第147話

 裏50ステージ?

 RPGなんかでもある、クリア後の裏ステージってことか?

 いや、そもそもクリアしてないだろ。ボスを倒しただけじゃないか。


【混乱しているね。でも黙って話聞いてね】


 !?

 な、なんだ今のセリフ。


「おい、なんかこっちの状況見てるのか?」

「そんな風に聞こえましたね」

【だから黙っててくれるかな? 一度しか説明しないからね】


 やっぱり。

 誰かが──ダンジョンを生成する何者かが俺たちを見ている?

 

 お互い頷きあい、さっきの戦闘で疲れた体を休ませるためにもその場に座って黙ることにした。


【そう。それが賢明だよ】


 感情のないマシンボイスなのは相変わらず。それがかえってイライラする。


【まずこの裏ステージだけど、モンスターは一体しかいないよ】


 一体!?


【そいつを8時間以内に倒すのがここのクリア条件】

【倒せたら三つの選択肢が与えられるけど、それはまたその時ね】

【安心して。クリアできなくても、君たちは元の50階に送り届けてあげるから】

【ただし。一度この裏ステージに来た人類は、二度と入れないからね】

【まぁ他の人類に託すことはできるけど、それも合計三回までだよ】


 裏ステージ……たぶん裏ボスだろう。

 それを8時間以内に見つけ出して倒す。すると報酬でも出るのか、三つの中から選ぶことになるようだ。

 失敗しても元の場所に戻れるが、次はない。

 他の冒険家が同じように、あの福岡02ダンジョンドラゴンを倒してここに来ることはできる。

 ただし三回までということは、残り二回か。


「なぜ俺たちだけがここに!?」


 聞こえているんだろう? 答えろ。


【表のボスドラゴンに止めを刺したのが、君たちのパーティーだったから】

【ただそれだけだよ】

【それじゃあ。ヨーイ──】

「ま、待て!」

「おい、まだ聞きたいことがあんだよ!」

【どんっ】


 マジか!?


「あ、浅蔵さん、空!」

「え?」


 セリスが指さすのは天井──空であって、そこには巨大なデジタル時計が浮かんでいた。

 カウントは7:59:41。右の二桁がどんどん減っていくのは、残り時間ってことだろう。


「くそっ。有無も言わさずかよ」

「8時間……普通にマップクリアするのに一日かかるってのにっ」

「探しにいくっきゃないでしょ? 他にモンスターいないっていうし」

「それもどうだか」


 芳樹たちが苛立つ中、セリスだけがポケットを広げて何かをしていた。

 何を?

 もしかして腹ごしらえ?

 まぁちょっとお腹すいたかも?


「セリス。食事なら──ん? どうした?」


 彼女の手が止まって俺をじっと見つめた。

 いや、そんなに見つめられると……顔がにやけてしまうんですけど。


「セ、セリス? どうしたんだ、いったい」

「だだ、だって浅蔵さん。セ、セリスって……」

「ん? セリスがどうした……あ」


 はっとなって周りとみると、ニヤニヤと俺たちを見つめる仲間たちが。

 

「い、いいじゃないか別に!?」

「ん~? 僕たち何も言ってないよ、ね~?」

「だったらなぜ笑う!」


 翔太がにんまりと笑う。ショタ顔のこいつに笑われると、余計になんかグサっとくる。


「いいじゃないですか。浅蔵先輩もセリスさんも好きあってるんだし。お互い呼び捨てでもおかしくないでしょ」

「す、好きあって!?」

「き、木下さん……」

「あれ? 違うんですか?」


 ぐっ……木下さんまでにんまり笑いやがって。

 あ、


「じゃあ木下さんも芳樹のこと、先輩ってつけず、呼び捨てにすればいいじゃん」

「……そ、そうですね。それはまたの機会にしましょうか」


 逃げやがった。

 翔太に視線を向けると、奴も逃げた。

 つまり翔太も鳴海さんを名前で呼べてないってことじゃねーか!

 お前ら人のこと笑ってんじゃねーぞ!


「遊んでる場合じゃないな。早くボスを探さないと」

「全員揃って探すか? それともバラける?」

「あのっ。自転車があるんですけど」


 俺の隣で顔を真っ赤にしていたセリスが、はっとなって声を上げる。


「自転車……あ」


 翔太が思い出したかのように鞄を広げた。


「僕も持ってたんだった」


 懐かしい自転車。

 

 足元はお世辞にもいいとは言えない。

 だけどマウンテンバイクのこの自転車なら、走れないことも……ない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る