第143話:対策されていた・・・
崖撃ち──昔のネットゲームではあったらしい。
崖下のモンスターに向かって遠距離攻撃を行うと、段差のせいで反撃されない。
反撃はされないが攻撃を受けたことでヘイトがそのプレイヤーに向かい、なんとか最短距離で反撃しようとその場にとどまる。でも反撃できない。
プレイヤーは安全な所からモンスターを倒せて、レベルも上がる。
「なんだこの状況……」
だが崖撃ちは迷惑行為だとする声が多く、対策された。
ゲームでは反撃できる位置にプレイヤーがいない場合、ヘイトが即座にリセットされ、食らったダメージも一瞬で回復するように。
まぁ一撃で倒せるプレイヤーなら関係ない対策ではあったが、低レベルからのレベル上げには使われなくなったとか。
「あとそのフィールドにアクティブモンスターを配置という対策も施されたらしい」
「浅蔵、お前なんでそんな話知ってんだ? 俺らが子供の頃だって、もう時代はネトゲからソシャゲに移ってた頃だろ」
「冒険家引退したあと、暇で暇で。それでネットの海によく潜っていたんだ」
「で、この状況はどう解析する?」
解析も何も……ゲームとは違うからなぁ。
セーフティーゾーンの階段に逃げてきたパーティーの面々。
それを追って最下層ボスが階段の方に向かってきたが、甲斐斗が雷魔法を一撃ぶっぱなすとすぐに身を隠してしまった。
階段の真横に。
開けた場所にぽつんと石煉瓦作りの筒がある。
その筒が空へと伸び、外から見ればそれは雲の上にまで伸びているんだが。実際は数十段しかない階段だ。
アーチ状の出入り口からは外の様子が分かるが、逆に言えばそこからしか外の景色は見えないようになっている。
外から階段を見る場合も同じだ。
最下層ボス、ダンジョンドラゴンは壁一枚を隔てた隣にいる。
隠れているつもりだろうが、思いっきり感知してるからな!
「これ、ドラゴンがいなくなったと思って階段下りて外に出た瞬間に、パクっと食われるオチだな」
「食うと思うか、俺たちを」
「逆にあのサイズだぞ。食べないと思うのか芳樹は」
「ぐっ……」
俺の言葉に声を詰まらせる芳樹。
そもそもダンジョンモンスターってのは、人間を襲ってどうするのかと言えば……食べるんだ。
スライムですら人間を襲い、じわじわと溶かして食べるんだからな。
ある意味スライムの捕食方法が一番エグいかもしれない。
しかし今は外でじっと待っているだろうドラゴンのことだ。
「ドラゴンの攻撃パターンとか見ましたか?」
逃げてきたパーティーにそう尋ねると「見た」という返事が。
「まぁドラゴンだからな。火を吐くぞ」
「あぁ、やっぱり」
「ただ火だけじゃなくって、毒ガスみたいなブレスも吐くの。私は範囲リカバリー持ってるからなんとかなったけど」
リカバリー。つまり状態異常を回復する魔法スキルだ。麻痺もこれで治せる。
さすがに下層攻略メンバーともなると、良いスキルを持っている人が多いな。
「浅蔵さんの相殺スキルで、ドラゴンが吐く炎とか消せんと?」
「どうだろう?」
「やめとけ。浅蔵の相殺って、右手でワンパンしなきゃならないだろ?」
そう。スキルを発動させて直接殴りに行かなきゃならない。
相手は巨大なドラゴンだ。
ブレスを相殺したって、普通にかみつき攻撃、前足の爪で引っかく攻撃だってあるだろう。
「物理攻撃もそうだが、あいつ、魔法攻撃もしてくるんだぜ」
「うわぁ、最悪だな」
最下層ボスだけはある。
とはいえ、ここでじっとしていても始まらない。
どうにかして外に出なければ戦えないが、出たらブレス攻撃が待っているだろう。いきなり爪で引き裂かれるかもしれない。
安全に外に出る方法……ん?
あるじゃん。
しかもうまくいけば挟み撃ちすることもできる!
「態勢整ったら行くぞ。これでな」
そう言って俺は図鑑を指さした。
「それで私の所に?」
地下1階へと戻って上田さんに応援を貰いに来た。
まずは休憩していたパーティーを連れ、それから逃げてきたメンバーを。
最後に自分のパーティーメンバー。
50階に戻るのは階段じゃない。
「じゃあ浅蔵さん、セリスさん、虎鉄ちゃん──」
上田さんがひとりひとりの名前を読み上げていく。これが応援を付与するために必要な工程なのだとか。
「"頑張って!"絶対にみなさん、生きて戻ってきてくださいっ」
こうして俺たち10人は50階へと戻った。
図鑑で転移したのは、ドラゴンまで100メートルは離れた巨木の後ろ。
「"分身"の術」
「お前のその『の術』って、実際は必要ないんだろ?」
「気持ちの問題だ」
『分身の術って言ったほうが、忍者っぽいだろ?』
『そうそう。っと、無駄話してる暇はないんだ。省吾、構えてろよ』
構えろってのは盾のことだ。
相変わらずの発砲スチロールの盾にスキルを掛け、鋼の強度を付与している。
軽くて硬い──チートシールドだ。
盾を構えた省吾が階段のほうへと進んで行き、俺の分身が省吾とは別方向からドラゴンに向かって駆け出す。
『こっちだ!』
階段の脇に陣取ったドラゴンに向かって、ピーマンボムをいくつか投げつけた。
弾けた種がドラゴンの皮膚を──貫通せず、弾けただけ!?
『硬すぎだろおい!』
『グルルガ』
とはいえ注意を引くのには成功したようだ。
慌てて分身が後ろに下がると、ドラゴンはいい具合に追いかけていく。
階段入り口から50メートル以上離れた所で、今度は省吾がヘイトスキルを使って釣る。
「"挑発"! うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
雄たけびを上げ、ドラゴンの注意を逸らす。
スキルの強制的な効果によってドラゴンは振り向き、そしてゆっくりと省吾へと向き直った。
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