第146話
ある意味、地獄絵図だった。
声なき声を上げたダンジョンドラゴン。その声を聞きつけて周囲のモンスターが集まって来た。
俺の分身だけでは処理が追い付かず、何人かがやられる。
補充しようにも、今の俺の状態で分身すれば瀕死がずらずらと10人出てくることになる。
だが援軍が来たのはモンスターに限らず。
「こっちも援軍呼ぶよ!!」
翔太のそんな声が少し離れた所から聞こえた気がして、そして俺の目にピンク色の光が煙の尾を引いて空へと上るのが見えた。
それから割とすぐに、他のエリアを探索していたメンバーが現れた。
このレベルの冒険家になると、転移のオーブを持ってるのも当たり前。
そしてオーブを使って転移できる先は、上下階段のある場所と決まっている。
そしてここは上り階段の目の前。
方角的にもそうだとすぐ理解して使ったんだろう。
「加勢にき──うげっ、なんだこりゃ!?」
「なんでもいいーっ。とにかく集まって来てる奴らと、この親玉を倒すの手伝えっ」
「きゃあぁぁっ。クラさん!?」
「たっく! ヒールボールで浅蔵の回復っ」
「鱗剥げてるところ狙え! 鱗に攻撃当ててもぜんぜんきかねーぞっ」
「雑魚処理任せろっ。むしろ範囲魔法だから下がってくれっ」
怒号が飛び交う。
福岡02ダンジョンドラゴンが、俺を掴む手を緩め反撃に転じようとした。
そうは行くか!
わずかな緩みで左腕が自由になった俺は、図鑑を呼び出し奴の腕を殴った。
『────っ』
「しっかり握ってねえと、脱出してまた鱗を剥ぎ取るぞっ。うぐっ」
何発目か殴ると、奴は再び俺を睨んでぐぐっとその手に力を加えた。
握りつぶされてはマズい。
そう思って図鑑を広げてつっかえ棒のように。
セリスの癒しが──
誰かのヒール玉が──
ギリギリのところで俺を生かす。
はは。これ、結構キツい。
終わったら美味い物食いたいな。
その前に風呂だ。
汗と……あとこの血。洗い流してスッキリしたい。
こいつ倒したら地上に出れるかな。
出れるといいな。
段々と
段々と
意識が薄れていく。
あぁ、そうか。
傷は治せても、流れた血は戻らないんだよな。
けど今はまだ意識を手放すわけにはいかない。
こいつが倒れるまでは──倒すまでは──
『にゃんとーっ! "奥義・スペシャル爪とぎスラッシュ"にゃっ』
は?
スペシャル?
おい虎鉄。それだとスキルミスだぞ。
そう思ったけど、かすむ視界の先には高速回転したままドラゴンの横っ腹にめり込む毛玉が見えた。
スキルが……進化した?
「うらあぁぁぁぁっ! "インパクト・アロー"!! やれ、甲斐斗っ」
「"ライトニング・カノン"」
虎鉄が空けたどてっ腹に、春雄が鉄みたいな矢を射ってそれが深々と突き刺さる。
その矢に向け、甲斐斗の電撃が一直線に伸びた。
『────ッ』
福岡02ダンジョンドラゴンは、断末魔の叫びをあげることなく、その巨体を地面に横たえた。
終わった……のか?
奴は倒れてなお、俺を掴んだまま離さなかった。
「浅蔵さん! 今、今助けるけんっ」
「鳴海いぃっ!」
「は、はいっ」
まだ生きているのか、それとも念のためなのか。
倒れたドラゴンに仲間たちが攻撃を加える。
ピクリともしないドラゴン。
そして──
【福岡02ダンジョンの真なる最下層ボスモンスター『福岡02ダンジョンドラゴン』を討伐したよ】
【討伐完了ボーナスとして『身体能力強化』スキルを獲得したよ】
【討伐パーティーをこれより裏マップに転送するよ】
そうアナウンスが流れ──
俺の視界はぐらりと揺れ、暗転した。
ここは……どこかの遺跡?
さっきまでいたエリアに似ているようで、だが決定的に違うのはそこに廃墟のような建物があること。
「浅蔵さん!?」
「セ、セリス。き、君も来て──痛っ」
「鳴海、鳴海はいるか!?」
「います小島先輩っ。すぐ治癒しますから」
「芳樹、鳴海さん……」
周囲に視線を向けると、省吾、甲斐斗、春雄に翔太。木下さんも虎鉄もいる。あと分身もだ。
鳴海さんとセリスが二人で必死に俺の怪我を治癒した。
折れた骨も傷ついた内臓も回復したが、流れた血は戻らない。
それよりここは、いったいどうなってんだ?
セリスと芳樹の肩を借りて立ち上がる。
それとほぼ同時に声がした。
【ようこそ人類代表の諸君。ここが福岡02ダンジョン最後のマップ、50階裏ステージだよ】
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