第124話

 12月27日。

 集合時間は8時半。その少し前から下層攻略組が家の前に集まった。

 家の前には大きなテントが二つ用意され、攻略から戻って来たときにはここでお互いの情報交換をすることになる。

 転移もここからだ。


「図鑑転移の時は、浅蔵くんを触っていなきゃならないんだろ?」

「えぇ。同時転移は俺の服でもいいんで、触っている必要があります。だから全員を一度には送れなさそうなんですよね」


 転移の仕方を確認しながらそんな会話をしていると、あるパーティーから意見が出た。


「じゃあさ、浅蔵くんが長いマフラーでも巻いて、それをみんなで掴むってのはどうでしょう?」

「5本ぐらい巻いて貰ってさぁ」

「……え」

「だったらマフラーじゃなくっても、紐とかでもいいんじゃないか?」

「電車ごっこみたいに?」

「……え」


 あれよあれよという間に、畑で使う道具倉庫からロープが用意され、長ーい輪が作られた。

 試しに俺がロープを首にかけ、数人がソレを掴んで転移を試みる。


 俺が転移できるのは当たり前だが……。


「出来た……」

『ヒョエェーッ』

「いやできたけどさ、なんで化け野菜畑なんだよ」

『キェーッヒェッヒェッヒェ』

「試しに他階層に行くよりいいかと思って」


 けたたましく笑う化け野菜畑から徒歩で戻って来た俺たちは、さっそく出発の準備に取り掛かった。


 まず、それぞれのパーティーからひとりずつ、俺のパーティーに入ることになる。

 経験値の問題もあるが、こうすれば俺の図鑑地図にパーティーメンバーの現在地が出るので、迎えにも行きやすくなる。

 送り届ける順番は、40、41、42、43階の順だ。


「じゃあ転移するけど、丸く円になってると、壁の中に埋まる可能性もあるんで」

「うげっ。マジかよ」

「やっぱり少人数のほうがいいんじゃね?」

「転移先の通路の形状を考えて、長細くなるほうがいいかもね」


 ってことで長細い楕円形になるんだけども、合計55人の列車ごっこだ。

 長い!


 図鑑の地図で直線通路を選んで転移を開始。

 7パーティーを送り届けた後、最後に俺と芳樹のパーティーが43階へ。


「さて、今日中に44階の階段を見つけなきゃな」

「あぁ。後続は地図持ってるし、最下層を目指すためだけに進んでくるからすぐ追いつかれるぜ」

「ところでさぁ、お互い階段見つけた時はどうやって連絡取り合う?」

「そうだなぁ……」


 翔太が言うように、お互いどうやって連絡しあうか考えなきゃな。

 俺たちが見つけた時は良い。こっちのパーティーに『入っている』甲斐斗の位置が分かるので、転移可能ならすればいいし、出来なくても合流は可能だ。

 ただ芳樹のパーティーが見つけた場合はどうするか。


「甲斐斗さんが、その場で円を描くように歩き回るってのはどうですか? 浅蔵さんの地図には甲斐斗さんが丸で表示されているわけですし」

「え……俺、踊るの?」

「お、いいねぇそれ。じゃあ甲斐斗が階段の上で踊るってことで」

「え……本気で?」


 甲斐斗、頑張れ。

 





「"分身”」

『お、レベル5になったぞ』

『本体含め、俺6人!』

『けどこれ、鬱陶しいな』

「それ言うなよ……」


 俺6人。それにセリスさんと虎鉄の8人パーティーになったな……。

 

 今……恐ろしいものを想像してしまった。


 これ分身レベルが100とかなったら、俺100人ってこと!?

 俺自身含めて101人じゃねーか!


 怖い……これ以上レベル上がらなくていい……。


『人数増えるっていう以外、何かあればいいんだけどなぁ』

『今のところは人数増えるだけだもんな。俺さ、分身レベル100になったらどうなるんだと考えたら、もう怖すぎて怖すぎて』

『やめろよ! 想像するだろ!』


 もう想像した、それ。

 しかし本気で人数増えるだけだと、そのうち分身したくなくなりそうなんだけどな。


「まぁまぁ。私たち3人だけやと、ここまで来るのもきつかったんやし」

『にゃー。あさくにゃーいっぱい増えるにゃねぇ』


 何体に増えても、虎鉄は本体の俺が分かるようだ。ただ撫でてくれてご飯をくれれば、どのあさくにゃーでもいいと言う。

 そういう奴だよな、お前は。


 セリスさんはどうなんだろう。

 俺の事、見分けられているのかな……。

 愛の力とか、なんとかで。


「セ、セリスさん。ど、どれが本体だかわかるかい?」

「え? 本物はあなたですよね?」


 そう言ってセリスさんがの服を掴む。

 あ、当たりだよセリスさん!


『いや、それ尋ねたのが本体だからじゃないか?』

『シャッフルしよう』

『そうだ、不公平だ』


 何が不公平なのか分からないが、確かに今の質問の仕方だとバレバレだ。

 分身とシャッフルしている間、セリスさんには後ろを向いて貰う。

 そしてシャッフル完成後、分身のひとりがさっきの質問をした。


「……あの……言いにくいんですけど浅蔵さん……」


 彼女は俺の前に立ってもじもじする。

 あ、当たってる!

 やっぱり愛の力――


「ダンジョン図鑑を腕に装備してるのが、本物の浅蔵さんやけん……バレバレたい」


 じゃなかったあぁっ!?

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