第171話
「ぷはっ。な、なんで私と上田さんが百合なん?」
風呂上がり、甲斐斗を連れて自宅に戻ってから、冷静に話し合ってからのこと。
途中から加わったセリスが大爆笑をする。
百合──女の子同士が恋愛感情を持つものだと、彼女は笑いながら教えてくれた。
甲斐斗がなぜ百合の意味を知っていたかは、問わないでおいてやろう。
「そ、それで。甲斐斗さんは上田さんのことが、好きになったってことですか?」
問われた甲斐斗の顔は、完全に茹蛸状態に。
どうりで話が噛み合わなかった訳だ。
ま、まぁ安心した。うん、甲斐斗が正気でよかったよ。
「っていうか、いつの間に?」
「……こ、ここに戻って来てからだ」
「いつ戻って来たんだよ」
「……今週の月曜日」
一目惚れか?
いや、それはないな。だって以前からここで顔ぐらいは合わせていただろうし。
「上田さんとお話する機会でもあったんですか?」
セリスの問いに頷く甲斐斗が、ぽつりぽつりと語りはじめた。
月曜日にここに戻って来て念のため家を訪ねたそうだが、俺はもう福岡01に出発していて──。
「そこへ彼女が来たんだ。浅蔵はもう出かけたって、教えてくれてね」
「それで惚れた?」
「訳ないだろうっ。そんな程度で惚れてたら、いったい何百人の女を好きになっているか分からないぞ」
「浅蔵さん、茶化さんで。それで甲斐斗さん、どうしたと?」
セリスは興味津々だ。女の子ってこういう話、好きそうだもんな。
「ひとまず、暇だし、まだ見ていない階層ボスを探してスキルでも狙おうかと思ったんだ」
「ひ、ひとりで倒すつもりなん?」
「35階ぐらいまでならひとりでも倒せるから」
サラっと言うが、普通はレベル50あっても35階層のボスをひとりで倒すとか考えないからな。
それだけこいつの火力は化け物レベルなんだよ。
「それで上田さんに転移依頼したんだが……」
彼女は21階までの転送しか出来ず、仕方なく20階の女王アリを──
「倒したんだ」
「倒したのか」
「あぁ」
サラっというなぁ、くそう。
「でもスキルは出なかった」
ヨシ!
「それで倒し終えて、彼女に地上までまた送って貰って……。次に奴が復活するまで、他の階層に行こうかとも思ったんだ。けど──」
『元気なさそうですね。どうしたんですか?』
と、上田さんが尋ねてきたそうだ。
「彼女と言葉を交わしたのは、その日が初めてなはずなんだ。でも何故か彼女は俺のことを知っているようだった」
「そりゃあお前……女性冒険家の間じゃ有名人だからな」
雷なんて厨二病を代表するような魔法は、見た目が派手でカッコいい。そのうえ実際にイケメンなんだ。
たいていの女はお前の事見てるんだよ!
はっとなってセリスを見ると、ウキウキしたような目で甲斐斗を見ていた。
れ、恋愛対象……じゃないよな?
「俺は……有名なのか……なんか目立つことしたか?」
「いや、いいんだ。気にするな。それで上田さんとはどうなったんだ?」
「ん……転送の仕事をしながら、戻って来ると俺に話しかけてくれるようになったんだ」
「なんの話をしたんだよ」
「あぁ。お前らがやっとくっついた話とか」
「なんの話してんだお前らは!?」
しかもその話で盛り上がったらしい。
勝手に人の色恋で盛り上がるな!
「それで、気づいたら『どうして今日はひとりなんですか』って聞かれ、それに答えてたんだ」
「上田さん……誘導が上手いばい」
「そのために俺らは踏み台にされたのか」
「そんなんどうでもいいけん。それで、甲斐斗さんは上田さんのことをどうして?」
「は、話しているうちに……自然とこう……話しやすい人だなって思えて」
甲斐斗はモテるが、自分から女子に声を掛けたりはしない。
そこがクールでカッコいいなんて、高校の時はキャーキャー言う女子は多かった。
告白もよくされていたし、来る者拒まずな甲斐斗は、その時フリーならアッサリOKしていた。
が、長くは続かない。
イケメン甲斐斗をゲットできた子は、だいたい自慢したがって学校でもイチャイチャしようとするんだ。
それが甲斐斗にとっては凄く嫌らしい。まぁ恥ずかしいっていうのもあるんだろうが、自分をアクセサリーみたいに扱われるのが我慢できないんだろう。
イケメン甲斐斗と付き合える。
学校の女子の間では、それがひとつのステータスのようになっていた感じもあったしな。
そういえば学校を出てから暫くは彼女もいなかったな。
二十歳過ぎて二人ほど彼女を見たことがあったが……結果はまぁいつも通り。
毎回女の方からの告白で、甲斐斗から告白したことは一度もない。
「お前、女の子好きになったのは?」
「……あ、あるさ。し、小学校の頃……けど、アレがあっただろ。それどころじゃなくなったんだ」
アレ──福岡01ダンジョンが生成されたことか。
確かにあの時は恋愛とか頭になかったよな。
「俺の方から女にいろいろ話したのは初めてなんだ……。いつもは女の方がぺらぺら喋ってるのを聞かされるだけで……俺の話は聞こうとしてくれない子ばかりだったからさ」
「そういう我の強い女ばっかに告白されてたもんなぁ」
「大人しい子はなかなか告白とかできんばい。すっごく勇気いるんやけん」
確かに……あれはすごく勇気がいるし、恥ずかしい。
そうでもない子がどんどん告白してきて、深く考えない甲斐斗は相性のあんまりよくない子とばかり付き合って来たのか。
「水曜日からは下層にもいかず、ずっと食堂横で彼女と話しているんだ」
「うわぁ……お前それ、ストーカーみたいだからヤバいぞ」
「マ、マズいか?」
そりゃあ四六時中傍にいたら、怪しまれるだろ普通。
「そ、そうか……くっ。どうすればいいんだ」
「誘えばいいんばい」
「「え?」」
どこかで見たような、だけど別の子が見せる笑顔によく似た表情のセリスがいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます