第46話

 それから二日後の夜中。ダンジョン生活50日目の深夜になるか。

 この二日間音沙汰の無かったスマホがようやく鳴った。ただし俺のではない。

 着信音が犬の鳴き声と言うマニアックなのは大戸島さんので、彼女は寝ている。

 見たい……送信者は芳樹だろう。それしか考えられない。

 でも女の子のスマホを勝手に読むなんてダメだろう!


 なんで……なんで芳樹は親友の俺にメールしてくれないんだよ!


 と思ったら俺のスマホも着信音が!


 そうだよな! 俺にも送ってくれるよな! だって俺たち、親友だもんな!!


『9階野宿中。明日は昼から移動開始。9階砂漠なため、時間かかるかもしれん』

『by貴方の心の友、春雄』


 ・ ・ ・。

 なんだこの心の友って……。

 とりあえず芳樹、テメーはダメだ。


 しかし9階は砂漠だったのか。上がる前に芳樹からのメール着信があって、確認しないまま引き返してきたもんな。

 砂漠で野宿することになるんだろうなぁ。まぁあいつらなら大丈夫か。

 となると、俺たちも明日は昼過ぎに出発して、9階に上がる階段で野宿して明後日はそこで待つことにするか。


 翌朝、目を覚ました二人にメールの件を伝え、俺はもうひと眠りさせてもらうことにした。

 3時間ほど休んで昼食を取ったら出発だ。


「じゃあまぁ、スライムゾーンは自転車で、ネズミーランドは徒歩で」

「なんですか、そのネズミーランドって……」

「……そこ、笑ってくれると嬉しかった……真剣につっこまないで」


 自転車に跨ってスライムはスルー。ラットの姿が見え始めたら自転車から降りて、四つ角あたりで無理やりポケットを広げて収納した。

 中央まで来ると、そこには巨大ラットの姿が……。


「なんでお前、またここに居るんだよ……」

「倒したはずじゃ!?」

「セリスちゃん。ボスってね、何日か経つとまた出てくるんだよ~」

『ヂュヂュ~ッ』

「"スリープフォッグゥ"」


 上手い!

 マイクを取り出そうとしたジャイアンラットに駆け寄り、大戸島さんが霧を発生。


「いいよ~セリスちゃん」

「てぇやぁ!」


 薙刀を構え高くジャンプしたセリスさんは、そのままジャイアンラットのこめかみを一突き!

 痛みで目を覚ましたジャナンラットが悲鳴を上げ、怒り狂って彼女に腕を伸ばす。

 だが彼女はその攻撃を、見事なフットワークで躱していた。

 スキルの効果が表れているな。

 攻撃を躱されバランスを崩したジャイアンラットに、こっそり後ろから近付いた大戸島さんが――


「"スリープフォッグゥ"」


 と再び眠らせる。 

 夢の世界に旅立ったジャイアンラットの胸に、再びセリスさんが薙刀で一突き!

 ジャイアンラット目を覚ます。セリスさんに激怒して攻撃する。でも彼女はそれを躱す。バランス崩すジャイアンラット。大戸島さんが眠らせる。


 なにこのコンボ。


 俺、何もしないまま戦闘が終了。


「やった~。スキル貰ったぁ」


 一度倒したボスモンスターから二度とスキルは貰えない。前回貰えなかったから、大戸島さんは今回貰えたのだろう。

 わかっちゃいるが、なんとなく悔しい。






 9階へと上る階段までやって来たが、流石に芳樹たちはまだ来てないな。


「時間も早いし、少し地図を埋めようと思う。ここまで迎えに来ると伝えていたし、すれ違っても階段で待っててくれると思う」

「そうですね。救助の人がまだ到着しとらんのなら、それはそれでメールを使って位置を伝えられるやろうけん」

「いや、それは向こうが地図を持っていたらの話だからね」

「あ……そうやったたい」

 

 セリスさんがてへっと小さく舌を出す。

 こ、この子はこういう可愛い仕草とかもしちゃうんだ。

 いいねぇいいねぇ。女子高生可愛いなぁ。


 春雄のメールにあった通り、9階は砂漠地帯だった。

 じりじり照り付ける太陽。どこまでも続く砂丘。――暑い。


「ダンジョンってこれまでずっと涼しい感じやったのに、ここはあっついばい」

「11階の山はちょっと寒かったね~」

「やっぱり構造によっては温度差あるんですね」

「うん。特徴的な構造だとね。中にはもっと暑い、マグマが点々とする危険地帯もあるんだよ」


 幸い、そのダンジョンは日本では見られない。代わりに北極か南極かってぐらいの、極寒の地はあるけどね。


 30分ほど対角線上に真っすぐ進んで引き返す。生息するモンスターはマイルドキャンサーというサソリだ。

 ワイルドではなくてマイルド。毒の無いサソリだ。体長1メートルもある巨大サソリだが、毒がないならそれほど脅威にもならない。あと甲羅も硬くない。確かにマイルドって感じだ。

 その事も芳樹たちにメールをして伝えておいた。


「お兄ちゃんたち、砂漠の中で野宿するのかなぁ~」

「そうだろうな。人数が居るし、二人が見張り、残りが睡眠なんてことも出来る。俺たちと違って、ひとり2回見張りに立つってこともないしね」


 俺たち3人の場合、二人で見張りをすればどうしてもそうなってしまう。

 人数は多ければ1組あたり2時間半ぐらいで交代できるからな。それなりに体を休める時間も取れるってもんだ。


「大丈夫。あいつら全員、戦闘系スキル持ちだから。しかも複数のね」


 ただそこまで言って、それが凄いことなのか分からなくなってしまった。

 以前の俺なら確実に「お前らすげーな」って言えたし、言っていたんだが……。


 疲労回復系スキルと戦闘でも使える二つのスキルを持ったセリスさん。

 寝るだけで怪我すら回復させるスキルと、敵を眠らせる魔法スキルを持った大戸島さん。

 

 この二人を見て、俺の友人らはどう思うだろうか……。

 そして俺が新しくゲットしたのは、どうにも戦闘系とは言いづらい物。

 悪くない。悪くないんだよ効果は。

 でもちょっと……微妙。


「えへへ~。あっさく~らさ~ん♪」

「ん? どうしたんだ。そんなに浮かれて」

「新しいスキルね~、『ばーん』っていう変なスキルでした~」


 ばーん? 確かに変なスキルだ。


「でも効果が酷いばい。手でこうして、拳銃を撃つようなマネして"ばーん"っていうと、空気砲が飛ぶんばいっ」


 なにそのチートみたいなスキル。

 大戸島さんは本格的に後衛職みたいになってきたなぁ。

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