第126話
29日の夕方。
各パーティーを迎えに行って地下1階へと戻って来た。
「結局俺って、毎晩ここに戻って来てたから、いつもと変わらない攻略の仕方だった」
「仕方ないだろ。全員が踊り場で寝ると狭いんだから」
他の階層でも同じで、結局女性と何組かのパーティーを朝晩で送迎することに。
だが踊り場だろうと体を伸ばして眠れるかどうかで、体力の回復速度も違う。
「44階がオープンフィールドやったけんど、階段見つけるのに1日半かかっちゃいましたね」
「あぁ。あの階層は2パーティーぐらいで集団移動するほうがいいな」
「言えてる」
そう話すのは階段で合流したパーティーのリーダーだ。
44階は草原と森林が混在するオープンフィールドで、外見がドーベルマンみたいな『キラードッグ』と真っ黒なシェパード犬『シャドウドッグ』。この2種が草原に生息し、常に群れで動き回っていた。
43階のようにエンカウント率は高いし、下手すると10匹と遭遇することもあってヤバいヤバい。
「あれ、無視して逃げようにも足が速くて追いつかれるもんなぁ」
省吾の言う通り、面倒だからと一度無視して行こうとしたが、追いつかれるわ別の群れと混ざって数が増えるやら……。
あの時はどうにもならないから、図鑑転移で逃げたけど。
セリスさんからのプレゼントが無ければ、図鑑の取り出しで転移が遅れてやられていたかもしれない。
そんな話をまだ44階に到達していないパーティーに話すと、彼らはさっそく同じ階層同士でチームを組むことに決めたようだ。
森林側にもウッドマンという、見た目はそこに生える木と見分けのつかないモンスターがいて、感知や探知のスキル持ちがいないと厳しい状況になっていた。
ここに集まったパーティーには探知持ちが俺や木下さん以外にも2人いて、チームが被らないようにして対策するようだ。
「ウッドマンも多かったもんなぁ。俺の感知、今半径150メートル範囲ぐらいなんだけどさ。範囲の中に4、50体はいたぞ」
「私なんか視界で見える範囲だったから……気持ち悪かったですよ、あれ」
「あぁ、オープンフィールドだと感知より、木下さんの探知のほうがきついのか……」
げっそりした顔で後輩女子の木下さんが言う。
それを聞いて他パーティーの探知持ちの二人も嫌そうな顔になる。
「木のモンスターなら、弱点は火だろ? そんな苦労するのか?」
44階のウッドマンを知らないメンバーから意見が出る。
そう。奴の弱点は火だった。図鑑にも書いてある。
だがなぁ。
「あいつ、耐久力っていうか、所謂HPか? それがめちゃくちゃ高くって、燃やしても暫くは生きてるんだぜ」
「そうなんですよ。燃えながら襲ってくるたい。余計危険ばい」
「あぁ。俺んところに火球魔法使いいるんだけど、そりゃあ惨い目にあった」
「お前らんところもか。こっちもだぜ」
火だるまになったままウッドマン大暴れ。その火がこっちにもダメージになるっていう。
幸いなのは、ダンジョンやその中の自然に火が燃え移ることはなく。
その辺はダンジョンそのものの形を維持しようとする力の働きなんだろうな。
「あの」
話の最中に他のパーティーの女性が手を挙げた。
「これまで害虫駆除のスプレーとか、激辛スパイスとか使ってモンスターを寄せ付けなくしたりできたじゃないですか」
「誰だよ。水属性スライムにタバスコが有効とか検証したの。マジ神」
それ俺たちです。はい。
「相手が植物なら、除草剤とか利きませんか?」
一同、沈黙。
全員で審議。
……。
…………。
「いける?」
「でも効果でるのに時間掛からないか、あの手って」
「ボトル持ち歩くの面倒じゃね?」
「背中に背負う電動の散布機使うか?」
「重いだろ。そこまで行くのに草原で犬と戦わなきゃならないってのに」
自転車でも犬を振り切るのは難しいだろう。エンカウント率が低ければいいけれども、高いから逃げても直ぐに次の群れと遭遇する。
面倒でも一群れずつ倒しながら確実に進む方がいい。
そして戦うなら余計な荷物は持ちたくない。
もちろんどのパーティーもアイテムボックス系をひとつは持っている。
持ってはいるが、食料を詰め込んだ中に農薬の散布機なんか入れたくないよなぁ。
「となると除草スプレーぐらいですかね」
「まぁ試すのはいんじゃないか?」
「じゃあ試してくるか」
そういう訳で、24階のホームセンター経由して44階の森林近くに転移した。
メンバーは俺、省吾、甲斐斗、セリスさん、翔太、鳴海さん、虎鉄。
現地に到着したら俺は分身を出し、人数の補強をする。
「浅蔵が6人……」
「きもぉ」
「きもい言うな!」
「いいから除草スプレー構えとけ」
甲斐斗に怒られ、翔太が渋々除草スプレーを手にする。
省吾は万が一を考え、俺たちを守る壁役。
俺と甲斐斗、それに虎鉄がもしもの時の戦闘要員。鳴海さんは回復要員だ。
残りの分身とセリスさん、そして翔太の7人が除草スプレーを手に周囲に振りまく作戦。
特に分身は感知スキルもちなので、的確にウッドマンへと除草スプレーを噴きかけていく。
『お。効いてるぞ』
『こんなしょっぽいスプレーで逃げていくなんてな』
「えぇ、ってことは。スプレーシュッシュしながら進めばいいんじゃない?」
翔太の案を実行に移すと、除草剤を嫌ってウッドマンが近づいてこないことが分かった。
これ……森林エリア進むのめっちゃ楽なんじゃないか?
同じくこのエリアに出てくる人食い花も近づいてこないので、草原よりもこちらを選んで進む方がいいだろうな。
1階に戻ってその話をし、次の攻略計画を立てることになる。
が、その前に――
「年末年始は休みだ。次の攻略は1月4日でいいかな?」
除草スプレーの検証をしている間にやってきた小畑さんが、そう全員に確認を取る。
今年も残りわずか……か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます