第45話

「浅蔵さ~ん。元気を分けて貰うって、具体的にはどうなるんですかぁ?」

「知りません」

「試してみましょうよ~。セリスちゃんで~」

「な、なんで私なん!?」

「じゃあ私がちゅ~ってされても「ダメ!」でしょ~?」


 エナジーチャージ。対象の首筋をちゅ~っとすることで元気を分けて貰える。つまり変態スキルだ。

 いくら疲れたからって、こればっかりはダメだろう!


「つ、疲れてますか?」

「疲れてない! だ、だだだだ大丈夫だから!!」

「どんな感じのスキル効果なのか~、知っておくほうが良いと思うんですよね~。いざという時の為にぃ」


 ぐあぁーっ。正論だ。正論過ぎて何も言えない!

 スキル効果がどんなものなのか、有事ではない状況で把握しておいた方が良い。

 もしもの時、期待して使ってみたら全然でした~って事にならないためにも。

 元気を分ける側の疲労はどうなのか。それも実際にやって見なきゃ分からない。

 倒れる程元気を失うなら、それは使ってはダメなスキルだってことだ。


 決してセリスさんの首筋をちゅーちゅーしたいとかそんなんじゃないですからでも本当にいいのかやってもいいのか?

 はぁはぁ……ちょっと俺興奮し過ぎ。

 だって仕方ないだろ。


 赤みを帯びた顔のセリスさんが、俺の事じっと見ているんだから。


 ――吸う?


 そんな顔して見てんだから!


「吸っちゃえば~?」

「そんな簡単に言うんじゃありません! よ、嫁入り前のお嬢さんに、傷一つつけられないだろ!」

「首筋をちゅ~ってするぐらいじゃないですか~。えっちぃ」

「えっちじゃない! 首筋ちゅーちゅーするのはえっちじゃない!」

「もう、馬鹿。浅蔵さん、吸うなら早く吸ってください!」


 す、吸ってください、だと?

 ぐ……落ち着け俺。これはスキルだ。スキルの効果を試すだけなんだ。

 煩悩退散煩悩退散。


「じ、じゃあ、頂きます」


 耳まで真っ赤にしたセリスさんが、自らその首筋をさらけ出す。

 ホームセンターから持って来たTシャツをぐいっと伸ばすと、肩まで露になった。


 ごくりっ。

 い、いいのか。本当にぱくってしていいのか。

 えぇい。ダンジョン攻略において、大事な検証なんだこれは!


 左肩に手を乗せると、僅かに反応があった。

 小さく深呼吸して、露になった肩に自分の顔を当てるようにして首筋へと口を付ける。

 また反応。


「大丈夫?」


 声を掛けるが、彼女は目をぎゅっと閉じてこくこくと頷く。

 い、いいんだよな。うん。


 今度はぱくりと噛みつくようにして口に含んだ。


「んん……」


 ごめん。少しだけ辛抱してくれ。

 あまり長引かせると恥ずかしくて仕方ない。

 俺は急いで吸い付いた。

 勢いよく吸い付き、万が一彼女の元気を全部貪ってもまずい。いや、どんな仕様か分からない以上、なるべく優しく吸い取る事にした。


 ちゅ~っと、俺の口の中で音が鳴る。

 それと同時に、口から暖かい何かが流れ込んで来た。


 直ぐに口を離す。


「な、なんかキタ! んで、少し疲れてたのが全部消えた! セ、セリスさんはどう? 疲れてない? 倦怠感は?」

「……無い……ばい。平気……ぽい」

「そっか。良かった。いや、でもそんなに吸ってないから、平気だったのかもしれない。もっとぐいぐい吸い付いたら、セリスさんの方が倒れないか心配だ」

「じゃあグイグイ吸ってみたらどうですか~? 今ならぁ、倒れても平気ですし~」


 ここにはベッドもある。倒れてもすぐ休める環境なので大丈夫だ、と大戸島さんは言う。

 でもなぁ。

 チラりとセリスさんを見れば、彼女は赤い顔で「どうぞ」と首を差し出す。


 ……もう気分はドラキュラだね。

 差し出された白い首筋を拒むことが出来ない。


「じ、じゃあ……少し強く吸う……ね」

「はぃ」


 再びきゅっと目を閉じたセリスさん。その肩を抱き寄せ、俺は再びかぶりついた。

 歯を充てないよう気をつけ、それからちゅーちゅーと吸う。

 先ほどよりも強く、そして長く彼女の首筋を吸い続けた。

 柔らかいその首筋は俺の唇にフィットし、なんとも離しがたい感触だ。


「……はぁ……」


 セリスさんの口から洩れた吐息で我に返る。

 い、いかん。ちょっと変態じみてたぞ俺。


「大丈夫かい?」


 もしかして元気を吸い取り過ぎた?


「ぁ……だ、大丈夫です。ま、まだ吸っても平気やけん」

「いや、これ以上吸っても意味無いと思う。もう俺の疲労は完全回復してるから」


 寧ろこれ以上吸わせて貰ったら、元気があり余り過ぎていろいろマズいことになりそうだ。


「そ、そうですか……」

「う、うん。ありがとう……」


 う……言葉が続かない。なんだこのすっごく恥ずかし状況は。


「んふふ~。良かったですねぇ浅蔵さん。これでいつでも回復できますね~。あ、私はダメですよ~。タケちゃん一筋だからぁ~」


 そう楽しそうに大戸島さんは言った。


 いつでもって……今回は検証しただけだから。この先万が一、疲労困憊状態でどうしても動かなきゃならない状況になったりとか、そんな時じゃないとしないから!


「これでいつでも浅蔵さんに元気分けてやれるばい。……よかった」


 へ?


 まるで慈しむような微笑みを浮かべたセリスさん。


 い、いいんですか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る