第149話

「うおおぉぉぉぉっ!!」

「ちょ、ま、おち、省吾、おちるっ」

「しっかり掴まれ、浅蔵あぁあぁぁぁっ」

『しっかり捕まるにゃよあさくにゃー』

「もっふもふ。もっふもふだぁ」


 翔太の頭をしっかりホールドしている虎鉄。

 俺の時もそうだが、あいつはちゃんと相手を傷つけないよう爪を引っ込めて掴んでいる。

 だからもふもふだけを堪能できた。


 翔太は今、お花畑にいるようだ。

 隣を走る鳴海さんが羨ましそうにしているのが見える。


 全力で自転車を漕ぐ面々。

 煙の先は分身が進んだ方角だ。


「おいっ。あの煙、誰だ!?」


 向かう間に芳樹たちとも合流。


「浅蔵の分身だ。10人が自転車使って散ったんだよ」

「浅蔵先輩、大丈夫なんですか?」

「眩暈は収まった。ポーション何本か飲んで、少しは血の補充も出来たのかもしれない」


 木下さんの心配そうな声に答える。

 まだ全快って訳じゃないけど、時間制限付きだ。これ以上は休んでいられない。


「あ、くそっ。煙が消えたぞ。どうなってる?」

「たぶん分身してから1時間経ったんだ。煙まで綺麗さっぱり消えるとはなぁ」

「詳細な位置が分からないな。ただ方角はまっすぐだから、そのうち分かるだろう」

「念のためもう一回分身出すから止まってくれ。奴が動いてる可能性もあるし、扇状になって探そう」


 分身の感知に引っかかる可能性もある。


 自転車に乗って発煙筒を持って──「"分身"」


『よし、んじゃ行くか』

「よろしく」


 分身が俺たちの進行方向に対して扇状に広がって自転車を漕ぐ。

 分身以外の俺たちが煙の見えた方角へと真っすぐ進んで行った。

 暫くして、


「発煙筒だ!」

「やっぱり移動してやがったか」


 進路をやや左にそれた方向から赤い煙が上がった。

 距離はそれほど遠くはない。

 方向転換し、木々が点在するエリアを抜けると、その先に土煙が上がっているのが見えた。

「接触したのか!?」

「発煙筒の煙に寄って来た可能性もある。急ごうっ」


 視界は良好。だが土煙でよく分からない。

 そこから出てきたのは必死に自転車を漕ぐぶんしんで、さらにそれを追いかけて出てきたのは……人?


 いや違う!

 蜥蜴みたいな尻尾と、蝙蝠の羽付きだぞっ。


「リザードマン!?」

「リザードマンに翼はないだろうっ」

「第一リザードマンってボスになるほど強くないだろ」


 芳樹たちが叫ぶ中、リザードマンモドキがホバリングを開始する。

 そして口を開いた。


 そこから発光する白い球体が、分身に向かって放たれた。


『こいつやっ──』


 俺たちに気づいた分身が何かを叫ぼうとしたが、その前に発光体が直撃。

 そして分身は……消滅した。


「え?」

「ま?」

「嘘?」


 確かに分身はオリジナルの俺に比べて、HP的な面で言えば低い。低いけど、一撃で消滅させるのかよ!?

 そのリザードマンモドキはこちらに気づき、向かってくる。

 その翼で飛んできた。


「うげっ」

「"分身"!」


 攪乱するために分身を出し、リザードマンモドキに突撃させる。


「いったん離れて態勢整えるぞっ」


 省吾は分身しないので、俺と自転車だけが増えて分身が逃げ回る。

 幸い敵さんは分身を追いかけてくれたから、こっちは逃げることができた。

 それも長くは続かないよなぁ。


 移動しながら図鑑でを開く。載っててくれよぉ。


 お、あった。



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【竜神】


 福岡02ダンジョンの裏ステージボス。

 背中に翼があるが、長時間の飛行は不可能。また高く飛ぶこともできない。

 口から放たれるブレス・ボムは、一撃で相手の肉体を消滅させる。

 連続使用は出来ず、一度放つとチャージするのに60秒必要。


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 たった60秒で次が打てるのかよ!!

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