第148話
「じゃあ行ってくる」
「気を付けろよ」
芳樹たちが二手に分かれ、自転車を走らせる。
もし発見したら発煙筒を使うことになっているが、この発煙筒は5本しかないので分身を使って増やしたほうを省吾に渡した。
オリジナルのうち4本は木下さんが持っている。
1本は省吾が戻って来た時の補充用に俺が。
そして俺は貧血気味なのでここで待機だ。セリスと虎鉄も一緒にいてくれる。
木下さんがいるチームは索敵スキルがあるが、もう片方のチームには俺の分身が付き合う。
そして案の定、貧血分身が現れた。
けどここは頑張って貰わなきゃならない。
1時間後、分身が消えたら引き返し、ここでまた分身を同行させ別の方角へ。
それまでに俺の貧血が収まればいいんだが……。
「浅蔵さん、鉄分補給」
「あ、サンキュー」
ゼリータイプの栄養食品!
15秒で鉄分補給だよ!!
15秒で血が補充される訳ではない。
「ママチャリだったらニケツできたのになぁ」
「ダンジョンで乗ること考えると、これ一択やけんねぇ」
「まぁそうなんだけど……あぁそうだ。さっきのボス倒して、スキル貰ったかい? 俺はなんか貰ったみたいなんだけど……」
あっという間に裏に転送されて、もうすっかり何貰ったか忘れてしまった。
「貰いましたけど、浅蔵さんが心配やったし、それに急に視界がぐるってなったやろ?」
「だよなー」
『鑑定するにゃか?』
隣で虎鉄がキラキラした目で見上げている。
そうだ。こいつの鑑定スキルで、俺たちのステータスも見れるんだったな。
頼むと言うと、虎鉄は嬉しそうに目を細めて『にゃー』と一声。
『あさくにゃはー、捕らわれのダンジョン人23歳にゃー』
「そこから!? そこからなのか!?」
「虎鉄、スキルのところだけでけんね」
『にゃ~。あさくにゃのスキルは──』
武器改造、ビーム・ウェポン、相殺……そして『身体能力強化』。これが一番最後に見えるってことは、ドラゴン討伐ボーナスはこれだな。
効果としてはパッシブスキル系で、読んで字のごとくだ。
「悪くないな」
「要は運動神経が良くなるってことですよね?」
「あぁ。モンスターと戦うのにある意味必須だからな」
『セリスはにゃー』
セリスはホーリー・ウェポンのあとには、牙突というスキルをゲットしていた。
ただこのスキル、使いどころの難しいタイプで、ここみたいなオープンフィールドでは使えるが、天井があるところでは使えない。
跳躍力に攻撃を加えた感じだ。
あと大物相手に使うようなスキルだな。
高く跳んで、直下の敵の頭上に刃を突き立てることで大ダメージを与えると、ステータス板の説明にはあった。
が、モンスターのサイズが人と同等だと、うまく技が決まらない。
「ドラゴン戦で牙突使ってなかったよね?」
「一度使ったばい。けど鱗が固すぎて、手が痺れたんよ」
そう言ってセリスは眉尻を下げて笑う。
敵の防御力は無視できないのか。
肝心のボス討伐スキルはというと。
『バーサクにゃ』
「バーサク? 虎鉄、それってどんなスキルなの?」
『にゃー。えっと、一定時間、スピード上昇。攻撃ダメージ5倍。その代わり、受けるダメージは10倍にゃー』
「うぇっ……。最後の被ダメージ10倍がなければ神スキルなんだが……」
デメリットが大きすぎる。
命に数字がある訳じゃないが、デコピンされただけでも木製バットで殴られたのと同じ痛さとかそんな感じだろ?
いやいや、マズいって。
「でもスピードアップやけん、躱しやすくもなるんやろ?」
「どうかな。分からないぞ」
「……確かめようにも、ここにはボス以外いないって言うし」
『あっしと遊ぶかにゃー?』
そう言って虎鉄が猫招きのように、くいくいっとセリスを誘う。
爪は引っ込めていて、手加減するぞという意思表示だろう。
「どのくらいのスピードが出るのか、それぐらいは確かめておくといいかもな。虎鉄は動きも素早いし、それについていけるならかなりの物だろう」
「そうですね。じゃあ虎鉄──お願いね」
『にゃー』
「西のほうはいない。と言っても1時間しか進んでないけどな」
「そうか」
「浅蔵、ポーション飲んでみる?」
「そうだな。少しでも血が増えるなら。あ、分身するから貸してくれ」
小瓶サイズのポーションを持って分身をする。元のオリジナルポーションは翔太へと返した。
「便利だよねー」
「まぁな。でも1時間で消滅するからな。手持ち品として持ってるわけにもいかないっていう」
「そうだよねぇ。分身の効果時間って伸びないの?」
「今んところは1時間のままだな。次のレベルで11になるが、人数が単純に増えるだけなのかもしれない」
「浅蔵先輩99人計画ですね」
にっこり笑って鳴海さんが恐ろしいことを言う。
俺だって99人は嫌だ。
省吾たちが出発して、セリスと虎鉄がスキルの検証を再開。
「効果時間が60秒しかないって……」
「いや、長かったらそれだけ攻撃を受ける回数も多いわけだし。その位で十分だよ」
『にゃー。セリス速いにゃ凄いにゃよー』
逃げる虎鉄を追いかけて捕まえる。
ただそれだけなんだが、最初は自分の速度に付いて行けなかったセリスも、1時間ほどで体と目が慣れてきたようだ。
虎鉄が逃げ、数秒遅れてセリスが追いかけ。
3分ほどで虎鉄を捕まえられるようになった。
被ダメージの検証としては、かるーく抓る。
「ひやぁっ。イタイイタイイタイ」
髪を一本抜く。
「な、何本抜いたよ!? 禿になっとらん」
「一本……」
「え? い、一本なん?」
『にゃー。凄く痛がりにゃねー』
やっぱりデメリットがでかいぞ。
「と、とにかく自分のスピードに慣れて、回避特化になれば! フットワークだってあるんですしっ」
「けどなぁ」
そんな話をしていると省吾が二度目の帰還。
ここに転送されてそろそろ4時間だ。
「眩暈も治まって来たし、俺たちも参加するよ」
「大丈夫か? 浅蔵」
「あぁ。何もしないわけにもいかないしな」
省吾の自転車に跨って、発煙筒も持って分身!
『おっし。じゃあ俺はあっちだ』
『俺こっち』
『そっち頼む』
『オケ』
10人の分身が四方に散る。
全員が感知持ち。
これで索敵範囲もいっきに広がるだろう。
それは正解だった。
そろそろ分身が消えるだろうという頃──
『あさくにゃー! 後ろっ。後ろにゃ!』
俺は省吾の後ろで立ち乗り。虎鉄は翔太の背中。
その虎鉄が、空に向かって立ち上る赤い煙を発見した。
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