第174話
芳樹たちが休んでいる三日の間に11階まで到達できた。
このダンジョン。9階までは本当に楽だった。面積が狭いから、道さえ分かっていれば攻略するのに2時間あれば十分。
ただ狭いからか、通路も狭くて自転車に乗れないというデメリットもあったけれど。
最初の2日で9階まで到達し、3日目で10階をクリアして11階を途中まで進んで終わった。
「10階から13階まではオープンフィールドらしい。地上の協会職員は2倍ぐらいの広さじゃないかって言ってたが、芳樹たちの感想だと四倍はあるだろうって」
「随分違うな……どっちが適当なことを言っているんだ」
「協会……かなぁ」
たぶん10階の状況を見て地図の作成を断念したんだろうな。広さに関してもざっと歩き回っての感想だろう。下の階を目指そうとしっかり考えて歩いたのとそうでないのとでは、実際違うもんだ。
しかもダンジョン内のオープンフィールドは、正直東西南北も分かりにくいからなぁ。太陽は出ていてもずっと同じ位置だし、最初の階段が壁際になく、ぽつんとフィールドの途中にあったら階段の向きを基準に何時の方角だって決めるしかないもんな。
「厄介なのは階層の壁だな」
「あぁ。芳樹の話だと、視覚での壁がないって話だしな」
「視覚での壁って、なんですか?」
上田さんが俺と甲斐斗の会話に疑問の声を上げた。隣のセリスもうんうんと頷き、虎鉄に至ってはまったく理解していない。
「視覚での壁というのは、要は目で見てそれが壁と分かるものだ。ダンジョン内には必ず壁がある。オープンフィールドでもそれは当然のように存在している。ここまでは分かるか?」
「はい。福岡02の20階も、荒野のような構造ですけど端っこはありますもんね」
「上り階段のすぐ奥が壁やったね」
甲斐斗は頷き、オープンフィールドにはもう一つ別のパターンがあると話す。
俺も知識としては知っているが、実は見るのは初めてになるんだよな。
「福岡01ダンジョンでも25階から下で見ることになる。どこまでも続いているように
「どこまでも……」
「そう見えるってだけで、実際には壁があるんだ」
「い、意味が分からんのやけど」
セリスが首を捻って俺に視線を向けた。
実際にそれを見せる方が早いだろう。俺と甲斐斗で話し合い、春雄が書いてくれた地図と図鑑とを照らし合わせて壁に向かうことにした。
10階から11階の階段へと向かい、階段の位置を地図に表示させてからそのまま進む。
ここは膝丈の草が生い茂る草原とわずかな森林からなる大自然階層。
どこまでもその景色が続くが、歩いていると急に壁にぶちあたる。
「あ、あれ? こ、ここに何かありますか?」
「それが壁だ」
「壁? なんも見えんけど……」
「俺もネットの情報とか甲斐斗とかに聞いていたから知っているけど……実際に見るのは初めてだな。透明なガラスか何かがあるみたいなもんなんだよ」
壁の向こうにも景色が存在するから、広さを把握することができない。
こういうフィールドは階段を探すのも苦労する。
遠目から見て、自分がどの位置にいるのかまったく分からないからだ。
でも俺の地図があれば、自分がどこにいるのかも一目瞭然。
見えない壁を確認したあと、なんの苦労もなく11階への下り階段へと引き返し階段を下りる。
地下11階は砂漠だった。
ここも見えない壁タイプのオープンフィールドで、春雄が苦労してマッピングしたようだ。
芳樹たちの話だと、10階もまともな地図が無くて下り階段を見つけるのに三日かかったという。11階に関しては五日も掛かったと。
「こういうどこを見ても変わり映えしない景色だと、真っ直ぐ進んでいるつもりでぐるっと回ってるなんてこともあるからなぁ」
「浅蔵さんの地図だとそういう心配せんでいいけん、攻略が楽やね」
迷子になる心配がないっていうのは、ダンジョン攻略では重要だもんな。
ただ砂漠を歩くのは楽じゃない。砂に足を取られてなかなか進まない。
「お前のサポートスキルのおかげで、足の疲れも最小限で済むな」
「か、感謝しろよ甲斐斗。他人をサポートするだけで、俺自身はサポートされないんだからな」
「相変わらず自己犠牲スキルやね」
「あ、浅蔵さん、頑張って!」
それでも上田さんの応援のおかげで、疲れはだいぶん緩和される。
『あさくにゃは疲れたら、セリスの首ちゅーちゅーすればいいにゃー』
戦闘時以外は俺の肩に乗って楽をしている虎鉄が余計なことを言う。
「そうだな」
「そうですね」
甲斐斗と上田さんも真顔でそう言う。
止めてくれ。さも当たり前のように言うのは。
吸うけどさ。
11階の途中で三日目を終え
帰るのは福岡02ダンジョンの我が家。
夕食をダンジョンで取って夜9時ぐらいまで攻略して帰宅。こんなことが出来るのも、ダンジョン図鑑があればこそだな。
転移スキル持ちがいれば攻略途中で地上に戻るなんてことも出来るが、翌日はまた階段からのスタートになる。
転移スキルはあくまでも階段にしか転移出来ないからだ。
スキルじゃなくアイテムによる転移だと、使用回数のことを考えて徒歩で安全な階段に引き返さなきゃならない。
翌日はまた階段から再スタート。次の階層に進むまで、何度も何度も同じ道を往復することになる。
なんにしても時間が掛るのだ。
俺はその往復時間を全て省略できる。
そして図鑑に進むべき道が記されれば、それをコピーして他の冒険家とも共有できる。
宇佐に来て五日目にはついに拡張階層、地下14階へとやってきた。
「さて、こっからが本番だ」
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