第95話
「もうあんた馬鹿なん? 浅蔵さんに勝てる訳ないやろっ」
「痛ってーよ姉ちゃん。姉ちゃんを泣かせる男がおったけん、ぶっ倒そうと思っただけやんっ」
突然玄関から入って来た金髪碧眼のイケメンくん。
不法侵入かと思って、つい鞭を飛ばして足を絡めとり、そのまま床に叩きつけてしまった。
そのイケメンくんが……。
「さぁ謝りなさいハリス」
セリスさんの弟、ハリスくんだった。
「なんでボクが? 怪我させられたん、こっちばい」
「あんたがチャイムも鳴らさんと、突然入って来て飛び掛かったっちゃろ!」
「姉ちゃん泣かせとったやん!」
「な、泣いてないっちゃ!!」
うん。さすが姉弟。今どき若い子だと珍しい方言丸出しの喋り方だ。しかも二人とも外国人寄りの顔立ちだし、違和感が凄い。
セリスさんや大戸島さんのご家族は時々ここに来ていたが、二人とも上のダンジョン入り口で面会していた。家族の居ない俺に気を使ってだ。
二人のご両親は直接お礼を言いたいと、一度会ったことはある。
その時セリスさんの弟ハリスくんは、学校の中間テストで不在だったので見てはいない。
これが初顔合わせになったんだが……。
なんてタイミングで来ちゃうかなぁ。
「きさん!」
「浅蔵さんにきさんとか言わんと!」
「きさん! 姉ちゃんに手出してねーやろうなっ」
……。
「おいーっ。なんで目ぇ逸らしとん! って姉ちゃんまで目ぇ逸らすんか!?」
手を出す――それってどの辺りまでなら該当しませんか?
手握ったとかハグしたとか、それはセーフですか?
「だ、だいたいハリス、何しに来たと?」
「もうすぐクリスマスじゃん! やけんツリー持って来てやったんばい。感謝しー」
「え? クリスマ――」
セリスさんがリビングの壁に掛けてあるカレンダーを見る。つられて俺も見た。
おぅ……11月も残すところあと1日だったのか。明後日からついに12月スタート。
「もう12月かぁ」
思わず呟いた言葉に、セリスさんも「12月ですねぇ」と続く。そしてハリスくんが「12月なんだよ!」と声を上げた。
彼は玄関へと戻ると、置いてあった荷物を持ってリビングへと戻ってくる。
「ツリーだぜ!」
うん。まぁ見れば分かるよ。
しかしまぁ、180センチと随分大きなツリーを買って来たもんだ。
更に玄関へと戻ると、また違う荷物を持ってやって来た。
どうやらツリーを飾るオーナメントやモールの類のようだ。随分いっぱいあるなぁ。
「飾ろうぜ姉ちゃん!」
「うわっ。いっぱい買って来すぎ。どうせ飾るなら綺麗に飾らんと。浅蔵さんも一緒に飾りましょ」
「じゃあお言葉に甘えて」
「あんたツリー組み立ててよ」
「浅蔵さんをあんた呼ばわりしなさんなっ」
セリスさんに怒られ、それでも舌を出して悪びれた様子もなく。
二人を見ていると、どことなく姉の事を思いだしてしまう。
俺も姉貴から、よく怒鳴られてたっけ。
「ハリスくんは幾つなんだい?」
「砂糖は二つで」
「……いや、意味分からないし」
「その子16なんよ。子供っぽいやろ?」
いやぁ、外見だけ見るともう少し上にも見えなくはない。寧ろセリスさんとは双子の姉弟だと言われても納得できてしまうぐらい、整った顔だ。
だけどまぁ、中身は確かに子供っぽいのかもしれない。
そうか。16歳か。
つまりセリスさんとは二つ差で……俺と姉貴も同じ二つ差だった。
家族……か。
「ヘイ、ユー! ツリー箱からだして組み立ててくれよ」
「浅蔵さんって呼ばんね!」
「浅蔵でいいよ。それか豊でもさ」
「じゃークラで」
え、なんでそうなるの?
『にゃーっ。これなんにゃー?』
「うわっ! 猫喋っとるやん!? なんでなんで?」
『にゃー。あっしはケットシーにゃー。あさくにゃー、これ誰にゃ?』
セリスさんの部屋に逃げ込んでいた虎鉄が出てきた。ミケはそのまま寝たんだろう。
「セリスさんの弟でハリスくんだよ」
『おにょうにょ? あさくにゃー、これはなんにゃー?』
こんな調子で虎鉄に『なんにゃ』と質問攻めされつつ、俺はハリスくんが買って来たクリスマスツリーを組み立てた。
ケーキはどうするか――
チキンは、料理は――
そんな会話をしながら完成したクリスマスツリーは、オーナメントがこれでもかとぶら下がった派手な物になった。
キラキラ光るボールを、虎鉄が猫パンチをして遊んでいる。
「姉ちゃんケーキどうするよ。ボク買ってこっか?」
「んー、瑠璃が作るのかなぁ」
「でもお店も忙しいだろうし、ケーキぐらいは外で買って楽をさせてあげたいねぇ」
「じゃあ買って――「待った!」なんだよクラァ」
クラって呼ばれ方は初めてのことで、ちょっと新鮮だな……。
「ケーキは武くんが買ってきそうな予感がしてなぁ。一応確認してからの方がいいんじゃないかな」
「そうですね。他の料理にしても、瑠璃と相談してからやないと」
「今はまだ食堂の方で仕事中だろうから、終わったらみんなでどうするか話し合おう」
もう昼だ。今頃忙しくしてる頃だろう。
そう思っていた。
「それがぁ、今日は朝の仕込みだけだったんですよねぇ」
奥の部屋から出てきたのは……
「お、大戸島さん?」
「る、瑠璃!? いつから部屋にいたのっ」
「うん。えぇっと……二人が帰ってくる少し前から?」
つまりそれって……俺の一世一代の告白が聞かれているかもってこと!?
い、いや。壁越しだからセーフかも?
「うふふぅ」
にまぁーっと口元を歪めてこちらを見る大戸島さん。
あぁ、ダメだ。
全部聞かれてやがる!
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