第6話

「はい。これがスライムです」

「うわぁ……思ったより小さい」

「かわいぃ~」


 図鑑からグリーンスライムを一匹取り出して彼女らに見せる。

 モンスターに慣れてもらう為でもあり、図鑑の能力の検証の為でもあった。


 いやぁ、本当に取り出せるとはね。

 

 取り出し方は至って簡単。

 該当ページのモンスターイラストに手を突っ込むだけ。

 そう。ページに手を入れられるんだ。

 そしてグニュっとした物を取り出したらあら不思議。スライムだったというね!


 これ危なくないか!

 スライムがソフトボールより少し大きいサイズ程度だからいいけど、でかい奴どうすんだよ!

 皮膚に毒のあるモンスターとか、掴んだだけでヤバいだろ!!


 スライムだって一応モンスターだ。最弱だけどモンスターだ。

 取り出して慌てて投げ捨てたわっ。


「動き……遅いんですね」

「うん。まぁね」


 スライムはもぞもぞと移動する。たぶん転がった方が早いんだろうが、それを考えつく知能はないようだ。

 ぷるぷるっと震わせ、体の半分ぐらいの距離を移動する。

 実に遅い。

 離れた所から長めの武器で叩けば、簡単に潰せる。


「ただしね、刃物で切ろうとしても切れないんだ。ちょっと見てて」

「はい」

「えぇ。切っちゃうんですかぁ?」

「……切れないから、見ててね」


 店内から持ってきた草刈用の鎌を振り下ろす。

 鎌の刃はそのままスライムの中に入っただけで、特にダメージも与えられていない。

 スライムを倒すときは、ピンポイントで核を狙うか、小さい物ならハンマーみたいなので叩くのが良い。


「平たい物ならいいんだ。鎌でも刃を立てず、平らな部分で――こうやれば潰せる」

「おぉ」

「いやぁ、潰れたぁ」


 うん。倒す方法教えてるんだけどな。


「じゃあ木製のバットとかでも倒せます?」

「あぁ、小さいのならそれで充分だよ。ただ下の方の階層に出るスライムだと、生命力高くてバットじゃダメだって友人が言ってた」

「試したんですね……」

「ああ。俺も同じツッコミ入れたよ」


 潰したスライムは、時間の経過と共に床に染み込むようにして溶けて行った。

 本来モンスターを倒すと、ダンジョンの地面にずぶずぶ沈んでいくんだけどな。

 ある意味この店は、もうダンジョンの一部なのかもしれない。


「今のスライムで、DBPはいくつ消費するんです?」

「あぁ、スライムというか、階層ごとに違うみたいだ。地下1階のモンスターは、一律1DBP消費する」

「少ないですね。今所有しているDBPは?」

「えぇっと、15,499ある……」


 スライム何匹取り出せるんだ……。

 いや、なんでこんなに多い?

 DBP獲得条件がダンジョン初回入場だとか、最下層初回入場でかなり貰えるんだったな。そのうえ初回ボス討伐でも5000貰ってるし。


「スライム取りたい放題ですね」

「そう……だね」

「じゃあスライム天国にしましょう~」

「「いやいや」」


 大戸島さん、なんて事を言い出すんだ。見た目がアレでも、モンスターなんだってば。


 昔、ダンジョンが出来て間もない頃。

 彼女のように、スライム可愛い~という女性探検家が居た。

 それを見てある企業が「これは売れる!」と、スライムを生け捕りに。

 地上でそれを売ろうとしたが、手乗りインコ風に社員が腕に乗せていたところ――。


「の、乗せていたら?」

「ぷにぷにして気持ちよさそうですけどぉ」

「いや、残念ながら気持ちいいどころか、皮膚を溶かされてしまったんだよ」

「はぅっ」

「ひゃあっ」

「だからモンスターをペットになんて、絶対ダメ」


 こくこくと二人は頷く。


 ま、とはいえ取り出すんだけどね。


 冒険家になったのは高校を卒業してから。そして僅か半年でリタイアした。

 鞭に関してはそれ以前から好きだったから、空き缶の狙い打ちは命中率85%以上。今ではそれ以上だろう。

 でもそれは動かない空き缶相手だ。


「勘を取り戻すために、少し戦闘訓練するか」


 鞭を振るには少し空間が必要だ。

 少し広い所で、更に周辺の商品を片付け場所を確保。


「あの、私もいい?」

「え?」

「ほら。モンスター倒すと、レベルが上がるって言うじゃないですか」

「あぁ、まぁ、うん」


 モンスターをある程度倒すと、レベルというものが上がる仕組みにはなっている。

 ただ、常時ステータスが見れるわけでもないし、HPやMPなんてものは存在しない。

 筋力や肉体といったステータスは、ABCのアルファベット表記。

 レベルアップ時にこのステータスがランクアップするか――と言えばそうでもないんだよな。

 ただ極稀に成長することはあるようだ。

 しかもワンランク上がっただけで、劇的に能力が変わるらしい。


 まぁ鍛えて悪いものでもない。

 救助が来なければ自力脱出も考えなきゃならないからな。戦えるようになり、尚且つレベルが上がっていたほうが生存率も上がるだろう。


 彼女はさっき言ったバットを握りしめ、じっと床を見つめた。

 ここに出せ――そういう事ですね。


「じゃあ――ほいっ」


 べちょんっと床に落ちたスライムは――。


「はぁ!」


 ぶしゅっと、瞬殺されました。


「ほいっ」

「は!」

 ――ぶちゅ。

「ほいさ」

「はい!」

 ――ぶちゅ。

「おいさっ」

「たぁ!」

 ――ぶちゅ。

「あ、待ってください浅蔵さん……ちょっと眩暈が」

「あぁ。レベル上がったんだよ。上がるとね、軽い眩暈起こすから」

「そうなんですか」

「少し休んで。2、3分で収まるから」


 その間に俺も戦闘訓練したい……。


「いえ、もう大丈夫です。続けてください」


 ……俺の戦闘訓練……。

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