第108話

 31階への階段は、客船の船底側ではなく――。


「まさかの上の階だったとは……」

「地下に向かう階段だから、てっきり船の下の方だって思い込んどったもんね」

『上にいくにゃか?』


 ホームセンター、スーパーへ化け野菜のプランター栽培を終わらせ、昼から30階攻略を再開。

 芳樹たちから「階段は11デッキにある」というのを教えてもらった。

 甲板から入った所が6デッキ。


「11デッキのカジノやったね」

『カジノってなんにゃ?』

「え……えぇっと、あ、浅蔵さん」

「そこで俺に振る!? え、えっとな虎鉄、カジノってのは……ゲ、ゲームをするところだ!」

『ゲーム? あさくにゃたちがテレビでやってる、あれかにゃ?』


 ちょっと、いやかなり違う。

 生まれて間もない(?)虎鉄に、ギャンブルなんて教えていいものか。

 

 地図もあってサクサク進んで11デッキへ。

 船内地図ではカジノは一番奥になっている。その手前に12デッキへ上がる階段があるが、ダミーなんだろうなぁ。

 心理的に階段があると上りたくなるのが冒険家という者だ。


『あさくにゃー、人形にゃよー』

「人形? あぁ、マネキンか……」


 22階に居たメイドロボみたいな奴らが見えた。

 今回はバニーガールにバーテンダーか……カジノ仕様ってことだな。

 それにしても……


「浅蔵さん。モンスター相手に鼻の下、伸ばしとるよ」

「そんな馬鹿な!?」

「伸ばしとる!」

『あさくにゃー、怒られてるにょー。おんにゃの人じっと見てるからかー?』


 ぐふっ。子供って容赦ない。容赦ない!

 視界にバニーロボを入れてはダメだ。

 

「バニーはセリスさんと虎鉄に任せるっ」


 俺は分身を出し、三人でバーテンダーへと鞭を振るう。


『オホオォォォッ』

「は?」

『え?』

『喘ぐ?』


 お盆の上にカクテルか? それを乗せたチョビ髭バーテンダーが、鞭で打たれるたびに頬を染め喘ぐ。

 どうしよう……こいつにだけは鞭を使いたくない。


「殴るか」

『刺すか』

『斬るか』






 バーテンダーが持つお盆の上のカクテルは、恐ろしい酸だった。

 投げられる前に鞭でグラスを割り、逆にバーテンダーへと浴びせると楽に倒すことが出来た。

 バニーガールは投げキッスを放つ攻撃をしてくるようだ。食らうと数秒間、ぼぉっとするらしい。

 ただしセリスさんには効かず、効果があったのは虎鉄のみ。


「一応、虎鉄も雄やけんかなぁ」

「……雄だけど、子供だしなぁ」

『ふかくにゃあぁぁ』


 床に寝転びゴロゴロ転がって悔しさを表現する虎鉄。その腹を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄って来た。

 

 11デッキのモンスターはバニーガールとバーテンダーの二種類だけのようだ。

 しかし――


「30階だ。階層ボスがいるかもしれないな」

「でもこの先に階段なんやろ? ランダム湧きかもしれないし、他のパーティーが倒しとるかもしれんやん」

「ま、そうなんだけどね。スキルゲットのチャンスだし、居たらいいなぁとは思うんだけど」


 ボスの話は聞かなかったが、芳樹たちのパーティーが倒しているかもしれない。

 その場合、何日前に倒したかでボスの有無の可能性は変わる。

 こんな事なら詳しく話を聞いておけばよかった。


 カジノへの扉は締まっており、俺の感知にはこの向こうにモンスターの気配がある事を告げている。

 数にして――


 僅か一匹。

 そぉっと扉を開けば、中はテレビで見た記憶のあるカジノそのまんま。

 スロットルマシーンが手前に見え、奥にはちらっとポーカー台のようなものが見える。

 天井には大きなミラーボールがぶら下がっていた。


 異様なのは、カジノだってのに一切の音が無い事。


 感知の反応は一番奥だ。

 階段は――ここからじゃ見えないな。


「この中にモンスター一匹って……」

「どう考えても怪しいばいね」

『食べれるのかにゃ?』

「「……」」


 虎鉄はいつでも幸せそうで何よりだ。

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