第145話:ラスボス戦

 一枚の鱗を剥ぐのに、なんだかんだと数分かかる。

 それを何枚も、あちこちいろんな方向の鱗を剥ぐとなると、場所移動、移動中に攻撃が飛んできて躱したり、図鑑でガードしたり。

 30分かかって近距離で届く位置の鱗を5枚剥いだ。

 もう30分かかって、ダンジョンドラゴンの背になんとかよじ登って、上の方の鱗を2枚剥いだ。遠距離攻撃用だ。


 ひたすら鱗を剥ぎ取ることに集中していたが、この1時間で何人かが重症を負っていた。

 幸い命に別状もなく、階段に避難して治癒して少し休んで、そして復帰している。


 盾役以外が尾っぽや爪の一撃を食らえばただではすまない。

 そして火球魔法は後衛の位置まで届く。

 恐ろしいのはブレスだ。

 扇状に広がるブレスは、数十メートル先まで伸び、当然先端部分は幅数メートルの範囲になる。

 これじゃあ図鑑シールドも役に立たない。

 直撃すれば、図鑑で隠しきれていない場所が黒焦げになるからだ。


 省吾は何度も下半身を焼かれ、そのたびに鳴海さんが駆け付け治癒をし、治しきれない傷をセリスさんが薙刀で触れ癒す。

 少しでも省吾の負担を軽くするには──。


「一秒でも早くこいつを倒す! "ビーム・ウェポン"!」


 奴の背中に跨れば、誰にも迷惑かけることなくこの鞭を振るえる。

 伸びろと念じ、5メートルのビームウィップで奴の首に巻き付けた。


『ッグギィ』

「いっ──」


 ぶんっと長い首が振られると、そのまま引っ張られて地面へと放りだされる。

 

「浅蔵さん!?」


 地面を転がる俺の下にセリスさんが駆け寄って来る。

 が、鞭を手放さない俺は、再び宙に浮いた。


 ヤバい。叩きつけられる!?

 

 いや、そうはならない。

 俺は鞭使い。

 鞭は友達。

 鞭は俺自身!


「やられるか!」


 地面に叩きつけられる前に、鞭を思いっきり引く。

 引いてもドラゴンはビクともしないが、変わりに俺は奴に向かって跳ぶ形になる。


 それと同時に緩んだ鞭を奴の首から解き、パックリと開いた顎の下からアッパーカットのように鞭を振るった。

 ガクンと強引に閉ざされた口。

 このまま奴の口を鞭でグルグル巻きにしてやる!


 ドラゴンの顔はワニのように鼻が長く、鞭でぐるぐる巻きにしやすい。


「"ビーム・ウェポン"!」


 効果の消えた付与を再度かけなおし、奴の鼻先に食い込ませる。

 その時、奴の喉が膨らんだ。


「あさくらあぁぁっ、離すなよおぉぉっ!」

「当然!」


 ブレスの威力で鞭を振りほどこうとしているんだろうが、そうはさせない!

 ぐぐぐっと鞭が引っ張られるが、それを引っ張り返す。

 カッと目を見開き、俺を睨むドラゴン。

 そこへ──


『"シュババッ"にゃーっ』


 見開いた目に虎鉄の風を斬る技が飛ぶ。

 真っ青な血。

 ボフッと牙の隙間から漏れる黒煙と肉の焼ける匂い。


 残ったもう一つの目も、気づけば矢が突き刺さっていた。


 視力を失ったドラゴンは、ただただ闇雲に暴れまわった。

 腕を振り回し何人かが吹っ飛び、俺は図鑑を再び呼び出し防ぐ。だが隙ができた。

 右手はいまだ鞭を握り、奴が首を振って俺を宙に投げる。

 

 また地面に叩きつけようってのか?

 甘いぜ──と思ったら違う!?


 奴は鞭を掴んで自分へと引き寄せ、そして


「ぐあっ」


 俺を掴んだ!?


「く……そっ」

「浅蔵さんっ。今、今助けるけん!」


 ボキボキと何かが折れる音がする。


「ぐああぁぁっ」

「浅蔵あぁぁぁぁっ」


 芳樹の声。

 セリスさんと二人、必死に奴の腕を攻撃する。

 ダンジョンドラゴンの反撃はもう片方の手と、それと尻尾のみ。

 口は未だ塞がっているし、鞭を掴んで離さないままの俺を握っているので、解きたければ俺を解放するしかない。

 だがそうしない。


 よっぽど俺が憎いんだろう。

 あぁ、いいぞこれ。

 このまま俺を握り続けろ!


「セリ、ス……俺を……俺を回復、し、続けてくれ」

「回復? そんなん助けだしてからっ」

「このままでいい! このまま奴が俺を握り……ぐっ。握り続ければ、それだけ攻撃手段が減る!」

「浅蔵、お前……」

「芳樹。全員、全力で行け!」

『ぐにゃにゃっあぁぁっ。"奥義・爪とぎスラッシュ""シュババッ"』


 虎鉄は理解した。野生の勘ってやつなのかな。

 セリスも理解してくれた。

 涙を流しながらも、聖なる力を宿した薙刀の刃を俺に触れさせる。


 折れた骨が全て回復することはない。

 それでも立て続けに回復し続ければ、死なない程度には持ち堪えられる。


「"ビーム・ウェポン"」


 口に巻き付いた鞭にビームを宿し、じわじわと奴の皮膚を溶かしていく。

 あともう少し。もう少しだ。


 ゴキキッという嫌な音。

 もう少しなんだ。

 もう少し──俺の意識、持ち堪えろ!

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