第125話

 セリスさんが作ってくれた図鑑カバーの使い心地は悪くない。

 図鑑の背表紙を持った状態で手を開けば、ページを捲るのにも支障はない。そのまま盾代わりにも使える。

 だが、図鑑を手に持たず、腕に固定する方法で持ち歩くときでも盾として十分使える。

 サイズ的にはA4サイズと小ぶりになるが、そこは俺自身の腕の見せどころだ。

 まぁこの使い方だと、いざ武器として使おうと思ったらボタンを外す動作が出てしまうので面倒ではあるが。


 43階に出てくるモンスターはスケルトンタイプ。

 ただし上層で見るスケルトンとは違って、武具を装備している。

 装備の有無でスケルトンの強さは倍なんてもんじゃないからなぁ。


「前に浅蔵さんが、装備を持ってるスケルトンは強いって言っとったけど。本当なんやね」

「俺も実際に装備持ちスケルトンと戦うのは、ここが初めてだったけどね。噂には聞いていたけど、なかなかキツイねこれは」

『ここの奴らは複数セットで来るし、その上遭遇頻度も高い。分身が無かったらとてもじゃないが少人数パーティーじゃクリア出来ないだろう』

『にゃー。あさくにゃー分身大活躍にゃねぇ』


 俺6人というシュールな光景だが、確かに分身が無ければこんな階層、クリア出来ないだろうな。

 ここに限らず、40階から下は難易度が高くなっている。

 モンスターが単体で徘徊している場面も滅多にないし、単体だと思ったら他が身を隠して待ち構えている状況だ。

 感知でバレバレなんだけどね。


 ここでは長剣を持つウォリアースケルトンと二刀流の短剣使いのシーフスケルトン、そして遠距離攻撃を得意とする弓使いのアーチャースケルトンが必ずセットで出てくる。

 ここに回復要員が居ないのは、回復スキルが自分たちの身を亡ぼすからなんだろうな。

 このスケルトン軍団が、多い時には6体セットで出てきたりもする。

 まぁこっちも8人なんでなんとか対処も出来る。


『んにゃっ。"シュババッ"』


 虎鉄の遠距離シュババはいいよなぁ。

 ふっ。ちょっと前までそう思っていた俺がいました。

 

「はっはーっ。俺の攻撃射程は5メートルだぜ!」


 浅蔵スペシャル、ゴムソードウィップ!!

 レディークィーンからゲットしたゴム製茨の鞭改め、改名した。


 俺の意思で自在に5メートルの長さまで伸びるこの鞭で、シーフスケルトンの短剣を叩き落とし、返す刀ならぬ鞭で頭蓋を吹っ飛ばす。

 俺自身の下に飛んでくるよう角度調節をした操作で、やってきた頭蓋を左手の図鑑で叩き割って一体撃破。

 右手はそのまま鞭を操り、先端に仕込んだ兎の角を起動させて隣のアチャスケが持つ弓の弦を切り落とす。

 弓が使えなくなってもアチャスケは、まるでエア弓でもやっているような動作を続けるが、現実に気づくよりも前に分身が放った浅蔵スペシャル、ファイアーボンバーウィップで焼かれた。


「武器が新しくなって……浅蔵さん、楽しそうやね」

『にゃー。あさくにゃー、きらきらしてるにゃねぇ』

「え? 俺輝いてる!?」

「う、うん……輝いとるばい」


 そっか。俺、輝いてるのか!


 攻撃面だけじゃなく、セリスさんの手縫いカバーのおかげで防御面も特化できた。

 今までわざわざ図鑑出すのが面倒で、あまり使ってなかったのもあるが、カバーを付けて貰って持ち歩きしやすくなった。

 ウォリアースケルトンの渾身の一撃も、図鑑をさっと構えて簡単に防げるし、何より図鑑を開いてつかみ取りすれば――


「真剣白刃取り!」

『おぉ、凄いぞ俺。それカッコイイ!』

『あぁ、なんで分身の俺だと図鑑が持てないんだ。悔しいっ』


 開くのも閉じるのも片手で全部済む!

 ほんとこれ、最高だよ。


 戦闘そのものはそれほど苦にはならない。

 ならないが、こうエンカウント率が高いと、いくら分身で見張らせてもゆっくりご飯も食べられやしない。


「セリスさん。休憩するために一回階段へ戻ろう。そろそろお腹も空いて来たし」

「そうやね。虎鉄、おいで」

『うにゃ』


 ぴょんっと跳ねた虎鉄が、セリスさんの胸に抱かれる。

 羨ましい……。

 っと違う違う。転移――と。


 階段で昼食をとっている間に、42階に送ったパーティーが遂に下りて来た。


「お。ラブラブ中だったか」

「ラッ。い、いや、普通にご飯食べてただけだから!」

『ラブラブってなんにゃ?』

「ラブラブってのはだなー、雄と雌がこうb「わーわーわーっ。虎鉄に変なこと教えないでくれ!」」

『雄と雌がなんにゃー? ねぇ、なんにゃー?』


 なんてことを教えようとするんだ!

 虎鉄も興味津々でダメなことを教えようとした冒険家に必死にすり寄ってるし。

 お前にはまだ早い!

 早すぎるんだ!!


「ここで飯ってことは、まだ44階の階段は?」

「悪い。まだ見つかってないんだ。この階層、スケルトンがめちゃくちゃ多くてさ」


 先に食べ終わった俺たちは、食事を始める彼らにこの階層の特徴を教えた。

 それからセリスさんがメモ帳にスケルトンの特徴をメモし、それを彼らに渡した。


 地図はまだ未完でコピーを渡すにはDBPが勿体ない。

 そう思って地図を見ていると、左のページでまだ未侵入の位置で紫色の丸――甲斐斗がぐるぐるしているのが見えた。






 階段で合流したパーティーも連れて向かったので、芳樹たちのパーティーと合流するのに4時間も掛かった。

 現地に到着したとき、下り階段の2段目に腰をかけ、項垂れる甲斐斗を見た。

 定期的に甲斐斗がぐるぐるしていたのは地図で見ているから知っている。

 まさか踊っていたのか?


「なんだ、浅蔵たちだけじゃなかったのか」

「あぁ。昼食食べるにも通路では無理な状況だったからさ。それで階段に引き返して食べてたんだが」


 そこで合流した。

 彼らはまだ転移も使えなかったし、一緒に移動するしかなかったんだよ。

 まぁこれで44階攻略は3パーティーで始められる。


「だけど……この人数がここで寝るって……無理なんやないと?」

「ん?」


 階段の踊り場に集まったのは、芳樹パーティーが7人。俺の方は分身を解除して2人と1匹。昼食の時に合流したのは6人パーティーだ。

 合計15人と1匹。

 確かに……狭い。


「浅蔵先輩、女子だけでも上に連れて行ってくれませんか?」

「上? 42階に上がる階段か?」

「そっちももしかして他のパーティーが居るかもしれませんし、もう1階に戻ろうかと」

「浅蔵、お前も43階の地図をコピーして、模写までして貰ってくれないか。コピー機でコピーしたものを、43階のステータス板の所に置いとけば後続組も気づくだろう」

「なるほど。分かった。じゃあ女性陣は俺に掴まってくれ」


 合流は明日の朝6時。

 それまでに地図の量産ができるといいが。

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