第105話
通路の幅は2メートルも無い。
俺の鞭の長さは3メートルちょい。この時点でぐるぐる振り回すのは不可能だ。
対するイソギンチャクの
「くっ。俺の鞭と同程度か」
「これだと近づく前に、どうしても攻撃されるばい」
『にゃにゃっ。うにゃうにゃ気持ち悪いにゃよ』
確かに中距離や遠距離攻撃型を相手にするときには、速攻で接近するしかない。
が、それは当然、被弾覚悟でだ。
だが――
奴の触手を観察しても、特に攻撃性のある質感には見えない。
あれは獲物を捕獲するための物だ。
きっと触手で捕まえ、本体まで引き寄せてから食らうのだろう。
『俺が試す』
「くっ。すまん、分身俺」
『スキルは有効活用してなんぼのものだろう』
「え? え? なんなん? 何を浅蔵さん同士で分かりあっとるん?」
同じ
分身のひとりがイソギンチャクへと特攻し、そして捕まった。
三匹のイソギンチャクに同時に絡めとられ、ずるずると奴らへ向かって引き寄せられる分身。
『麻痺無し、毒無し! 虎鉄、念のため鑑定してくれ』
『にゃ? するにゃよ?』
「ステータスに異常が出てないかチェックしてくれればいいぞ」
『にゃー……なんもないにゃよ?』
よし! やはりただの捕縛用触手だ。
対鞭戦では、絡めとられた場合の対処法がいくつかある。
1:相手が自分より非力であれば、引っ張れ。
2:絡めとられたら、わざと相手に向かって突っ込む。
3:強引に引きちぎる。
今回の相手はイソギンチャクだ。
力はどうだか分からないが、一歩も動かないところを見ると、もしかして床に吸着しているのかもしれない。
そうなると引っ張って剥せるか微妙なところだ。
3は……俺にその怪力があるとも思えないので却下。
となると2だ。
ここで気を付けなければならないのは、手足を絡め取られない様にする事だ。
だから――
「浅蔵さん!?」
分身を手繰り寄せようとするイソギンチャクに近づくと、そのうちの一匹が二本目の触手を放ってきた。
その触手に向け、俺は左腕を突き出す。
するとイソギンチャクは、巻き付きやすそうな腕にサっと触手を伸ばした。
くっ。軟体動物め。こんな狭い通路で自由自在に
触手にも神経が通っているからって、好き勝手に動かしてんじゃない!
羨ましい!
「だがな――同じ鞭使いだからこそ、その弱点も俺は知っている!」
「あ、浅蔵さん?」
左腕に絡んだ触手をぎゅっと掴み、そして全力で走った。
同時に絡めとられている分身と、無事な分身も走る。
俺たちの意図を知ってか、虎鉄も疾走した。
イソギンチャクとの距離は僅か3メートルたらず。
『"奥義・爪磨ぎスラッシュ"!』
「図鑑インパクト!」
『え? 何それちょっと恥ずかしいんですけど』
『本体がはっちゃけた』
「うわあぁぁっ、五月蠅い五月蠅い五月蠅いっ」
ちょっと虎鉄に倣ってみたかったんだよ!
いいじゃないか!
三匹のイソギンチャクは、虎鉄の爪で引き裂かれ、図鑑による殴打で潰れ、分身の短剣を突き立てられ――それぞれ絶命した。
『にゃっ!』
「ん? どうした虎鉄」
倒し終え、虎鉄がふと飛び跳ねる。
まさか美味しそうな物がドロップしたなんてことは……無い、よな?
『シュババは、10メートル飛ぶにゃ。忘れてたにゃねぇ』
……あぁ、そうだな。10メートル飛ぶのか。ふーん。
中距離攻撃の最大の敵は、遠距離攻撃だった。
くっ。やっぱり虎鉄が最強なのか!?
可愛さなら既に最強だ!
「あっ、やんっ」
「『ん?』」
虎鉄のボケに和んでいると、何やら後ろからドキリとするようなセリスさんの声が。
ま、まさか……。
俺三人がシンクロ率200%の勢いで振り向く。
そこに奴は居た!
触手を伸ばし、彼女の――セリスさんの真新しい装備、ミニスカ着物の裾を捲っている!
下に穿いたスパッツが眩しすぎる!
デザイナーさん、GJ!
イソギンチャク、GJ!!
「あっ、やっ、浅蔵さんっ、助けてぇ」
前言撤回。
「貴様っ、いやらしい手でセリスさんのお尻に触るんじゃない!」
俺だって
俺だって触ったことないのに!!
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