第142話:ファンタジー最強生物。

『"シュババッ"! "シュババッ"!』


 まるで親の仇とでもいうように、虎鉄が物凄い勢いでヘルドッグを倒していく。

 だがヘルドッグは群れで襲ってきた。まるで野犬の群れだ。


 とはいえ、俺たちのパーティーは分身入れて21人。

 非戦闘メンバーの鳴海さんや、戦闘スキルを手に入れたもののスキルレベル低くて下層では戦力としてはまだ足りない木下さんを引いても19人が戦闘メンバーだ。

 超張り切りモードの虎鉄もいて、あっという間にヘルドッグ討伐は終わった。


「うへぇ、15匹ぐらいいたか」

「こっちはそれ以上多かったけどな」

「浅蔵軍団ヤベーな。ていうかちょっと邪魔」

『邪魔!?』

『ひでーっ!』


 とはいえ、この後もヘルドッグの群れだの空からは翼竜ワイバーンに襲われ、正直この人数でやっと対処できるといった感じに。

 半日ほど進んで昼食のために階段へと引き返すと、同じように戻って来たパーティーがいた。

 様子からすると、疲れきってるな。


「そっちはどうだった?」


 俺が声をかけると「疲れた」と言って苦笑いを浮かべる面々。


「恐竜でただろ? なんだっけ、なんとかラプトルって奴。スピードは速いし、数多いし」

「ラプトル? 俺たちのほうは二つ頭の犬だったよ。まぁ群れで襲ってきてたのは同じだけど」


 進む方角で生息モンスターの種類が変わるのはあるある事案だ。

 頭二つとはいえ、恐竜よりはまだマシかな……。


 恐竜に嫌気がさしたパーティーは、食後、まだ他のパーティーも進んでいない方角に行くという。

 うん。けどさ、そっちがもっと嫌らしいモンスターの生息エリアって可能性もあるしな。


 まぁ俺たちが進んでいる方角だって、犬ゾーンの先で何が出るか……。


「何はともあれ、ご飯食うか」

「そうだな」


 芳樹の意見に賛成だ。

 ダンジョン中でご飯を食べている間が、一番『生きている』と実感できる時間かもしれない。

 俺の小さいポケットを広げ、中から大戸島さん特製の重箱を三つ取り出した。

 それぞれ3段ずつ。

 一つはひたすらおにぎりだけが入って、残り二つにおかずが。


「「いただきます」」


 分身を消して10人。もう一つのパーティーが19人。総勢29人が階段に座って下の階を見つめながら飯を食う。

 シュールだ。めちゃくちゃシュールだ。


「木村さん、その盾どこで手に入れたんです? 一昨日は持ってなかったですよね」


 省吾がそう言ってやたらデカい盾を持った人の隣に座る。

 向こうのパーティーの盾役なんだろう。高さ150センチほどもある盾には覗き窓みたいなのもあった。


「49階にデュラハンいただろ? あれから拾ったんだ。凄いぞ、これ」


 木村さんが自慢気にそう話す盾は、黒曜石でコーティングされたという品物。

 強度が高く、防御力抜群の素材が黒曜石だ。

 難点があるとすれば──重い。


「けどこの盾には重さを軽減させる効果が付いていたんだ。さらに衝撃吸収の効果もな」

「うげっ。それめちゃめちゃ俺も欲しい。デュラハンかぁ」

「あと光を反射させる機能もあるんだけどさ……それだけ使い道が不明なんだ」

「あー、いらない効果だな」


 ふぅん。衝撃吸収か。

 俺の図鑑もそれ持ってるぜ。最強の盾。ただし小さい。

 パラパラとめくると、今見た盾がアイテム欄に載っていた。

 他人がドロップしたアイテムでも、それ見ると表示されるって便利でいいよな。

 回復ポーションの500mlバージョンとか一本でも出ていれば、それ見せて貰ってページに載せ、もしもの時はコピーなんて方法もあったんだけどな。

 残念ながら今のところはポーションのドロップは無い。


「ふぅ、食った食ったっと──」


 いつも食べるのが早い芳樹がそう言って手を合わせる。それと同時に地面が揺れた。

 ズゥンズゥンと轟く地響き。


 おいおいなんだこれ。

 まさかダンジョン拡張じゃないだろうな!?


 そう思ったが、俺の感知にHIT。


『にゃ~。でっかいトカゲさんにゃよぉ』

「は?」


 虎鉄が俺の頭の上からそう言う。

 ほぼ同時に「逃げろっ」という声が遠くから響く。


「嘘……だろ……」


 階段の周りに開けた空間があり、その外周には巨大な木と岩が点々としていた。

 その木を揺らし、なぎ倒しながら登場したのが……。


「ドラゴンかよ……虎鉄、鑑定!」

『んにゃ~。福岡ダンジョン02ドラゴンにゃ。ボスにゃよ~』

「浅蔵、お前の図鑑は!?」

「こっちは……福岡ダンジョン02ドラゴン。最下層のボスだ。くそっ。弱点とか一切なんも書かれてねーっ」


 逃げてきたパーティーが階段へとたどり着く。


「ぜ、全員無事か!?」

「何人かはぐれたっ」


 平均して18人ぐらいのパーティーになるよう構成してあるけど、階段まで来たのは10人ほど。

 まさかボスから逃げて階段まで来るとは。


「おいおい、ボス連れてくんなよっ」

「悪い。飯食おうとこっちに戻ってくる最中に見つかったんだ。来た道引き返してただけなのに、まさかいるとは思わないだろ」

「移動タイプのボスだったのか。でもあんなデカいんじゃ、歩いてたら気づくだろう」


 階段はセーフティー。

 分かっていても後ずさりしてしまう。


「ま、これはこれで好都合だな。このまま階段途中から遠距離攻撃で倒そう」


 え? そんなのいいの?

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