第181話:宇佐最下層

 使い勝手が悪くても使い続けるしかない。

 レベルが上がれば効果時間も伸びるだろうし、せめて10秒とかになればまだ使えるだろう。


『"シュババ"にゃー!』

「"シュババ"にゃー!」

 

 虎鉄は遠近料率タイプの戦闘スタイルだが、基本的には接近戦の方が多い。

 中距離である俺の視界でスキルを発動してくれるから、コピーもしやすかった。


『にゃー!』

「にゃー!」

「ぷっ」


 はっ!?

 い、今俺は何を言ったんだ?


「あ、浅蔵さんが……虎鉄のモノマネしとるばい……可愛いぃ」

「か、可愛いのかなぁ……」

『不気味にゃ』


 くっそーっ。

 都合がいいから虎鉄のコピーをと意識してたら、口真似までしていたなんて。


『"奥義・スペシャル爪磨ぎスラッシュ"! うにゃにゃにゃっ』

「"奥義・スペシャル爪磨ぎスラッシュ"! うにゃにゃ、うっ」


 ダメだ。虎鉄のコピーはダメだ!

 しかもこの爪磨ぎスラッシュ……猫専用だぁーっ!


「爪痛ってぇーっ!」


 爪を伸ばせない人間には不向きなスキルだった。

 あぁ、爪割れちまったよ。とほほ。






「さぁーて、最下層か」


 目の前には下り階段が。

 到着したのは夕方なので、まだ時間はある。


「少しだけマップ埋めしておくか?」


 見渡すと全員が頷いた。


「よし、行こう」


 階段を下りた先は……氷……


「は?」

「南極かここは」

「き、気のせいですかね? なんだか寒い気がしません?」

『にゃ……にゃにゃっ』


 気のせいなんかじゃない。上田さんの言う通り、寒い!


「み、見てくださいアレ。氷の上に、ああ、穴があちこちいっぱい空いとるばい」


 ガタガタ震えながらセリスが指さす。

 たしかに穴だ。

 見えるだけでも数十個はある。


 そして見ている間に、その穴からアザラシみたいなのが出てきた。

 で、別の穴へ潜る。


「あれ、モンスターか? 浅蔵、図鑑」

「お、おう。とりあえずちょっと上行かないか。寒くて死にそう」

「よし、戻ろう」


 ガクガク震えながら踊り場まで戻ると、気温は突然いつものダンジョンに戻った。

 福岡02でも山岳地帯の階層はあって、若干気温が低い気がしていた。それでも18度ぐらいのダンジョンが12~34度に下がったっていう程度だ。


 けどさっきのは……絶対マイナス温度だぞ。

 防寒対策してないと、絶対無理だ。


「図鑑、図鑑──あぁ、モンスターだな。まぁダンジョンの中だし、本物のアザラシな訳ないよな」

「『アイスアザラシ』……アイスなん?」

「食べられいと思う。いや食べたくないよ」

「わ、分かっとるもんっ」


 ぷくぅーっと頬を膨らませるセリスが、可愛い。


「他にどんなのがいるんだ? 一応全部確認してくれ浅蔵」

「分かった。まずこの26階だが──一面が氷に覆われた階層となっている。まんま南極だな」


 そして気温は-45度。

 マジで南極かよ。


「南極よりは少しマシな気温ですね。南極は平均が-50度以下だったと思いますから」

「上田さん、-45度も-50度も変わらないと思うよ」

「そ、そうですね。アハハ……」

「んじゃあモンスターは……は?」


 アイスアザラシ──アンデッドのボーンペンギン──そして、


「シロクマって、南極にもおったん?」

「正式名称はホッキョクグマっていうぐらいだから、北極限定なんじゃ?」


 そう思うのだが、モンスター情報には確かに『キラーシロクマ』というモンスターがいた。

 俺とセリスが首を傾げていると、


「ここはダンジョンだぞ。地上の常識で考えるな」


 と甲斐斗に言われ、その通りだと納得。

 南極っぽくても南極ではない。

 シロクマに見えてもシロクマじゃあない。


 ここはダンジョンなんだ。

 なんでもありな場所なんだよ。


「とにかく地上に戻ろう。戻って寒さ対策をしなきゃな」

 

 宇佐の地上へと戻り、協会に26階の構造を話してから福岡02ダンジョンへと帰った。


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