第175話
芳樹や他の攻略パーティーも既に14階の攻略を始めていた。
ただ14階は洞窟タイプになっていて、手描きの地図を作製しつつ進んでいたから誰もまだ15階への階段は見つけていない。
「一番のり、頑張るぞ!」
「「おーっ」」
まだ15階には誰も足を踏み入れてはいない。
つまり、ボスが手招きして待っている!!
宇佐では5階、10階とボスを見なかった。せめて15階では倒したい。
というか福岡01でも20階のボスしか見てないし、俺はスキルをゲットできていない。
スキル欲しい。なんか欲しい。ゴミ以外。
『にゃー。スライム発見にゃ』
「赤いスライムか。火属性だろうな。"ダンジョン図鑑"」
福岡02ダンジョン、01ダンジョン、そして宇佐ダンジョン。
複数のダンジョンの情報が書き込まれた図鑑だが、福岡01に入った時に変化があった。
目次が出来たのだ。
図鑑に表示させるダンジョンを、目次から選択する仕組みになっている。
まぁ福岡02だけで490P以上あるからなぁ。
図鑑のレベルも上がって33になったが、レベル30を超えてから50ページ毎のレベルアップになってしまった。
まぁレベル28で追加された機能が神機能だし、その上の機能のことを考えるとページ数が増えても仕方ないか。
「えぇっと……スライムレッド。ん? レッドスライムじゃなくってスライムレッドなのか」
「そっちはスライムブルーだな」
レベル28の図鑑機能は、初回階層入場時にその階層に生息するモンスターが自動的に書き加えられることだ。
モンスターと遭遇する前に対策が練られるようになった。
『んにゃーっ。倒したにゃー。やっぱりスライムは弱いにゃー』
「スライムは赤、青、黄色、緑、桃色がいるようだが、今までのスライムとネーミングがちょっと違うな」
「なんだか戦隊ものみたいですね」
あぁ、そういえば。
子供の頃に見てたな、戦隊ヒーロー。
なんとかレッドとか、なんとかブルーって名前だったよな。
「戦隊ものって、なんなん?」
俺と甲斐斗、そして上田さんが、戦隊ものっぽいと言っている隣で、セリスだけはきょとんとした顔で立っていた。
……5歳しか違わないはずなんだが……これがジェネレーションギャップというものか!
ま、それはよしとして。
「14階はスライムオンリーだな」
「必殺技とか撃ってくるんでしょうか?」
「……見てみたい」
「甲斐斗、そういうことぼそっと言ってるとな、本当になるからやめろ」
「見てみたい!」
「大きい声で言えばいいってもんじゃないからな!!」
上田さんや甲斐斗の希望通りにはいかず、色=属性があるだけで特に変わったところもない。
その日は図鑑の見開きページ3割ぐらいを埋めて帰宅。
翌日には14階をクリアして15階へ。
「地図のコピーを届けに戻るのか?」
「いや。宇佐の支援協会には模写スキル持ちの職員がいないというから、夜にでも福岡のほうで模写してもらうさ」
それに今コピーしたものを模写しても、芳樹たちは夜まで14階の攻略を続けているだろうし、どこを歩いているのか分からないのに届けようもない。
なにより今15階にいるのはたぶん俺たちだけだ。
「ボス探すぞーっ!」
『おおにゃーっ』
と言っても15階に到着したのは17時頃。
2時間ほど探して見つからなかったら階段まで転移してディナータイム。
それからもう少し探すが……明日のこともあるし22時になったら諦めると決め歩き回る。
「うあ……なんかスライムがうじゃうじゃしてるな」
「15階もスライムだらけやね」
図鑑を見ても、14階と同じラインナップだ。そこにボスが加わっただけ。
階層ボスはファイブスライムビッグ。
どういう意味だ?
『にゃー。つまり5色のスライムが合体するにゃーねぇー』
「うそん」
開けた場所で、やたらスライムが群がっている場所があった。
これまでスライムは色ごとにある程度縄張りを持っていたはずが、ここでは5色全部揃っている。
そのスライムが俺たちを見るなり、ぷるぷる震えながら集まりだし──合体した。
その色は緑の巨大スライム。
「浅蔵の車を飲み込んだ奴にそっくりだな」
「うっらあぁぁっ! 愛車の仇っ」
「待って浅蔵さんっ。あれは違うスライムやけんっ」
「スライムだったらなんだっていい!」
この5色のスライムはその時々の色によって弱点や特殊攻撃が変わると図鑑にあった。
緑のスライムは植物属性で、蔓草のように体をみよーんと伸ばして攻撃してくる。
見ようによっては鞭だが、
「はっ! そんなへなちょこ捌きの鞭が当たるか!」
「浅蔵、あれは鞭じゃな……いやなんでもない」
「緑色やけん、弱点は火やろ? 浅蔵さんの、火炎放射器のついた鞭は?」
「勿論あるさ」
浅蔵スペシャル、ファイアウィップで攻撃。
びゅるんと伸びた奴の触手に巻き付け、ファイアーッ!
『びゅるるっ』
「はっはっはっ。苦しかろう、痛かろう。俺の愛車の痛みはこんなもんじゃないはずだ!」
「八つ当たりばいね」
「あっ。あ、浅蔵さんストップ! ストップです!!」
上田さんの声に慌てて攻撃を止めた。
なぜ止められたのか、俺にもすぐに理解できた。
緑色だったスライムの体色が、核のところから色が変色していっている!?
「あんな風に変わるのか」
「赤……水が弱点だが、誰も水属性の攻撃を持ってないよな」
「私が行くけんっ」
俺たちのパーティーだと、俺が火と電気──雷だな。セリスが聖属性。甲斐斗は雷。虎鉄が風を使える。
雷と風は同じ扱いになってしまうので、実際の攻撃手段は三つしかない。
ただ聖属性はどれに対しても有効なので、セリスに一番頼ることになってしまう。
「色、変わったばい!」
「何色だっ」
「う、上田さん、俺に力を!!」
甲斐斗が張り切る。
スライムボスの色は、赤から青に変色しはじめていた。
「『追撃』!」
スキルを唱え、上田さんが甲斐斗の腕にちょんと触れる。
彼女は甲斐斗の後ろからそれをやったから、その時に奴の顔を見ていない。
顔……真っ赤。
「我、力を得たり! 『ライトニング』!」
甲斐斗……お前、そういうキャラだったか?
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