第169話

 福岡01ダンジョンはとにかく階層ごとの面積が圧倒的に違うというのもあって、1階層進むのに自転車を使っても半日かかりに。

 自転車が使えないと、未完成の地図があっても丸一日工程だ。

 視界と足場の悪い森林タイプが2階層連続する階では、その2階をクリアするのに三日もかかった。


 12日目を迎えた日、攻略できたのは地下14階まで。

 既存の地図は図鑑の地図とほぼ一致していたことから「コピーしなくていい」とまで言われている。

 必要なのは地下30階より下の階。


 遠いな……。


 週末を迎え、福岡02の自宅でのんびり寛いでいると──


「花見しよぉーっ!」


 っと、玄関から大戸島さんが現れた。


「花見? 桜、咲いてるのかい?」

「うんっ。満開にはちょっと物足りないなぁって感じだけどぉ、六から七分咲きかなぁ?」

「そういえば私たち、ダンジョンの移動しかしてなくって、この2週間は外に出ていませんね」


 そういやそうだ。

 図鑑移動のおかげで、外に出る必要性もないからなぁ。

 もちろん冒険家施設に行くことはあったけど、ダンジョンの地上部はジャリで覆われた空き地状態だもんな。そのうえ壁で囲まれているし、遠くの景色は見えない。


 そっか。桜、咲いてるのか。


「花見をするって、どこでするつもりなんだ?」

「ここからちょっと歩くんですけどぉ、駅の近くに桜並木があるからぁ」

「そこなら花見客もおるところばい」

「あぁ、俺も知ってる。あそこかー」


 線路沿いに桜の木が植えられている場所がある。

 更に駅を少し行った先に川があって、広い歩道にも桜が結構並んでいるのだ。


「屋台も出てたんだよぉ~」

「ほぉほぉ。それはいいな」

「うん。だから何も持たずに行けるから。あ、レジャーシートだけ持って行こうねぇ。できれば厚みのあるやつがいいなぁ」


 厚みかぁ。じゃあ下のから貰ってくるか。






「わぁ、人多いねぇ~」

『んにゃ~。いい匂いにゃぁ。かーちゃんのお土産買うにゃあさくにゃー』

「なんとなく見覚えある人多い気がするけど、気のせいやろうか?」


 見覚えのある人が多いのは気のせいではない。

 福岡02ダンジョンでレベル上げをしている冒険家が多いのだ。

 ここまで徒歩で15分。

 住宅や道路がなくなったダンジョン地上部分では、目的の方角に向かって真っすぐ進むことが出来る。

 以前の街並みがあった時なら、たぶん倍の時間は掛かっただろうな。


 ダンジョンから近いというのもあれば、駅からもほど近い。

 ダンジョンに行く前にちょっと寄っとく?

 という冒険家もいれば、ダンジョンの近くにダンジョンはできないというこれまでのこともあって、安心して花見を楽しむ人もいるんだろう。


 俺は振り返ってダンジョンのある広大な空き地を見た。


 あの下では何千人と人が死んでいる。

 それでも時は止まることなく流れ、いつしか人々の顔には笑顔が浮かぶようになる。

 家族や知人を失った人はそうはいかなくても、いつかは……。


「浅蔵さん、どうしたと?」

「ん。いやぁ、予想以上に人が多いなぁと思ってさ。どこでレジャーシート広げようか?」

「屋台で食べるもの探しながら、ぶらぶら歩きません?」

「タケちゃーん。何食べるぅ?」


 今日は武くんも一緒だ。

 久々のデートらしい。大戸島さんは彼にべったりくっついている。


 そういえば……最近彼とはあまり会っていなかったけれど……。


「セリス。武くんのこと、どう思う?」

「へ? ど、どうってなんですか? わ、私は浅蔵さん一筋ばいっ」

「うぇい!? そ、そういう意味じゃなくって」


 顔を真っ赤にさせてそんなことを言われても……いや、めちゃくちゃ嬉しいんですけど。


「タケちゃーん。なんかあっちの方でイチャイチャしてるよぉ」

「温泉告白でもしたんじゃね?」

「えぇー。やだぁ、えっちぃ」

「えっちなことはしていません!!!」


 な、なんてことを言うんだ。

 俺たちはただ、改めて告白して清き男女交際を始めただけだっ。

 だいたいイチャイチャしているのは君たちのほうじゃないか!


 と言いたくなるのを我慢する俺って大人だよな。


「イチャイチャしとるのは、瑠璃たちやん!」


 言っちゃったよセリスが!


「えぇー。そうかなぁ。普通だよねー?」

「俺らいつもこうだし、普通普通」


 こっちもぬるっと返してるぞおい!


 い、今どきの若い子は、逞しいなぁ。


『にゃー。あっしはあれとイチャイチャしたいにゃぁ』

「なんだとっ。こ、虎鉄、お前にもまさか春が!?」


 と思ったが、虎鉄が熱い視線を向けているのは焼き鳥の屋台だった。

 うん。なんかお父さん、ほっとした気分だよ。


 4人と1匹で屋台を巡り、食べたいものを片っ端から買って適当なところでレジャーシートを敷いた。

 飲み物を用意すれば、立派な宴会場の完成だ。


 途中、虎鉄を見知った冒険家がきてあれこれ差し入れをしていく。

 主に焼き鳥や唐揚げ。あとイカ焼きも持ってこられたが、猫にイカはお勧めできないという他の冒険家の言葉もあって、それは食べさせないことに。


「大量に食べさせるのが悪いんだけど、イカはそもそも消化に悪い。嘔吐や下痢になることもあるから、食べさせないほうがいいって程度だけどな」


 と、その冒険家は言う。

 いやいや、吐いたり下痢するなら、食べさせないほうがいいだろう。

 虎鉄は残念そうにしていたが、健康のためだから仕方ない。

 まぁケットシーの虎鉄がどこまで猫の食事事情が適用されるか分からないけどな。


『んにゃっ。花びらにゃー』


 早咲きの桜が散ったのか、風に吹かれて舞う花びらを虎鉄が捕まえようと跳ねる。


 気づけばたくさんの冒険家が集まってきて、みんなで桜の木を見上げていた。



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 異世界転生、追放からの無人島開拓物語?

『錬金BOX』で生産チート+付与無双~無能と罵られ侯爵家を追放されましたが、なんでも錬成できちゃう箱のおかげで勝ち組人生を送れそうです~

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054897457813


こちらは毎日更新中です。

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