第107話

 一階で畑を増やすことは出来ない。

 これ以上、モンスターの生息エリアを狭めるわけにもいかないし、食材用野菜の面積も減らせない。寧ろ増やしたいと、福岡02支部の小畑さんが言っていたぐらいだ。


 じゃあどうするか。


 化け野菜は放置すればいいのだから、別の階層で栽培してもいいんじゃないか? ってことになる。

 例えばホームセンターのある19階と24階。スーパーのある21階もいい。

 プランターと培養土は店内の在庫として、今も積まれたままだ。それを活用しない手はない。


 それを秋嶋さんと話し、彼が地上の小畑さんに話を通す。

 プランター栽培なので、畑に比べると収穫量は少ないかもしれない。

 が、ゼロよりは断然いい。

 なんだったらオープンフィールドタイプの階層で栽培してもいいな。


 収穫は俺が毎朝やればいい。それが出来る環境だ。

 図鑑でピンポイント転送し、分身と一緒にやる。スキルレベル上げにもなっていい。


「なるほど。浅蔵くん・・・・だとそれが出来るのか」


 小畑さんがやって来て、早速実行に移すことが決まった。


 小畑さんにはピンポイント転移の事は話してない。ただ図鑑に転送機能が付いていることは、俺たちの行動からも察しているようだ。

 まぁ毎日朝出発して、夕方に帰って来ているからなぁ。バレるよな。


「そうだ。昨夜遅くに小島くんが戻って来てるから、プランター作りは彼らにも頼むことにしよう」

「芳樹ですか?」

「あぁ。先日やっと30階をクリアしたそうだよ」


 30階……今俺たちが攻略している階層じゃないか。

 案外進んでなかったんだな。


 小畑さんに、今一番先に進んでいる冒険家が、何階層まで到達しているのか尋ねると、答えは意外な物だった。


「32階だ。小島くんたちが次いで31階まで到達している」

「案外進んでないんですね」

「あぁ。地図が無ければそうサクサクとは進めないからね。それに、上位パーティーは山口と長崎に出張させていたからね」


 あぁなるほど。山口と長崎に出現したダンジョンへ、生存者の確認救出部隊が行っていたんだっけ。

 その分、ここの攻略組の数も減っていたから、そのせいであまり攻略は進んでいなかったのか。


 あとは26階のあの扉だろうなぁ。

 鑑定が無ければ意味分からないし。

 それに28階もそうだ。

 下り階段出す為の条件がモンスター討伐数なんて、まるでゲームみたいなクエスト案件。

 数だって決まっているし、それも鑑定が無ければ確認できない。


 地味ぃに嫌な設定だ。


 その辺りでみんな、足止めを食らったんだろう。






「26階は、お前に協力頼むまで一週間ぐらいぐるぐるしたぜ」

「……もう少し早く声掛けてくれればよかったんだよ」


 朝食後、芳樹たちが来て各階のプランターによる、化け野菜の栽培が始まった。

 といっても、プランターをずらーっと並べ、店内の培養土をどっさり入れて、これまた店内にある野菜の種植えて。おしまい。


 だが俺たちは侮っていた。

 ホームセンターという物を侮っていた。


「浅蔵さーん。在庫置き場にもプランターありましたよ~」

「追加で58個で~す」

「土もたくさんありました~」


 芳樹の彼女の木下さん。翔太の彼女の鳴海さん。

 それにセリスさんが加わった女子三人組が、21階にあるホームセンター店内から台車を引いて出て来た。


 男組はげんなりする。

 店の表に並べられたプランターだけでも、大きめの物が百近くあり、店内には中サイズ以下のものが以下略。


「これ、並べるとこあるのかよ」

「道路に並べとく~? ゾンビが世話してくれるかもよ~」


 翔太の言葉に、俺はじょうろを持ったゾンビたちの姿を思い浮かべてしまった。

 そのうちホームセンターのエプロン付けたゾンビが……ああぁぁあ、嫌だあぁぁぁっ!


「なぁ豊。化け野菜が奇声あげ始めると、ゾンビが寄ってこないか?」

「お、春雄。それ俺も思った。ゾンビ映画って、音立てるとだいたいそいつ食われるじゃん?」

「化け野菜食われたって別にいいだろ」


 と言ったものの、良くないか。必要だから栽培するんだし。

 19階がダメとなると、20階?

 蟻に食われないか?


 じゃあ24階に全部運ぶか? 運ぶのは面倒だが、ポケットがあるので無理ではない。

 しかし24階のホームセンターだってプランターはいくらでもあるだろう。

 ダンジョンの外で栽培しても、化け野菜にはならないし。


「ってことで、二階ここにプランターを並べさせてください」


 俺たちは二階入り口の屋台通りへと行き、ここを取り仕切っている店主にお願いした。

 野菜の世話はしなくていい。なんだったらちょっとぐらい収穫して、店で使って貰ってもいいという事で。


「まぁ世話しなくていいってんなら、こっちは別にいいやね。冒険家に必要なもんなら、いくらでも置いて行きな」

「「ありがとうございます!」」


 こうして屋台通りを囲むように、プランターをじゃんじゃん並べて行った。

 その数約250程。


 今はまだ芽すら出てないが――あ、出て来た。

 やっぱ早いなぁ。


 屋台通りが賑やかになるのはまだ少し先の事だろう。

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