第141話:犬にゃ。
解毒ポーションを持って分身する。その後俺が持つポーションはポケットに直して、分身のポーション1本をセリスさんが持つ。
そして紫のスライムを待ちます。
出てきます。
抱きしめます。
俺ポイズン。
『じゃあこれを』
「うぃ……うえっ、マズい」
解毒ポーションはまずかった。
ポーションの効果は数秒で現れ、胸やけ吐き気その他の症状は回復。
回復したら今度は分身にいったん消えて貰う。
「あ、ポーション瓶消えたばい」
「俺のほうは……解毒されたままだ」
『スライム倒していいにゃか~?』
「あ、頼む虎鉄。直接触るなよ」
『"シュババッ"』
分身のポーションに『効果』はあった。
だが分身が出ている間にしか使えない。分身から持ち物を預かっても消えてしまう。
消えてしまうが、使ったアイテムの効果が消えることなかった。
これで傷の回復ポーション系を量産して……いや、1時間で消滅するポーションだしな。
分身がダメージ消滅することも考えると、1時間なんてのも関係なくなる。
俺がその場にいて、その時必要とするアイテムを分身で増やして使うのは大いにあるが……。
他のパーティーにポーションを渡してぬか喜びさせるのはマズいな。
「セリスさん。このことは他のパーティーには内緒で」
「そうやね。ポーションとか簡単に増やせると分かっても、短時間限定のことやもんね」
セリスさんも同じ感想だったようだ。
ま、それでも傷の回復ポーションを持ち歩くようにしよう。もしものために。
今はセリスさんの聖付与ばっさり切りつけヒールがあるから、回復ポーションは持っていない。
100mlぐらいの奴でもいいから、一本融通してもらおう。
47階の洋館が発見され、予想通り館に階段があった。
下り階段なのになぜ屋根裏部屋なのか。
48階、49階もオープンフィールド。
そうして50階も……。
「ついにここまで来たよ、セリスさん」
「はい……ここのボスを倒して、どうなるかやね」
「あぁ。何かしらアナウンスがあればいいんだけどな」
最下層のボスを倒したよー。スキル与えるよー。
そんなアナウンスではなく、ダンジョン生成の謎を解き明かせるような何かが──。
「さぁて、それじゃあ予定通り2パーティーずつ攻略をはじめるか」
最下層攻略チームの最年長者──といっても29歳なんだが──その桐山さんの号令で俺たちは攻略を開始した。
俺たち3人(+分身)パーティーは芳樹たちと一緒だ。
こっちは3人。向こうは7人で合計10人だか、分身を入れれば21人だ。
そう。
分身レベルがついに10に達して、俺11人!
「パーティーの半分以上が浅蔵先輩……」
「時籐さん、よくこの状況に耐えれたね」
「え? 浅蔵さんばかりですし、すごく安心できますよ?」
そいうセリスさんの返事に、みんなが一斉に俺を睨んでため息を吐く。
な、なんなんだよ。
いいじゃん。セリスさんが安心できるっていうんだし!
『敵、こっち来てるぞ』
俺より前を歩いていた分身の一言で全員が身構える。
パーティーの盾役である省吾と肩を並べていた分身は、僅かに下がって身構えた。
俺の感知はレベル18。半径180メートル範囲の敵を感知できるようになっている。
範囲が広すぎるのも厄介だ。
オープンフィールドはいいが、迷路タイプだと遭遇しそうにない範囲のモンスターまで感知して無駄に警戒するはめになるからだ。
だがそれも最近は慣れたようで、感覚として「あ、これは警戒しないでいい奴だな」ってのが分かるようになった。
スキルレベルが高くなったからなのか、それとも順応力のおかげなのか。
それはさておき、感知したモンスターはこちらに向かってきている。
問題は360度、あちこちで感知に反応しているということだ。
もちろん俺たちを見つけて襲おうとして向かってきている奴らだけではない。
フィールドを適当に歩きまわっているのもいるから、その中で確実に向かって来ている奴だけを選んで知らせている。
森というには木は少なく、じゃあ草原かと言われると木の数は多く。
巨木が点々とするフィールドで、他にも岩だなんだのがあって遠くまでは見渡せない微妙な構造だ。
しかも生えている草の背丈も高く、近づいてくるモンスターの姿がようやく見えたのは、距離にして50メートルほどの所。
「犬か!?」
省吾の声に呼応するかのように、『ウオオォォォォン』という声が響いた。
現れたのは二つの首を持つ黒い犬。
その大きさは軽自動車より少し小さいぐらい。
『ヘルドッグにゃっ。シャーッ』
虎鉄は犬が大嫌いだった。
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