第144話:図鑑は最強。

 ダンジョンドラゴンが階段から離れた。

 その隙に中にいたメンバーが飛び出し、戦闘ポジションにつく。


 せっかくセーフティーゾーンの近くなんだ、ここを生かさない手はない。

 長期戦になるようなら疲労も溜まるだろう。その場合、安全に休める場所にするという訳だ。

 回復スキル持ちは4人。この中にセリスさんも含まれるが、ひとりは階段で待機し、戦線離脱が必要なほどの重傷者を治癒してもらうことになる。


 防御力の高いメンツがドラゴンを四方から囲み、前衛の火力職が間で技を振るう。

 

 ドラゴンはでかい。

 中距離ポジションの俺の位置も、奴にとっては手の届く範囲。

 ならいっそ近づいて、仲間が間に入って来ない位置からビームウィップでしばくほうがいいだろう。

 

 分身は四方八方に散らばり、外から来る雑魚モンスターの感知&処理班だ。


 そうして戦いは始まった。


「"ビーム・ウェポン"!」


 ブォンっと音と共に鞭が光る。

 レンガゴーレムの表面を、数発で破壊する威力は──うん。ドラゴンの鱗をほんの少し焦がした程度で終わった。

 ビームを解除して、浅蔵スペシャル・フェイアブレスウィップに持ち替えボタンをポチっと。


 ゴオオォォォッという音と共に火が噴き出し、鱗を焦がす──いや焦げない。


「ビームのほうがまだマシってことか」

「まずはこの鱗をどうにかしないと、全然刺さらんばい」

「聖属性でもダメか?」

「ダメぇ」


 セリスさんのホーリー薙刀もまったく歯が立たないようだ。

 見れば他の仲間たちの物理攻撃も、鱗を傷つけることすらできていないよう。

 甲斐斗の電撃魔法は?


 後衛メンバーの攻撃対象は、ドラゴンの胴の上半分だ。

 大きいおかげで、味方の頭上から敵を攻撃できるようになっている。

 気を付けるのは──


『うにゃにゃっ! "奥義・爪とぎスラッシュ"にゃあぁっ』

「いでっ」


 すぐ人の頭を踏み台にしてジャンプする虎鉄だ。

 こいつに当てないようにしなきゃならないんだが……むしろ虎鉄が後衛メンバーの攻撃の隙間を縫って跳んでいるような?


「浅蔵!」


 誰かが呼ぶ声がして振り向くと、巨大なしめ縄……いや、ドラゴンの尻尾!?

 奴の腹の部分で交戦していたのに、届くのかよ!


 しゃがんで躱そうとして、タイミング悪く頭上から虎鉄が弧を描き落下してくるのが見えた。


『んにゃ!?』

「虎鉄!」


 一か八か。

 図鑑は最強。図鑑は最強。図鑑は──


 右手を伸ばし、左手に装着した図鑑のページを開いて構える。


 バシィっと、紙を弾くような音が鳴った。

 少しだけ体がぶれ、軽く押されたような感触が伝わる。


 図鑑は……最強!?


 ドラゴンの尻尾攻撃を防いだその手で、図鑑をパタリと畳んで角で殴打!


 ベキッ

 バキャッ


 っと、硬いプラスチック板でも破壊するような音が鳴り、そして三打目でついに鱗が割れた!


『ギャオオォォッ』


 痛いのか?

 ドラゴンが咆哮したが、奴のヘイトは省吾がガッツリ取っている。

 それに割れた鱗は大きくはない。尻尾だからだろうな。

 手のひらサイズの鱗が一枚割れた程度では、さすがにそこをピンポイントで攻撃するのは難しい。

 なら──


「セリスさん、虎鉄! 胴の鱗を破壊するから、そこに攻撃を集中。ただし俺が鱗を剥がすまでは体力温存。ついでに攻撃が飛んで来たら教えてくれっ」

「わ、分かりました」

『にゃー。休んでいたらいいにゃか~』


 あぁ、うん。あっさりそこに座ってくつろぐのな。

 でもまぁ毛づくろいはいいことだ。


 周囲の警戒をセリスさんと虎鉄に任せ、俺は一心不乱に目の前の鱗を殴った。

 胴の鱗は大きく、50センチ四方もある。

 それを殴って殴って殴って。


 鱗は裏面が全て肉とくっついているわけじゃない。

 上のほうだけが皮膚にくっついたタイプの鱗だ。ならそこを重点的に殴って剥がせれば!


「うらあぁあぁぁぁっ!」


 バキャッと音をたて、上に重なった鱗がまず砕けた。

 あらわになった接着面。

 そこをさらに執拗にぶん殴りまくって。


『ゴギャアァァァッ』


 ダンジョンドラゴンの声が響く。

 それと同時に50センチ四方の鱗が一枚、剥がれた。


「セリスッ、虎鉄!」

「はいっ!」

『にゃにゃにゃーっ』 

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