを感じると、天井のミラーボールが回転し始めた。
七色の光を反射しはじめるミラーボールによって、辺りはカラフルに彩られていく。
くっ……これは視界が悪い中での戦闘を強いられるな。
ダンジョンは明るい――という常識が崩された感じだ。
猫は夜行性だ。きっと虎鉄ならこの視界でも普通に動け――
『にゃにぁっ! にゃーっ!』
「おい虎鉄うぅっ! ミラーボールが反射した光追いかけて、遊んでんじゃないーっ!」
『にゃにゃーんっ!』
虎鉄はやはり猫だった。しかも子猫だ。
あぁ、一番の戦力が……。
「浅蔵さん。ステージに人影がっ」
「ダンジョン一の美女のお出ましか」
ごくり――唾を飲んで待ち構える隣で、セリスさんの視線が少し怖い。
大丈夫。俺は君だけを――。
内心でも恥ずかしいのでこれ以上は言うまい。何より今は、ダンジョン攻略を優先すると決めたのだから。
スポットライトに照らされ現れたのは男?
バックダンサー的な奴だろうか。上半身裸で白タイツ姿の、ちょっと目線をあれに合わせたくない奴らが並んでいる。
その後ろにもうひとり――あればレディークイーンか?
金髪の後頭部だけがかろうじて見える中――半裸の男たちがさっと左右に移動。
ひとりだけが残り、隠れていた人物の前で四つん這いになった。
波打つ金髪がくるりと回り、その人物の姿が露わとなる。
正直――俺は回れ右をしたかった。
『うっふーん。さぁ、アテクシのショーの始まりヨン』
身長は2メートル弱。それほど大きくはない。
なのに顔のサイズは異様に大きく、横にも太い。
男五人が一列に並んでいたのは、こいつを隠すのにその人数が必要だったからか!?
四つん這いになった男の背にヒールを乗せ、その手に
クィーンというだけあって、その装備は女王様そのもの。
バンテージ? ボンテージ?
とにかく黒い水着のようなものを着用しているが、布面積はかなり少ない。左右はぱっくりと開き、前と後ろの布を紐で支えているような感じだ。
だがその紐と紐の間から肉がはみ出し、まるでボンレスハム状態だ。
顔には黒い蝶仮面。足はかかとの高いヒールで、全て黒だ。
吐きたい。
昼食を吐き出したい。
だが――
俺はこいつに負けるわけにはいかない!
自作の鞭をしならせ、床に激しく打ち付ける。
ピシィッーっという音が響き、それに対抗するようにレディークィーンも鞭を鳴らした。
『オゥフッ』
四つん這いで踏まれたままの男が喘ぐ。
推定体重数百キロクラスに踏まれて、よく耐えてるな。
「浅蔵さん……私、あれと戦うのヤです」
『あさくにゃー、なんか気持ちわるいにゃよぉ』
「俺はやる! 同じ鞭使いとしてどっちが上か、決めなければいけないからな!」
『そうだとも。トレジャーハンターの鞭捌きと女王様の鞭捌き――』
『どっちが上か、分からせてやる!』
「『おーっ!』」
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