第155話

「おわ……た?」

「はい、終わりました」

「そ……か……」


 左手に持つ図鑑は血まみれで、思わずカバーのボタンを外して投げ捨てた。

 が、地面に落ちる前に消える。

 次に取り出したとき、また血まみれなんてことはないよなぁ。


【おめでとう。残念だったなぁ、残り時間6分──もうちょっとだったのに】


 声がした。

 いつものアノ声だ。

 女の子のようなマシンボイス。感情はどこにも感じられない。


【やっぱりその図鑑持ちかな。やっかいなスキル用意しちゃったなぁ】


 図鑑、俺のことか?


【まぁユニークスキルも浪漫だもんね。ま、いっか】

【それじゃあ君たちにご褒美をあげよう】

【まずはこっちに来てもらおうかな】


 声が終わると同時に、俺たちは別の場所に立っていた。


「ど、どこだ?」

「おい、動き回るな。全員集まれ」


 芳樹の言葉に全員が一カ所に集まる。


 薄暗く、何もない空間。

 少し先は漆黒に包まれて何も見えない。

 足元の感触からしてコンクリートかなにか、硬くて平らな場所のようだが。

 見上げても星はなく、当然太陽も雲も月すら見えななければ電気もない。そもそも天井があるのかどうかも分からない暗さだ。


【ようこそ、人類代表の諸君。まずはおめでとうと言っておくよ】

「祝ってくれるなら、姿を現せ!!」

【福岡02ダンジョン完全攻略の褒美をあげるよ。次の中から一つだけ選んでね】

「人の話を聞けよ!」


 芳樹の質問を無視し、声は話を進めようとする。

 すると舌打ちのようなものが聞こえた。


【今は説明の時間。君、うるさいから黙ってて】

「出てきて説明すればい──」


 そこから先は芳樹の口パクのみ。

 サイレンス系スキルか?

 木下さんが心配そうに芳樹に駆け寄る。芳樹のほうはどうやっても声が出せないのを理解し、口を動かしのを止めてしまった。

 大丈夫かと小声で聞くと、芳樹は頷く。


【じゃあ説明を再開するよ】

【褒美は五つ。その中から一つだけ選んでね】

【あと、選んだあとは裏ステージは失われるから】

【大丈夫。君たちは無事にここから出してあげるから】


 褒美……ただの褒美か?

 それだけなのか?


【五つの選択肢はこれ──】

【1完全攻略の証として、開示するスキルから好きな物を三つプレゼント】

【2完全攻略の証として、開示する装備アイテム類から好きな物を三つプレゼント】

【3ダンジョン人の解放】

【4このダンジョンの任意の階層を完全開放。以後モンスターは一切湧かないよ】

【5ダンジョンの完全消滅】


 ダンジョン人の解放!?

 思わず隣に立つセリスの手を握る。


【ボクも暇じゃないから時間はかけたくない。10分で決めてね。その間ぐらいなら質問を聞いてあげるよ】


 10分!?

 いや、それだけあればいろいろ聞ける。


「おい、姿を見せろ!」


 そして芳樹がまた叫ぶ。どうやら声が出るようになったらしい。


【さっきも言ったでしょ。ボクはそっちには存在しないんだって】

「芳樹、落ち着け。質問内容を変える。こちらの世界には存在しないということは、別の世界の住民なのか?」


 木下さんに目配せして、芳樹を宥めて貰うことにした。


【そういうこと。正確には……まぁぶっちゃけると、ボクは異世界の神のひとりだよ】


 ……神……はは。もうほんと、ファンタジーだな。

 いや、そもそもダンジョンなんてものが、10年以上前の地球人にとって、ファンタジーだったんだ。

 神様なんて出てきても不自然じゃないだろう。

 気になるのは、何故異世界の神がダンジョンを?

 この世界の神との間で問題にならないのか?

 だって、つまり他人の世界に介入しているってことだし。


「この世界の神の許可があってダンジョンの生成をしているのか?」

【……君たちの世界の神は、地球という惑星を放棄したよ。理由はね、君たち人類があまりにも星を汚染しすぎたから】

【その惑星はこれまでも何度となく、滅亡の危機に瀕していたんだよ】

【ほら、預言者がいたじゃない。地球滅亡を予言した】


 予言?

