第177話
翌朝、図鑑転移でまずは地下一階へ。それから地上にあがり、模写した地図を届けた。
芳樹たちは帰ってきてないってことで、まだ14階か15階にいるかもしれない。
急いで15階入り口の階段に向かうと、案の定そこにいた。
「おはようお前ら」
「お、浅蔵。昨日のあれはいったいなんなんだ?」
「昨日?」
何故か全員の視線が俺に集中する。俺がいったい何をしたっていうんだ。
「浅蔵先輩。一昨日ダンジョンに響き渡る声で喋ってましたよね」
「は? 木下さん、何言ってんだ?」
「何って、こうして使うとか、これスキルなんだとか、言ってましたよね?」
何のことなのかサッパリだ。
『にゃー。あさくにゃー、拡声器で喋ってたにゃねぇ』
「そういえば、拡声器出してそんなこと言うとったね」
「言ってましたね」
「うるさかったな」
「え、じゃあ芳樹たちって、近くにいたのか?」
さぁ? ──と、芳樹たちは首を傾げる。
まぁ近くにいても、姿が見えなきゃ分からないよな。
「あの声を聞いたのは14階だったが、お前らも今から15階の攻略か?」
「は? 何言ってるんだ芳樹。俺が拡声器使ったのは15階のボスを倒した時だぞ」
「何をって、お前こそ……え、15階で?」
「でもボクらが浅蔵の声聞いたのは、確かに14階だったんだよ」
……どういうこと?
試しに俺ひとりで16階に続く階段へと転移する。
「"拡声器"」
掴んだ拡声器の電源を入れ、「あいうえお」と喋った。
それから15階入り口階段へと戻り──
「あいうえおだな」
「あいうえおですね」
「もっと他に無かったの浅蔵ぁ?」
『あおいうえにゃ~。なんの呪文なんにゃ?』
──と。
へ?
き、聞こえるのか、この距離で。
「あの、私、転移で一階に行きます。浅蔵さん、5分後にもう一度拡声器使ってください」
「万が一のことを考えて俺も行こう」
「甲斐斗さんが来てくれるなら安全ですね。では──"階層転移"」
上田さんと甲斐斗が転移した。
それから5分後、
「"拡声器"。『甲斐斗、よかったな』」
『にゃ~』
「『お、よかったってどういうことだよ。なんか甲斐斗の奴、ずいぶん積極的に上田さんだっけ? 一緒にいるじゃねーか』」
「『ふっふっふ。気づいたか芳樹。実はなー、甲斐斗の奴──あ、スイッチ入ったままだった』」
「え、なになに? 甲斐斗ってもしかしてあの上田さんって子のこと?」
「おい、嘘だろ。いつも告られる方だった甲斐斗が、遂に告る方になったのか!?」
「えぇ!? か、甲斐斗先輩がっ」
「わぁ、嶋田先輩のほうから人を好きになるって、初めてじゃないですかぁ?」
全員が興味津々だ。
「うわぁあぁぁぁぁっ。浅蔵あぁぁぁ、芳樹いぃぃぃぃっ!」
「「ひぃっ」」
甲斐斗と上田さんが帰ってきた。
放電バリバリで甲斐斗が走って来る。
待て、死ぬ。
それ食らったら死ぬからあぁぁぁっ!
「え、芳樹の声も聞こえた?」
「は、はい。それに虎鉄ちゃんの声も」
「拡声器の持ち主だけじゃなく、周囲の声も拾うのか」
「階層無視して、ダンジョン内全域に響かせるとは。騒音以外のなにものでもないな」
「つまりさっきの会話ってば、今ダンジョンにいる人全員が聞いちゃったってことだね」
「うあああああぁあぁぁぁぁぁぁっ」
甲斐斗が吠える。
こんなことになるとは思わなかったんだ。いや考えたら分かったことか。
上田さんに申し訳ないことをしたなぁ。
「で、甲斐斗。どんな風に告白したんだ?」
「……ない……」
「ん?」
「してないんだよクソオォッ」
「「あー……」」
全員が俺と芳樹を責めるような目で見る。
いや、止めてくれっ。そんな目で見ないでくれよっ。
「……か、甲斐斗。悪かったよ」
俺だって芳樹たちに弄られて、恥ずかしい思いをした。俺はあの時の芳樹たちと同じことをしてしまったんだな。
甲斐斗のやつ、深刻そうな顔してるじゃないか。
「ごめん、甲斐──」
「上田さん!!」
「は、はい」
あれ?
「上田さん。俺とお付き合いしてくださいっ」
突然告白しやがったぞこいつ!
「は、はい。ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
なんだこれ。なんなんだこれーっ!?
「とりあえず胴上げしとく?」
「しとくか」
「最後落とすんだよね?」
「相変わらず鬼だな翔太は」
「おい止めろ。聞こえるように言うのは止めろっ」
その後、俺たちは15階の階段踊り場で、甲斐斗を胴上げした。
かわいそうなので落とすのはやめておいた。
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