第63話

 化け野菜たちとの再会を果たし、彼らを全部収穫。店舗外には園芸用レジがあって、そこにあった買い物袋に種類ごとに詰め込んで4畳半へ。

 周囲の感知に反応がないので、店舗外にあったベンチに座ってちょっと休憩タイムだ。


「連続使用は出来るみたいだな」

「これなら好き時に好きな場所に行けますね」

「あぁ。ただもう一つ確認しなきゃならないこともある」

「もう一つ?」


 ベンチに座りながら俺は図鑑を開き、マッピングされていない所が大半を占める25階層の、真っ白な部分をトントンしてみた。

 すると脳裏に【マッピングされていない所には行けないよ】と声が響く。

 やっぱりか。


「浅蔵さん?」

「あぁ。マッピングされてない所にも行けるのかなって。確かめたんだけど、あのイラつくボーカロイドの声で、ダメだと言われたよ」

「そうなんですか……地図上ってことは、まだ地図が載っていない階層は無理やろうと思っとったけど」

「うん。となると、少しずつでも下層に潜って、地図とマッピング範囲を広げないとな」


 拡張されて地下50階層まで深くなったダンジョン。

 最下層まで潜って何があるか分からないが、ダンジョンの謎を解くためには行くしかない。


「さて。じゃあマッピング範囲がどのくらい広がったか、見に行くか」

「はい」


 25階へと降り、通路をそのまま進む。

 ステータス板を見るために下りた程度なので、25階の地図はほとんど真っ白だ。唯一書き込まれているのはここと、それから車で落下した付近だけ。

 通路を進んで目印になりそうな分岐点が目視で見えたら、次はそこがどのタイミングで図鑑に表示されるのかと確認。


「どうやら10メートルぐらいに距離が伸びているな」

「浅蔵さんを中心にですか?」

「そ。おかげで壁の向こう側の、更に向こう側の壁も映るようになったよ。ほら」


 と図鑑を差し出すが、忘れていた。俺以外の人は地図を見れないという事を。

 コピーしてあげれば見れるようになるけど、こんな未完成状態でコピー機能を使ってDBPを消費するのは勿体ないな。


「マッピングを広げていきたいけど……2人じゃあ流石に危険かな」

「いえ、行きましょう。無理せず一体ずつ倒していけばいいじゃないですか」


 うぅん、どうしたものか。

 とりあえず戦ってみて様子を見るか。タイミングよく感知にも反応あるし。


「じゃ、まずは実戦で確かめてみよう」


 右手に鞭、左手で閉じた図鑑を構え、俺は通路前方を注視する。

 枝分かれした通路の先から現れたのは、ビョンビョンと跳ねてやってくるカンガルーだ。

 25階層の天井は他より高い気がするけど、こいつらの為なんじゃなかろうか。

 優遇されてんな。カンガルー。


 そのカンガルーは俺たちの姿を見つけると、怒り狂ってファイティングポーズを決めた。

 だが待って欲しい。奴には絵に描いたようなポケットがある。ポケットがあるって事は雌だろ?

 でもファイティングポーズを取るって事は、雄がやることじゃね?


 ・ ・ ・ 。


「雌雄同体なのか!?」

「え? え? ど、どういうことなん?」

「いや、あのカンガルーは雌雄同体なんだ!」

『うがぁぁっ』


 あ、なんか怒り出した。違うのか?

 後ろ足で地面を蹴って跳躍するカンガルーの上半身に鞭を唸らせると、奴の勢いを利用してそのまま壁にズゴン。

 目を回している隙に、今度は手足を鞭で締め上げる。それから安全を確保しつつ、図鑑の角で殴打した。


 うん。1体なら俺ひとりでも戦えそうだ。


「相変わらず、図鑑の使い方間違っとるね」

「え? 何か言ったかい?」

「なんもなかとよ」






 カンガルー2体を、俺とセリスさんとで1体ずつ処理。複数なら化け野菜ボムであれこれやって倒していった。

 明日のこともあるので2時間ほどで帰宅したが、俺のレベルは1つ上がって22に。セリスさんは2つ上がって19になっていた。


「図鑑のおかげで、短時間でも効率よく攻略出来るようになりましたね」

「あぁ。明日はマッピング出来た範囲の一番端に飛べばいいんだしな」


 明後日は武君も仕事の日だ。どうせなら芳樹たちにも声を掛けて、いっきに進むか。


「明後日は朝から攻略しようと思うんだけど。付き合ってくれるかい?」

「つき……はい、よろこんで!」

「ありがとう。じゃあ芳樹たちにも声を掛けておくよ」

「え……」

「よし。じゃあ帰ろう」


 サクっとダンジョン内自宅の裏手に転移した俺たちは、その後、それぞれ風呂に入って休んだ。

 どことなくセリスさんの元気が無かった気がするが、疲れたんだろうか。でも俺のスキルがあるし、疲れ知らず状態だと思うんだけどなぁ。

 まぁ久々の本格的戦闘だったし、精神的な疲れが出たのかもしれない。

 無理に彼女を連れまわすのも悪いし、今後のことはちゃんと話し合っておかないとなぁ。


 なんてことをベッドで考えながら、気づけば意識が飛んで翌朝に。


 朝から元気いっぱいの武くんに、他言無用と念を押して、大戸島さんからも脅迫して貰い図鑑スキルの事を説明。


「え? じゃあ俺も25階にぐがっ」

「タケちゃん調子に乗らないの!」

「いってーよ瑠璃」


 いきなり25階に行けると思ったのかこの子は。

 こりゃあ当分2階までだなぁ。


 しかし武くんには武くんなりに焦りたい気持ちもあったようだ。


「俺、早くレベルあげて……瑠璃の傍に居て守ってやりたいんです」

「守ると言っても、周辺はフェンスで囲ってるし、たまにバッタが入って来るけど、彼女の敵じゃないだろう」

「1階はそうっすね。でも……」


 大戸島さんが攻略の為に下層へ降りると思っているのかな?

 上には行きたいだろうけど、下に行きたいようには思えないんだけどなぁ。


「また、瑠璃の足元がぽっかりと穴が開いて、あいつが落ちるんじゃないかって……不安で」

「あ……そういうことか」

「俺が強くなっていつでも傍に居れば、落ちるときは一緒です! 今度こそ俺は瑠璃を守りたい。守らなきゃダメなんだっ」


 だからある程度レベルを上げたら、その後は冒険家としての活動は控え、彼女の傍に居る。そう武くんは話す。


「相場くん、意外としっかり考えとるんやね」

「意外ってなんだよ時籐」

「なんでもないばい」


 まぁ……そういう事なら協力しない訳でもない。

 それに彼が冒険家活動を控えるということは、その分俺がダンジョン攻略をする時間も大幅に増える。


 じゃあ今日はちょっと頑張って、地下3階のほうに行くか。

 ただ3階って、アレが多いんだよなぁ。




「いやぁっ」

「よっしゃー! 新しいモンスターだぜぇ!」

「4階っ。4階に行きましょうよ浅蔵さんっ。4階じゃなきゃ、いやあぁぁっ」


 3階に転移した途端、カサカサと地を這うソレを見てセリスさんが悲鳴を上げた。

 大人の両手サイズほどあるソレ……スパイダー・ミニを見て。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る