第154話

 竜神が……止まった。

 動きを止めたんじゃない。固まったというべきか、とにかく止まった。

 羽ばたき、舞い上がったそのポーズのまま。


「虎鉄、今のスキルは!?」


 ぴょんっと跳ねて右手を突き上げたポーズで、虎鉄も止まっていた。

 なんだこれ……なんだこれ!?

 説明してから使ってくれよ!!


「り、竜神を落とすぞっ」

『お、おうっ』


 鞭を振るい、分身と協力して竜神を地面へと叩き落とす。

 抵抗はなく、あっさり落とせた。


「浅蔵さんっ。虎鉄の頭の上にデジタル時計が浮かんどるばいっ」

「時間停止系かっ。残りは?」

「16秒!」

「奴の口ン中になんか突っ込めっ」

「叫ばせなきゃいいんだっ。なんでもいい!」


 なんでもいい……じゃあ──。


 リュックからカボチャ爆弾を取り出し、爆発しないようそうっと奴の口の中へ。


「じゃんじゃん入れろ浅蔵!」


 じゃんじゃんって、ミニサイズになっても拳大の大きさだぞこのカボチャ。

 いいや、隙間にキュウリ刺しとこう。


「残り3秒ばい!」

「逃げろっ」


 五つ入れたところで時間切れ!

 竜神と、そして虎鉄の方から「カチッ」という音がした。


『にゃっ』

『グチュギチャブオバッ──』


 金切り声失敗。

 いや、やった俺が言うのもなんだが……奴の口の中が酷いことになってる。


「虎鉄。効果時間は!?」

『にゃー。45秒だけにゃー』

「短いが、やつが叫ぶのを妨害するには十分だな。時間を止める系?」

『にゃー。対象ひとりとあっしの時間を止めるにゃ』


 術者本人である虎鉄の時間も止まる。しかも対象ひとり限定。

 ボス単体戦ならいいが、取り巻きつきの場合にはリスクもデカいな。


「再使用までは?」

『300秒にゃー』

「連続は使えないか。くっ」

「いいえ、大丈夫ばいっ。さっきのカボチャのせいであいつ、顎の骨が吹っ飛んだけん!」

「おぉ!?」


 言われて竜神を見ると、確かに口の周辺の皮膚が……うっ、ちょっとグロい。

 骨とか筋とか、見えちゃってるよ。


 だがこれでもう叫ぶこともできないだろう!

 あの光弾はどうだ?


「念のため、弾には注意しろっ」

「おおう! "ガード・ボディ"!」

「氷付与します! 浅蔵先輩たち、尻尾お願いっ」

『オッケー。せぃっ』

「飛んで逃げようとしてるぞっ」

「やらせるか!」


 鞭を振るい、奴の破壊された顎──そこに狙いを定め巻き付ける。

 この鞭は浅蔵スペシャル・紫電ウィップ!

 ボタンを押せば電流が流れ、剥き出しになった奴の筋肉へと直接ダメージを与えた。


 ビクンっと体を跳ねさせた竜神は、飛び上がることができずに10本の鞭で縛られた。


「"氷付与"!」

「木下、下がれっ──"ライトニング"!」

『あっしもいくにゃーっ。"シュババッ"」


 分身の持つ鞭も全て『浅蔵スペシャル・紫電ウィップ』。

 氷属性となった奴の体に、いったいどれだけの電流が流れたか。

 やがて体から煙が上り、鞭で締め上げていた翼が一枚、根本からちぎれた。


『──アァアァァァァッ』


 引き裂いた傷口に芳樹が渾身の一撃を見舞う。

 翔太と春雄はともに、遠距離から同じ場所へ矢と弾を撃ちこみ傷を広げた。

 そうこうするうちにもう片方の翼も──


 力任せに暴れようとする竜神は、俺と10人の俺がしっかり押さえつける。

 さっきまでとは奴のパワーが違う。

 それでも油断するな。全力で、常に全力で奴と対峙するんだ!


「お願い、早く倒れてっ!」


 セリスが声を上げ飛び込む瞬間、彼女に向かって振り向こうとする竜神の目がカッと光るのが見えた。

 

 咄嗟に鞭を引く。

 引いても奴はビクともしない。当たり前だ、四方八方から分身が引っ張っているのだから。

 だから引いた。

 俺が奴に向かって飛び込むために。


 左腕を伸ばし、奴とセリスの間に図鑑を──


 ギンッ


 そんな音と一緒に奴の目から真っ赤な光線が放たれた。

 それは図鑑の表紙に当たり、何事もなく消えてなくなる。


『グッ──』

「終わりにしろっ」


 そのまま俺は、思いっきり図鑑の表紙で竜神の顔面をパンチ。


『フギッ』


 顔が横にずれ、そこに図鑑の角を叩き込む。


「ああぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」


 それから……どうなったのか……


 ただ殴り続けた。

 もう終わりにしたい。

 ただその思いだけが強く。


「浅蔵さんっ。もう死んでますっ。浅蔵さん!?」

「──あ……」


 そう。

 奴は真っ赤な血の海の中で動かなくなっていた。




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