第194話:傲慢、その結果

【業務連絡だよ】


 あの胸糞悪いボーカロイドの声がした。

 自称、異世界の神だというあいつだ。


「まさかもう倒した……訳ないよな」

「いいや、木崎たちがやったんだ! はっはー、福岡もん、悔しかろうっ」


 芳樹の言葉に、イキリ君が反論する。

 よっぽどその木崎って奴のことを信用しているのか、それとも自分たちがナンバーワンだと誇示したいだけなのか。


 その答えは続くアナウンスにあった。


【大分宇佐ダンジョン裏ステージのボス討伐に失敗したよ】

【大分宇佐ダンジョン裏ステージ攻略チャンスはあと一回】

【人選、ちゃんとした方がいいよ~っと、優しいボクは言ってみる】

【じゃ、そういうことでバイバーイ】


 ムカつくボーカロイドの声は聞こえなくなった。

 だけどしばらくの間、誰も口を開こうとしない。


 裏ステージのボス討伐に失敗した。

 8時間を待たずしてそんなアナウンスが流れたってことは?


 検証パーティーは8時間、フルにボスを探して見つけられず、元の場所に強制転移させられたと言っていた。

 時間切れになったら元の場所に戻されるのだろう。

 奴もそう言っていたし。


 だけど時間切れどころか、一時間も経っていないこのタイミングで失敗のアナウンスだ。

 どう考えたって……。


「浅蔵さん……これって」

「全滅……したんだろうな」

「な、何言っとる!? き、木崎たちが負けるはずないやろうが!!」

「だったらここで帰りを待てばいい。制限時間は8時間だ。8時間以内にボスを倒すルールになっている。俺たちは時間ギリギリで倒したから、戻って来たのはそれぐらいの時間が過ぎてから。俺たちは待つつもりはない。上に報告しなきゃならないからな」


 俺がそう言って図鑑を開いた。

 仲間たちに帰る意思を示す。誰も反対することなく、俺のマフラーを掴んで――地上へと戻った。






「そう、ですか……さっき一階にいた者たちから、真なるなんとかってモンスターが倒されたというアナウンスを聞いたと報告がありまして。そうか、あいつら……ダメだったか」


 地上へと戻って来て、プレハブの外で心配そうにこちら――いや、ダンジョンを見ていた職員に事情を説明。

 討伐失敗と聞いて、すぐに察したようだ。


「他の子らは? 非戦闘系の子たちもずいぶんいたでしょう」

「なんか凄いイキリ散らかしてるのがいて、木崎たちは負けないって言い張ってて」

「8時間後には理解するだろ」

「それにしてもさぁ、裏に転移してずいぶん早かったよねぇ。置いて行かれた連中を救助しにいってたから……30分ぐらい?」


 翔太の言う30分で、だいたい合っていると思う。

 運悪く、転移してすぐに裏ボスと遭遇したか、はたまた溶岩溜まりに落ちたのか。

 どちらにしろ、確かめる術はない。


「あの……」


 震える声で話しかけてきた冒険家がいた。

 どこかで見覚えがあるような?


「き、昨日は……仲間を見つけてくださり、ありがとう、ございます」

「昨日……あ」


 トップランカーグループのメンバーか。


「話、聞こえてきたんですけど……木崎たち、ダメ、だったんですね」

「あ、あぁ。断言は出来ないけど、たぶん……裏ボスに敗北した、んだと思う」

「そうですか。表のボスは、倒せたんですね」

「あぁ」


 どうやら彼は、昨日の一件でさすがに怖くなって、他のパーティーに拾って貰って帰って来たらしい。

 凍死した仲間の家族に知らせる必要もあったからと。


「木崎たち……確かにいいスキルをいくつか持っているんです。でも……攻撃しかしないんです」

「えっと、どういうこと?」

「だからその、敵の弱点を調べたり、階層をどう進めばいいかとか、そういうのは全部サポート班の役目で」


 そういや荷物も持たないって言ってたな。

 グループ内で攻略班サポート班と分けて、それぞれ役目を持って動いているのだと彼は話す。

 ただ攻略班は、攻略という言葉の意味とは裏腹に、ただただモンスターを倒すだけ。

 サポート班の中でも戦闘に同行出来るメンバーが敵の弱点を教え、適した装備を用意する。

 攻略班はただただ用意された装備を持ち、教えて貰った通りに攻撃する。

 サポート班はある意味、ダンジョン図鑑の役割をしていたんだな。


「戦闘ではサポート班とパーティーを組んでいないので、レベルが上がるのは攻略班ばかり。ぼくらはモンスターを抱え込むだけで、倒すことは禁止されていましたから」

「そんなことをやっていたのか、君たちは!?」

「は、はい……」


 たった二年で急成長した裏には、養殖まがいの行為があったってことか。

 ボスの独占までしていたんじゃ、スキルもいろいろ持っていただろうし。


 レベルが高いだけで、自分で戦い方も考えない、敵の観察もしない連中だけで裏ステージに行ったとは。

 言っちゃ悪いが、負けて当然な状況だったってことだ。


「裏ステージじゃ、遺体の回収も難しい……ですよね」

「だろうな。あっちには溶岩溜まりもあるようだし、落ちれば死体も残らんやろ」

「そう、ですよね。まぁ木崎たちはもういいです。あいつらだけ、ちゃんと弔ってやろうと思います」


 そう言って彼は、昨日の遺体が安置されている部屋の方を見た。

 今頃は棺に入れられているはず。


 なんでこんなことになったんだろうな。

 ネットで仲間を集めて、良いスキルを取れたメンバーを中心に活動してきたんだろう。

 良いスキルを手に入れられたから……それだけで自分は強くなったと勘違いしたのかもしれない。


 過信は命取りになる。

 それを教えてくれる人はいなかったんだろうか。

 いや。いても聞く耳を持っていなかったんだろうな。


「気持ちを切り替えよう。今回、表のボスは倒された。リポップま早くても明後日以降だろう」

「裏ボスに挑めるのは次が最後です」

「そうだな。ダンジョンへの入場規制を掛けるとしよう」


 そう言うと、宇佐の協会支部長はプレハブ小屋へと向かった。


 俺たちは……今はここにいたくない。

 そんな気持ちから、福岡02ダンジョンへ転移することにした。


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