第176話
甲斐斗が初めて得たスキルが『サンダー』だ。攻撃魔法だし、なんかカッコイイから羨ましかった。そのうえこいつはイケメンだ。似合い過ぎだろと。
誰しも初めて得たスキルほど、レベルが高いもんだ。あ、ゴミスキルは横に置いといてな。
冒険家であるなら、攻撃系スキルの使用頻度も高いし尚のこと。
甲斐斗が地元でもそこそこ有名なのも、やたら高い攻撃力を持つ『サンダー』を持つが故だ。
同じ雷系の『ライトニング』は去年ゲットしているので、事実上、『サンダー』一発で何年もやって来たことになる。
そりゃあレベル高いよな。
そんな『サンダー』に、上田さんの『追撃』が加わる。
強力な『サンダー』の二回攻撃だ。
そりゃあもう、エグい。
青色に変化した巨大スライムに向かって、バリバリと音を立てながら閃光が走る。
直撃するとダメージを受けて、びよんびよんと巨体が跳ねた。その巨体は全身に黄金色の光を走らせ、プシューっと音を立て蒸気が上る。
その直後、再び巨体が跳ねた。そして黄金色の光が走る。で、プシュー。
あれが追撃か。
どこからも甲斐斗の二発目『サンダー』が飛んできてもないのに、本当に二回目が発生してやがる。
このたった二発の『サンダー』で、巨大スライムは瀕死。
『にゃにゃっ。"シュババ"にゃーっ』
青色スライムに効果のある虎鉄の『シュババ』も炸裂すると、巨大スライムは大きく体を跳ねさせ──そして弾けた。
【大分02ダンジョン地下15階層ボスモンスターを討伐したよ】
【討伐完了ボーナスとして『拡声器』スキルを獲得したよ】
お、スキルゲットだ。
というかほとんど何もしなかった……。
「上田さん! 君のおかげで奴を倒すことが出来た」
「わ、私なんて何も。嶋田さんの実力です」
「甲斐斗と呼んで欲しい。みんなにそう呼ばれているし」
「はいっ。甲斐斗さんって本当に雷の魔法が強いですよね!」
なんとなく二人の世界に入っているようだ。足元で虎鉄が『止めはあっしにゃ!』と抗議している。ほんと、空気読めない猫だ。
しかし……新しいスキルの拡声器ってなんだ?
「浅蔵さん、スキル貰えた?」
甲斐斗と上田さんのやり取りを横目に、苦笑いを浮かべたセリスがやってきた。
「……いいたくない」
「あはは。私もスキル貰えんかったし、元気だして」
「……貰えた……」
「そ、そう……でも、うん、元気だして」
「うん」
察してくれたようだ。
拡声器なんて、絶対ロクなスキルじゃないはずだ。ダンジョン図鑑みたいに、スキルを口にしたら拡声器が異次元空間から出てくるとか、そんなんだろ。何に使うんだよ!
『あっしもっ。あっしもスキルゲットにゃよっ』
「なに! まさかお前、また良スキルとかじゃないだろうなっ」
『にゃ~。"裁ちばさみ"にゃよ~』
そう虎鉄が声に出すと、確かにハサミが出てきた。
普通のハサミだ。いや文房具のソレではなく、裁縫で使う方のソレだ。でも普通。
『にゃっ。うにゃにゃ?』
そのハサミを虎鉄は──持てない。猫だからな。
「裁ちばさみってことは、布を切るためのスキルなんやろうか?」
「……まぁ、そうなんだろうな。真っ直ぐ綺麗に切れるとか、線を引いた通りに切れるようになるとか。そういうスキルかも?」
「虎鉄、ハサミ使えるのかしら?」
「……どう……だろう?」
うにゃうにゃと必死にハサミを持とうとするが、短い指ではうまく掴めないようだ。
普通の猫に比べると、やや長めの指だしよく開く。比較的何かを掴むことは出来るのだな、それは五本の指全部を使って抱えるような感じでもある。
ハサミのように親指はここ、中指がここというような、そういう使い方は苦手らしい。まぁ箸も使えないもんな。
そのうちぽろんっと地面に落とし、そのまま消えてしまった。
俺の図鑑のように、体から離れると消えるパターンだな。
『うにゃぁぁぁん』
「まぁまぁ、そう嘆くな虎鉄。ほら、俺のスキルだって──"拡声器"」
そう唱えると案の定、宙から拡声器が現れた。
普通だ。ごく普通の拡声器だ。
でも拡声器なんて俺、使ったことないもんなぁ。
『どんな攻撃が出来るにゃ?』
現れた拡声器をキラッキラな目で見つめる虎鉄。
いや、これは武器じゃないんだけどな。まぁ振り回せば鈍器ぐらいにはなるか。
あ、ON、OFFのスイッチがあるな。これを押して──
「『こうして使うんだ』」
『ふにゃっ!?』
ダンジョン内に俺の声が響き渡る。良い感じにエコーしてるな。
「浅蔵さんっ、音量大きいばいっ」
「な、なに? え、どうしたんですか?」
「浅蔵お前、そんなものまで持って来ていたのかっ」
「『いや、これスキルなんだ』」
「「音量ーっ」」
『うにゃーっ』
あぁ、すみません……。
ボスも倒したことだし、自宅ダンジョンに戻ってゆっくり休もう。
はぁ……ここに来て初めての完全無敵ゴミスキルのゲットかよ。
虎鉄の鋏はまだいいよな。一応武器にもなる。いや、正しい使い方じゃないし危ないけどな。
拡声器ってなんだよ。
ダンジョン内で使うと声が反響しまくってめちゃくちゃうるさいし。みんなからも不評だしさぁ。
翌日は夕方前に15階をクリアし、地図をコピーして福岡02の支部スタッフへ。
こうして自分の足で冒険家支部に行ってコピーした地図を渡すってのも、なんだか不思議な感じがするもんだな。
少し前までは模写スタッフの人に、家まで来てもらってたのに。
「こんばんはー。宇佐の15階の地図持ってきましたー」
「あ、ご苦労様です浅蔵さん。吉田くん呼ぶから、待っててね」
今日は吉田さんか。もうひとりの宮城さんは女の人だし、彼女が家に来るとセリスの機嫌が微妙に悪くなってたんだよなぁ。
「あ、浅蔵さん。地図もう渡したと?」
「ん。セリス、こっちに何か用事でもあったのか?」
息を切らせてセリスが駆けて来た。
「と、特に何もないんやけどね」
「そうか。今吉田さんを呼んで貰っているところだよ」
「吉田さんなんですか、今日は。そうなんだぁ」
「……宮城さんだと……やきもち焼く?」
俺がそう言うとセリスの顔が真っ赤になる。
「そ、そんなことないっちゃ。全然、やきもちなんてないけんっ」
そういう反応を見せて、やきもち焼かないなんて嘘だろう。
や、こっちとしては少しぐらいやきもち焼いてくれる方が嬉しいんだよ。うん。
真っ赤な顔であたふたと焦る姿も、
「可愛い」
「え?」
しまったあぁぁぁっ。つい……つい口に出してしまったっ。
うああぁぁっ。
「リア充は帰ってくれ」
あたふたする俺とセリスの横に、にゅるっと吉田さんが湧いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます