第81話

「応援?」


 21階に降りて、そこから再び1階へと戻る。

 そして自宅で寛ぎながら、二人と一匹のスキルを聞くことにした。


「はい。応援することで、一定期間、私から応援された人のステータスが、ワンランク上がるスキルです」

「ちょ。それ凄くないっすか?」


 凄いだろうな。ステータスをワンランク上げるのに、レベルをいくつ上げなきゃならないか。

 その辺りは全く分かっていない。

 そしてワンランク上がることで、身体能力はぐんと向上する。

 時間にしてどのくらいなのか分からないが、このスキルがあれば……。


 あぁ、通りでさっき、嬉しそうに笑ったかと思ったら、それもすぐに消えた訳か。


 このスキルが最初からあれば、彼女はパーティーから便利屋としてのみに利用されなかっただろう。

 スキルはそう長い時間続かないはずだ。そのたびに掛けなおしが必要だし、重宝されただろう。

 そう思うと、なんとなく悔しかったのかもしれない。


「ふふ。転送後にこのスキルを使えば、きっとリピーターが増えて儲けも増えるはず!」

「そうっすね。効果時間どのくらいっすか?」

「10分ですねぇ」

「へぇ、結構長いんやね」


 10分だけ下層の階段を下りて狩りをし、効果が切れたら上に戻る。そんなことも出来るだろう。

 どうやらこれからもパーティーを組んで下層攻略を目指す気はないらしい。

 

 武くんのスキルは『ガード』。

 割とメジャーなスキルで、持っている人は少なくはない。そしてメジャーでありながら、欲しがる冒険家もまた少なくはない、そんな効果を持つ。


 ガード。発動させると一定時間、敵の攻撃を見えない盾で防ぐ効果がある。

 ただ本人より圧倒的に格上相手の攻撃は一発で盾が消滅するようで、過信してはいけないスキルだ。


「これで瑠璃のボディガードもばっちりっすね!」

「そのスキル、実は人相手にも使えるからね」

「え? そうなんっすか? じゃあ瑠璃を狙う野郎どもを吹っ飛ばすぜ!」

「スキル使って彼女さんに近づくと、彼女さんと握手すら出来なくなるわよ?」

「ぐえ? マジっすか?」


 上田さんの説明に武くんは情けない顔で尋ねる。本当の話だ。


「虎鉄。お前はなんのスキルを貰ったんだ?」

『にゃ? スキルは無いにゃ』

「無い? でもお前、さっき喜んでたじゃないか」

『レベル10になったにゃー』


 それで喜んでいたのか。レベル10になって、何か変わる訳でもないのにな。


「皆さん、ありがとうございます。これで21階への転送も、そしてお客さんを応援する事もできます」


 そう言って彼女は自分の荷物から封筒を取り出す。中には9万円入っていた。

 一人三万ずつ。護衛としては悪くない金額だ。


「皆さんが狩りに行くときは、ぜひ声をお掛けください。皆さんでしたら無料で転送しますよ」


 にっこり微笑んでそう言ってくれる上田さんには悪いけど……自分で出来る――そう告げると、上田さんはガクっと項垂れる。

 だけど応援だけは欲しいかもしれない。

 そう伝えると彼女は喜んでと、また微笑んでくれた。


「それじゃあ」

「上田さん、暇なときは尋ねてきてね」

「うん。ありがとうセリスさん。セリスさんも頑張ってね」


 そう言って俺を見る上田さん。


「上田さんも頑張って」


 声を掛けるが、彼女は眉間に皺を寄せこちらをじぃっと見るばかり。

 と思ったらセリスさんを見てポンっと肩を叩いたりしている。

 女の子二人は何か通じるものでもあったのか、すっかり仲良しだ。いったい何を話しているのか。


 上田さんが帰ってから、虎鉄がうきうきしながらやって来た。


『あさくにゃー。あっしは何に進化しにゃらいいにゃかねー』

「は? 進化? お前、進化してどうするんだ」

『にゃー。進化したら強くなるにゃろ?』


 うぅん。たまにアニメのDVDとか見せていたが、その中に幼児向け出ないのも混ざっていたのだろうか。随分と厨二っぽい事を言っている気がするなぁ。

 だいたい虎鉄は猫だぞ。何に進化するって……いや……。

 虎鉄は猫だが、ダンジョン猫だ。普通の猫じゃない。


「お前、レベル10になったら進化するのか?」

『にゃー。進化出来るにゃよぉ』

「あ、浅蔵さん?」

「兄貴、虎鉄の進化って……」


 三人でじっと虎鉄を見る。

 虎鉄はみんなに見つめられて恥ずかしいのか、手で顔を隠して指の間からチラチラ見ている。

 くっ。何に進化出来るのか知らないが、萌えかわゆす。

 進化でこの萌えが失われてはいけない!


「虎鉄。お前が進化出来るものって、何があるんだ?」

『にゃ? にゃんだっけかにゃー。ステータス板で確認できるし、進化もそこでするにゃ』


 だったら行くしかないっしょ。


 昼食を済ませ午後からのレベル上げも兼ねて、向かったのは24階。

 入口側のステータス板で虎鉄のステータスを確認すると――。



∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


 虎鉄 ダンジョン猫  0歳

 レベル:10

 筋力:E  肉体:F  敏捷:B

 魔力:C  幸運:A

【スキル】

 奥義・爪磨ぎスラッシュ2


 レベル10に達成しました。

 進化が可能となりました。

『猫又』『ケットシー』『ワーキャット』より進化先を選択してください。


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽



「選べるのか!」

「兄貴、ケットシーあるっすよ」

「これで本物のケットシーになれるんじゃ……」

『にゃー。じゃあケットシーを選ぶにゃー』


 え、待って。ワーキャットって気になる。

 あ、もう遅い? なんか虎鉄光っちゃってるよ。お前いつの間に進化設定したの?


 光が収まり、だがそこに居たのは先ほどと何も変わらない虎鉄の姿が。


「進化した?」

『にゃぁ~』


 ドヤっと、ステータス板に触れた虎鉄。そこに浮かび上がったステータスには、名前の横に『ケットシー』という文字があった。

 他に変化したのはレベル。また1に戻っていた。

 それ以外の違いは無いが、本猫は『強くなったにゃ!』と大喜びしている。

 さて、どこがどう変わったのか。


 ひとまず虎鉄の萌え度が下がらなかったことは、俺としては大変嬉しい事だった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る