第106話

 豪華客船って……こんなに広いのか。

 午後の四時間ほどで探索できたのは船内の一階部分だけ。

 避難経路を見る限り、地下もあれば地上部分もある。合わせて12階建てだ……。


「うぅん……下を目指せばいいと思ったが、下より地上階のほうが高いよなぁ」

「そうやねぇ。これ、スマホで撮影して持って帰ったほうがいいような」

「それだ! よし、一旦帰ろうっ」


 図鑑転移で自宅裏へと戻ってから、セリスさんがスマホを取りに行く。

 戻って来たら甲板デッキから入ってすぐの場所へ図鑑転移。


「怪電波の影響で撮影できないなんてことが無ければいいけど」

「あ、撮れました」

「マジで!?」


 見せて貰ったセリスさんのスマホには、確かに避難経路図が映っていた。


「今まで誰も思いつかなかったんやろうか?」

「居たかもしれないけど、協会の人に伝えてなかったか、撮影者がまだ地上に戻ってない可能性もあるしね」


 転送スキルを持っているメンバーが居れば、比較的自由に出入りできるが、オーブを使った転送だと節約の為に食料がある限り籠るからなぁ。

 セリスさんには各階層のアップ画像をいくか、ついでに動画でも撮影して貰って本日の攻略は終了。


 一番深くまで潜っている冒険家は、どこまで行っているんだろうか……。

 早く追いつきたい。追いつかなきゃ、図鑑のマッピング機能を役立てられないからな。


 一階に戻ってから、セリスさんは風呂へ。

 俺は船内図を模写して貰うために協会スタッフを呼びに行った。

 いつもの人がやって来て、30階の船内図の話をすると彼は大興奮。


「あるんですか!?」

「え? え、えぇ。ありますよ」

「消えていないんですね!?」

「え? 消えて? どういうことです?」


 自宅へと戻り、借りていたセリスさんのスマホ画面を見せると、スタッフ歓喜。


「他にも撮影している冒険家が何パーティーか居たんです。だけど全員、地上に上がって来た時にはスマホから写真データが消えてまして」

「え? でも、セリスさんのスマホには――」


 写真も動画も、ちゃんと残っている。


「てっきり30階を離れたところで消えるのかと思って諦めていましたが、もしかするとダンジョンを出ると消えるのかもしれませんね」

「まぁ、俺たちは外には出れませんから」

「えぇ。模写スキルを持つ私なんかを呼んで貰って、ダンジョン内でやってますしね。それが当たり前になっていたけれど、普通は地上の施設で依頼を受けますから」


 だから冒険家はみな、自然と地上に出て模写依頼をする。その時にはスマホからデータが消去されているという訳だ。


「12階建てというのは聞いていました。これは模写のし甲斐がありますね……かなり時間掛かりそうですけど」

「ここに泊まって行かれます?」

「出来ればそうさせてください。スマホは一台で?」

「はい。セリスさんのスマホだけです」


 スマホ一台による撮影だと、複数の模写スキル持ちで共有出来ない。

 メールで送信と言っても、いつ繋がるか分からない回線だ。

 外に持ち出せば当然消える。


 いや……方法あるぞ。


「パソコンに繋げましょう!」

「その手があった! ちょっと上から私のノーパソ持ってきますねっ」


 その間にセリスさんのスマホを自宅のノートパソコンとUSBケーブルで繋げてっと――画像をコピーして……USBメモリにもコピー。

 コピー出来ないなんてことは無かった。

 地上に出さないのが絶対条件みたいだな。


 ノートパソコンを持って戻って来たスタッフの男性は、もうひとり模写スキル持ちの女性スタッフを連れて来ていた。

 メモリを渡し、あとは二人に任せて俺も風呂へと向かう。嫌がる虎鉄を抱っこして。


『ふにゃーっ。ふぎにゃーっ!』






「で、出来ました……」

「思わず避難指示の矢印まで模写しちゃいました……」


 模写作業は明け方まで続いた。そのまま二人はリビングで熟睡。

 完成した船内図の模写は、畑で夜勤勤務中のアルバイトの人に頼んで、上の施設へと届けて貰った。


「今日の朝食は食堂の方へ行こう」

「そうですね。このまま寝かせてやらんとね」

「じゃあ朝ご飯は作らないからねぇ~。行って来ますぅ」


 虎鉄とミケのご飯も、今日は食堂で出すことにする。

 カリカリご飯は結構音が出るからな。

 大戸島さんが出勤してから、俺たちは畑へと向かった。


 26階攻略でだいぶんボムを使い果たしたし、補充しておくために――と思ったが。


「ありゃあ、化け野菜たちが少ないな」

『モケェ~』

「仲間が少ないせいか、勢いがないですね」

『ムッヒョ~』

「そうだなぁ」


 いつもなら大合唱しているところだが、今はソロシンガーのようだ。


「あぁ、化け野菜なぁ。最近は大人気で、在庫が枯渇しているんだよ。畑を増やしたいが、これ以上は敷地事情がねぇ」

「お前ら、人気者になってたのか」

『ボケェー』


 今の雄たけびはちょっとイラっとした。


『ボけ――ぎゃああああぁあぁあぁぁぁっ』

「まぁ使い勝手いいですもん、こいつら」

「浅蔵くんはいつも平然とした顔で、化け野菜をもぎ取るよね。羨ましい」

「え? 流石にもう慣れませんか?」

『ぎょあああぁぁぁぁっ』


 そう尋ねると、秋嶋さんとセリスさんが、微妙に首を横に振った。

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