第182話:準備

「という訳なんですよ」

「地図の進化に南極ねぇ」


 翌日は準備のために福岡02施設長の小畑さんの所へ。

 マイナス45度という気温に堪えるために、装備を整える必要がある。

 正直、福岡県でそんな装備探すのは難しいはずだ。

 

 町に出て、自分たちで防寒着を探すのは無理だろうと思って冒険家支援協会を頼った。

 ついでに地図の性能の話も。


「山岳登山の装備でも、マイナスよんじゅう……何度だっけ?」

「45度です」

「あぁ……まぁ普通にそんな温度なんて、九州じゃあ起こりえないもんねぇ」

「ですよねぇ」

「とにかく必要なものだから探しておこう。もしくは仕立てて貰うことも考えておくか」


 俺たちだけじゃなく、他の冒険家のことも考えなきゃならないしな。

 となると、防寒着が手に入るまで26階の攻略は出来そうにないか。


 下に戻ってそのことを伝えると、


「なら福岡01の攻略を続けるか? 23階からだったろう?」

「そうだな。何もしないのも体が鈍るし、今のうちに少しでも進んでおくか」

「ひとまず宇佐のダンジョン内で、報告しとったほうがよくないでです?」

「そうですね。芳樹さんたちのパーティーが26階に到着して、無理して攻略を始めたら危険ですし」


 という優しい女子の言葉に、俺がひとりで図鑑転移。

 拡声器を使って──


『あー、あー。マイクのテスト中。宇佐下層攻略パーティーのみなさんへ。最下層の26階は南極タイプの構造です。気温マイナス45度。現在、冒険家支援協会に防寒着の依頼を出しています。それが届くまでは無理な攻略は危険です。準備が整うのにどれくらいかかるか分かりませんが、出来次第また俺のほうから連絡します。もちろん個別に支援協会へ問い合わせして貰うと早いかもしれませんが。以上』


 さて戻るか。






 久々の福岡01ダンジョンだ。

 スタートは地下23階から。


「前回も階層情報を書き込むためだけに下りてはいたが、なんだろうなぁ、ここも」

「アスファルト……だけなんやろうか?」

「アスファルトだけだ。他には何もない」


 40階まで下りている甲斐斗が言うのだから、間違いないだろう。

 23階の床はアスファルトで、自転車で進むには都合がいい。見渡す限り障害物も一切ない。

 見えるのはモンスターの姿だけだ。


 支援協会から貰った23階の地図と図鑑の地図を開いて、進む方向を決める。


「よし、あっちだ。まっすぐ進むぞ」


 全員が自転車に跨り、虎鉄は俺の肩へ。

 漕ぎだして直ぐ、前方からサッカーボールが飛んで・・・きた。

 白と黒のツートンカラーのサッカーボールに、大きな鳥の翼が生えているのだ。


「あれは羽を飛ばして攻撃してくる。突っ切るか?」

「突っ切ろう。虎鉄、落とせそうならっ」

『任せるにゃー。"シュババッ"』


 モンスターの声は聞こえない。ボールだから口がないんだろう。

 ただバウンっという、ボールが弾む音は聞こえた。音はそれっきり。倒したってことなんだろうな。


 そのまま進んでいると、ネズミがいた。もちろんモンスターだが、スルーしていく。


「あぁ、厄介なのが来たな」


 殿を務めている甲斐斗の声が聞こえた。

 厄介?


 すると後ろの方から──


 キコキコ

 キコキコキコキコ


 と、少しさび付いたような自転車の音が聞こえてきた。

 振り向くと、


「ひっ」

「なんですか、浅蔵さ──いやあぁぁっ」

「え? ど、どうし……きゃああぁぁぁっ」


 振り向くと、学ラン──ただしひと昔のヤンキーが着るような──を着た顔の無いのっぺらぼうが、おんぼろ自転車に乗って追いかけて来る!?

 ちょっ、こわっ!


 なんで顔ないの?

 なんでボロ自転車なのに、最新型のマウンテンバイクに追いつくの?

 なんでヤンキーなのおぉぉ!?


 追いつかれ、追い越され、更に回り込まれる。

 急停止するころには、いつの間にか同じのっぺらヤンキーに囲まれていた。


「こいつらの攻撃は鬱陶しいんだ」

「鬱陶しいとかいう以前にこえーよっ」


 だが甲斐斗の言う鬱陶しいというのはすぐに分かった。


 ぐーるぐーる。とにかく俺たちの周りを回り続けている。

 しかも、自転車のベルを改造し、ぱふぱふというラッパ音を響かせながら。


「……どこの暴走族だよ……」

「鬱陶しいだろう?」

「あぁ……鬱陶しい!! "分身"の術っ」

『あぁぁ、うるせぇー!』


 10人の俺が飛び出す。


『うるさいにゃー"シュババ"』

『"コピー"! からの"シュババ"』

『"コピー"、"シュババ"』


 みんなが『シュババ』とヤンキーに向かって飛ばす。


「うん、いいなそれ。浅蔵たち、こっちを向け」

『『ん?』』

「"ライトニング"」

『『おぉ、"コピー"、"ライトニング"』』


 分身の大合唱のあと、バリバリバリと物凄い音が響いた。


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