第172話

「上田さんも天神のダンジョンには入ってたのか」

「はい。あそこのダンジョンは大きいので、冒険家も多かったですし。02ダンジョンが出来る前までは天神にいたんです」


 月曜日。上田さんを誘って福岡01の天神ダンジョンへとやってきた。

 もちろん甲斐斗も一緒だ。

 名目は──


「そうですか……ついにここのダンジョンを攻略するときが来るんですね」

「そうばい。やけん上田さんにはもっと下層まで転送が可能になっとって欲しいと」

「でも私……足手まといにならないかなぁ」


 ここで俺が甲斐斗を肘で突く。

 隣にいて、ごくりと喉を鳴らすのが聞こえるほど、ガッチガチに緊張しているようだ。

 それでも頑張って、


「お、俺も一緒に行く。護衛は任せろ」


 とカッコつけてはいた。


『あっしもいるにゃよ』

「虎鉄ちゃんがいたら、安心ねー」

『にゃー』


 虎鉄……空気読めよ。

 なんとなく落ち込んでいる甲斐斗を他所に、上田さんはここのダンジョンのクリア階層の話を始めた。


「私、9階までは行ったことがあるんだけど」

「じゃあそこから進もうか」


 彼女に直接図鑑の話はしていないが、02ダンジョンで毎日のように見ていれば俺が転移スキル持ちだというのも気づいていた。

 正確には図鑑だが。

 その正確な話をしたのはついさっき。

 若干驚かれはしたけど、そうなんだーという反応だった。


 なので移動は俺が担当する。

 彼女は9階まで来たことがあるというので、そこまでは図鑑で転移することに。


 一度通っているし完璧な地図もある。

 だが9階から下は、暫く自転車が使えない構造の階層ばかりだ。


「分身先行。甲斐斗は俺たちと一緒に行動してくれよ」

「分かった」

『そんじゃあお先に』


 分身には支援協会の人に模写して貰った地図を持たせてある。いや、持って分身した。


 地下9階は洋館タイプだが、02ダンジョンとは違って本当に建物の中だ。

 3階建てなので地図が複数ページに跨ってDBP的に美味しい。

 ここはするっとクリアして地下10階へ。

 

 ここは監獄のような構造で、アンデット系モンスターが多い。

 鉄格子はどこも半分開いてて、足枷の付いたゾンビが格子から出てきてるっていうね。


「戸締りしとけよ!」

「看守もゾンビだからな、仕方ないだろう」


 さっさと抜け地下11階に。

 ここは無数の浮島と、それを繋ぐ橋で構成された階層だ。


「うわぁ、高所恐怖症だったらこの階層クリアするの無理ですね」

「けど落ちても死なんとよ」

「え、そうなの?」


 若干安心したような上田さんの表情。

 そりゃー誰だって気になるよな。実際最初のひとりが落ちるまで、全員が死ぬと思っていたのだから。


「落下するとここに戻って来る。それだけだ」


 ぼそりと甲斐斗が説明し、そしていきなり飛び降りた。


「きゃーっ! 嶋田さん!!」

「嶋田さんって誰なん?」

「あぁ、甲斐斗の苗字のほうだ」

「嶋田甲斐斗だ」

「きゃーっ!? し、嶋田さん??」


 飛び降りた甲斐斗が俺たちの後ろに現れる。

 どこから落ちても、かならずここに戻って来るのだ。


「し、死なない……んですね」

「あぁ。だが安心はするな。ここだからすぐに合流できるが、ずっと先で落下すれば逸れるんだからな」

「そ、そうですね」

「もし誰かが落ちたら、全員で落ちる。そうやって合流するんだ」


 と甲斐斗先生がご説明。


 途中で階段へ引き返して夕食を取り、さっきの場所まで図鑑で戻ってなんとか夜遅くにクリア。


「じゃあ02ダンジョンに戻るよ」

「上田さん、よかったらうちに泊まる?」

「え、いいの? そうして貰えると助かるぅ」

「んじゃ甲斐斗はリビングで寝るか?」

「……寝る」


 そんな感じで、なんとなくWデートになっているようで全然なっていないダンジョン攻略が始まった。

 芳樹たちが宇佐ダンジョンの拡張に成功したのは、それから数日後のことだった。

 

 連絡を貰った時、俺たちは01ダンジョンの22階をクリアしたところ。

 途中の20階で偶然、階層ボスと遭遇して上田さんがスキルをゲット。

 そして確定した。


「う、上田さん……よ、よかったらその……お……俺のために──」


 甲斐斗、頑張れ!


「し、嶋田さんのために?」


 俺とセリスと虎鉄がこっそり見守る中。


「俺のためにそのスキルを使ってくれ!」


 甲斐斗の斜め下な告白が行われた。

 ってちょっとまてーっ!

 それ告白じゃねーからっ。

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