第173話
上田さんがゲットしたスキルは、対象ひとりに対してのみ、一定時間二回攻撃になる……というものだった。
『追撃』というスキルで、最初はホーミング系の遠距離攻撃か何かかと思ったんだ。
だが虎鉄が鑑定した結果には、
『味方のひとりに対して付与し、一定時間攻撃が二回攻撃になるって書いてるにゃ』
「二回?」
検証した結果、付与された人が攻撃すると、ワンテンポ遅れてまったく同じようなダメージが入ることが分かった。
俺に付与すれば、鞭でピシっとしたあと1秒ほどしてもう一回ピシっとなる。だが俺は鞭を振っていないし、鞭も勝手に動いてはいない。
ダメージだけが勝手に入っているのだ。
そんなスキルを甲斐斗に使ってみろ。もう無双だろこいつ。
「だからってあの告白の仕方はないばい」
「ないなぁ」
「ダメダメばい」
「ダメだよなぁ。ってか上田さん、甲斐斗の言葉をそのまま受け取ってるんじゃないか?」
「そんな気もするけど、聞けんやろ。私のほうからそんなの」
そりゃなぁ。甲斐斗のあの言葉は愛の告白だったんだけど、気づいた?
とか、聞けるわけがない。聞くべきなのは甲斐斗自身だからな。
それでも──
芳樹たちから連絡を受け、小畑さんや会長にも頼まれて俺たちは大分は宇佐ダンジョンに向かっている。
運転は甲斐斗。車はミニバンで7人乗りだ。
広々と座れる後部座席には、上田さんの姿がある。
彼女のレベルも随分上がって、今は18だ。
宇佐は俺も初めてなので地下1階からの攻略になる。そのついでに彼女のレベルも上がるだろう。
「なんにもないダンジョンだな……」
「ほんとですね」
「支援協会の施設を利用する冒険家も、今までほとんどいなかったらしいからな」
宇佐のダンジョンまでやって来た俺たちは、コンクリートで囲まれた壁の内側まで来て驚いた。
福岡01も02も、コンクリート内には二階建てのプレハブ小屋がある。01にいたっては複数建っていて、利用者は多い。
で、宇佐はというと──
一階建てのプレハブ小屋があるだけ。見た感じ、事務所的な部屋とトイレやキッチンとか、そういった水回りの施設が揃っている程度だろうな。
それでも冒険家の姿はある。
福岡から来た攻略メンバーだ。
「おーい、浅蔵、甲斐斗ぉー」
「お、芳樹。拡張お疲れさん」
「おう。三日ぐらい休むからさ。その間にお前らも下層に下りてくれ。地図は作ってあるから」
その地図は支援協会に預けているという。
「ところで、休むってどこで休むんだ?」
「ここに泊まれると思うか?」
と、芳樹は背後のプレハブ小屋を指さす。
宿泊施設なんてないだろうな。
「近くのアパートが宿泊施設になってんだ。ダンジョンから近いってんで、もう誰も住んでないんだとよ」
「そうか」
「んじゃああとは任せたぞ。出来るだけ早く13階まで到着してくれ」
3日ではさすがに13階までは行けないだろう。
「甲斐斗はどうすんだ?」
「暫くこっちにいる……いや、浅蔵と時籐さんさえよければ……こっちのパーティーに移ろうかとも」
「俺は別にいいけど」
「私もOKですよ」
『あっしにも聞かにゃいのか?』
虎鉄は自分の名前が呼ばれなかったことにご立腹なようで、甲斐斗の足に爪を立ててへばりついた。
顔をしかめながらも甲斐斗は「虎鉄もいいか?」と尋ねる。
『いいにゃよぉ』
満面の笑顔でそう言って、虎鉄は甲斐斗から離れた。
鬼だろ。
「あれ? 転送屋の上田さんじゃね?」
「あ、ども。小島さん」
「こっちで仕事を?」
「いえ、レベル上げるためにです。福岡の攻略をするのに、下層まで転送できるようになりたくって」
誘ったのは俺たちのほうだが、上田さんも前々から協力したかったのだと話してくれた。
新しいスキルも手に入ったし、彼女が直接戦力になっているわけじゃないが、その効果が絶大だ。
効果時間が短いので、ぜひともレベルを上げて延長して欲しい。
芳樹らと別れた後支援協会のプレハブ小屋へと行くと、待ってましたと言わんばかりに協会員が出てくる。
「福岡02ダンジョンの浅蔵さんですね? 図鑑をお持ちだっていう」
「あ……はい」
「お待ちしておりました! あ、これがダンジョン内の地図です」
受け取ったのは、やたら詳細な地図だ。手描きじゃない。パソコンで書き出したものだ。
「利用者が少なくてね……ここに赴任されてからずっと、暇で暇で……」
だから支援協会員自らが中に入って地図を作製した……と。
「戦闘系スキル持ちもいますので。といっても10階までの地図しかありませんが。11階から13階は、攻略パーティーがメモしたものをお使いください」
「はぁ……」
なんで11階から下にはいかなかったのか。
「規模の小さいダンジョンなんですが、10階から階層面積が突然広くなるんですよ。だいたい倍ぐらいでしょうか」
そのうえ11階から13階には旨味がない。だから地図作成もそこでやめてしまった、と。
「分からないことはなんでもお聞きください。10階まででしたら、たいていのことは分かりますので」
そう言って支援協会員のスタッフ四人が、一列に並んで微笑んだ。
よっぽど暇だったんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます