第153話

 活路を見いだせた。

 そう思ったけれど、効果があるのはそれぞれ必殺技だけ。通常攻撃はまったく歯が立たなかった。

 俺の電流バリバリ鞭は省吾や芳樹も感電するので、使えない。


 それでもコツコツと攻撃を繰り返す。

 誰ひとりとして死ぬものか。死なせるものか!


『グ、ギ、ギッ……』

「くそっ。飛び上がりやがって!」


 省吾が語気を荒げて忌々しそうに空を見上げる。

 竜神が舞い上がったのはわずか3メートルほどの高さ。

 それでも省吾には届かない。


「引きずり下ろすぞ!」

『『おうっ!』』


 俺全員で鞭を振るい、奴に絡めて引っ張る作戦だ。

 だが──


『キイィィィィィィィッ』

「うぎっ──」


 悲鳴か?

 頭が割れそうなほど響く甲高い声。耳を塞いでも頭に響く。

 まるで黒板に爪を立てたような、そんな深いな音だ。いや、もっと質が悪い。


 全員がその場で膝をつき耳を抑える。眩暈を起こしているのか?

 俺はと言うと──地下10階のキングラットの音痴耐性がついていたおかげか、不快に感じる程度で済んでいる。

 分身も同じようだ。


『キイィィィ──』


 竜神の声が止むと、奴は口を開けて省吾に狙いを……マズい!


「省吾!」


 どんっと体当たりをしてすぐに図鑑越しに盾を構える。

 ゴイィンっと音がして光弾が天高く跳んでいくのが見えた。

 ま、間に合ったか。


 と思った次の瞬間、ガキっと音がしてあっという間に俺の体が宙に浮く。

 持ち上げられた!?


「くそっ、離せ!」

『ニィ』


 奴が……笑った……って、落ちる!?


「ひっ」


 背中から真っ逆さま──そう思ったが、反射的に身をひるがえし、手にした盾を投げ捨て図鑑を地面に向け広げた。

 落下の衝撃も、和らげてくれるよな!?


 ぽす……


 そんな感じに地面へと着地。

 ず、図鑑は最強図鑑は最強図鑑は最強マジ怖かった!


『グギ……ギエェェッ!』


 怒った?

 知るか! こっちだって命が掛かってんだ。素直に落下ダメージなんて貰う訳ないだろ!!

 

 怒り狂った竜神が急降下し、俺──ではなくまた省吾を!

 奴の声に中てられ、まだ回復していない省吾たち。

 そこに分身が飛び込んできて省吾を庇う。

 竜神の爪の一撃で引き裂かれ、白煙になって消滅した。


 やばいだろおい!

 まだ誰も立ち上がってないんだぞっ。


 次々に分身が省吾を庇って飛び込んでいくが、爪の一撃、蹴りで一発離脱。

 

「省吾っ、しっかりしろ!」


 温泉に浸かれば治るか?

 鎧を着こんだ省吾は重い。引きずるようにして温泉へと投げ入れる。


「ぷはーっ!? や、奴は」

「分身がなんとかしてるが……うわぁ、残り二人だ」

「すまんっ」


 温泉から駆け出た省吾が、自分の盾を拾い竜神と対峙する。

 そのタイミングで俺は再び分身し、倒れたままの仲間を温泉へと運ぶ。

 全員が復活するのにそう時間は掛からなかった。だがほぼ同時に竜神が叫ぶ。


『キイィィィィィィィィッ』

「くっそ、またかよ! これじゃあ単なる時間稼ぎじゃねーか!」


 まずは急いで省吾を温泉へ。その間は分身が竜神と対峙する。

 省吾が復活し、今度は他のメンバーを。

 全員が復活すると竜神が叫ぶ。


 なんなんだよこれ!

 残り時間──もう40分切ってるじゃねーか!


「これ以上邪魔すんな!」

『──にゃか』

「ん?」


 近くで頭を押さえている虎鉄が唸る。


『──にゃか。あ、し。スキル……取る、にゃか?』

「スキル? スキルって、何を取るつもりなんだ?」


 苦しむ虎鉄を抱き上げ温泉へと走った。

 虎鉄は何をしようとしている?

 こいつは賢い奴だ。戦闘においても常に的確に敵の弱点を突く。

 猫=肉食動物として、野生の勘って奴なんだろう。


 その虎鉄がこの場面でスキルを取ろうとしている。

 例のポイントを貯めて貰えるっていうスキルだろう。


 ざぶっと虎鉄ごと温泉へと入り、俺自身の肉体疲労も取った。

 そして虎鉄は──


『スキル取るにゃかっ。あいつ止めるスキル取るにゃか?』


 目を輝かせ、早口でそう言った。


 奴を……止める?


「出来るのか虎鉄?」

『できるにゃー! ポッチするにゃよー』

「あぁ、任せる」


 にまぁっと笑う虎鉄。

 その頃には省吾が、芳樹が、セリスが、分身によって温泉に入れられ回復していた。

 

 竜神と対峙する省吾。

 残りのメンバーが分身に抱えられて温泉へと向かっている。


 奴はまた、全員が回復したタイミングで叫ぶのだろう。イラつく。


 案の定、翼を広げ上空へと舞い上がろうとした。


 その時──


『"ターイム・ストーップ"にゃ!』


 虎鉄の声が響いた。

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