 あぁ、1999年がどうとか、2012年とか?

 映画でもあったな。

 他にも結構あるようだけど、そこまで俺も詳しくはない。

 

【それね。全部本当は当たってるの。だって神の啓示だもの】

「はぁ?」

「なんかいっきにきな臭い話になってないか?」

【ほんとほんと。嘘じゃないって。ボク神だもん】

【それでね。その世界の神様はそれなりに頑張ったんだよ】

【だけど君たち人類は、そんな神の努力を無駄にするぐらい、環境を破壊していったんだよ】

【そりゃもう彼女、カンカンだったさ。それで地球を放棄しちゃってね】


 環境破壊っていう点は、まぁ事実だよな。


 神に見放された惑星は、死を待つだけ。しかもその死が早くに訪れる。

 俺たちが寿命を全うできないぐらいには、早いのだと声は話す。


【人類はまぁどうでもいいんだけどさ。でも地球上の他の動植物たちが可愛そうだからね】

【だからボクが忙しい合間を縫って、地球存続に力を貸してあげたんだ】

【ボクはダンジョン神。ダンジョンを作って、君たち人類の数を調整していたんだ】


 人類の数を……つまり大量虐殺じゃねーか!


【酷いなんて思わないでね。君たち人類も同じことを繰り返して来たでしょ。そう、人類の歴史は虐殺の上に成り立っているって、忘れないでね】

「くっ……そ、それで、これからどうするつもりなんだ!?」

【答える前に。褒美はちゃんと考えてる? 残り時間4分だよ】


 もうそんなに!?

 

 仲間を振り返る。

 

「ねぇ神様。褒美なんだけどさ。なんか言葉足りないよね?」

【そうだね】


 翔太の質問に神はあっさり答えた。

 言葉が足りない……?


「1と2、4を選んだ場合、ダンジョン人になった人は?」

【ダンジョン人のままだね】

「じゃあ3のダンジョン人を選んだ場合、このダンジョンは?」

【そのまま存在し続けるし、モンスターもそのまま。あ、どの選択を選んでも、裏ステージは消滅するから。二度とこのチャンスは来ないよ】


 つまり今ここでどれを選んだとしても、他のパーティーが再チャレンジなんてことはできない、と。

 だが選択すべきは5のダンジョン完全消滅じゃないのか?


「5を選択すれば、俺たちは解放されて、ダンジョンは消滅するんだな? 他に何もないんだな?」

【あるよ】

「あ、ある!?」

【そう。ダンジョン内にだって生命はいるんだ。彼らだってただ死を待つのは嫌だろう。生き残るために、行動をするはずさ】


 ダンジョン内の生命……モンスターのことだろ?

 生き残るための行動ってまさか!?


「ダンジョンから出てくるのか!?」

【ピンポーン。スタンピードって言うんだってね】

【5を選択した場合、君たちを地下50階に戻してからきっちり60分後に、作業は開始するよ】

【まずは地下1階から。上層階から順に地上へ押しつぶす感じでやっていくんだ】

【だから中にいた生命は、みんな生き残るために──】


 ダンジョンの外に逃げ出す……。


【そろそろ時間がなくなるけど?】

「最後にもう一つ。5の場合、ダンジョン人はどうなる?」

【5を選択した時点で、ダンジョン内に生息する全て・・の生命は、ダンジョンから出られるようになるよ】

「ダンジョン人もってことか?」

【そうなるね。はい、残り1分。時間内に選択しなかったら、ご褒美ゼロで放りだすからね】


 は? そんなのありか!?


「問題ない。もう俺たちの選択は決まっているからな。な?」

「そうだね。っていうかこれ一択でしょ」

「準備期間がない。ならそれだろう」

「次は考えなきゃいけませんね」

「会長とかと相談だよねぇ。その辺り芳樹お願いね~」

「分かってるよ」

「10分丸々質問コーナーだったわけだ」

「そうですね」


 決まって……え?

 神って奴の話をしているときに、もう相談していたのか?

 いやでも俺やセリスは加わってない。


 まさか5を選ぶのか?

 でもスタンピードだぞ?


「俺たちが貰う褒美は──」

「「3!」」






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