第123話
武くんもハリスくんも、今日は帰るのだという。
帰り際、大戸島さんは寂しいのかなと思ったがそうでもなかった。
あと来た時には付けていなかった手袋が武君の手にはあった。
どう見ても手編み。
あぁ! 大戸島さんの首元!! そんなネックレス見た事ないぞっ!!
つまりそういう事か!
お互いプレゼントし合って、心温かってことか!!
ああぁぁっ。そうだよ、クリスマスだよ!
恋人たちの祭典じゃないかっ。
いや俺たちまだ付き合ってないけど、でもプレゼントぐらいいいよな!
今すぐお店に――
行けないだろ俺ええぇぇぇっ!
いや……行ける。
ホームセンターだけど行けるぞ。
こっそり24階のホームセンターへと図鑑転移し、店内をいろいろ物色。
夏仕様の店で何か見つかるだろうか。
「ダイエット器具……は絶対ダメだな」
花火……消耗品だし、そもそも子供じゃないんだ。
多少は化粧品なんかも置いているが、セリスさんがそういうのをしたのを見たことはない。
時計――DVD――文房具――工具――
「うああぁぁっ、ダメだあぁぁ」
19階のホームセンターはどうだ!?
・
・
・
売ってる物ほっとんど同じじゃないかあぁぁっ!
スーパーは?
食料品しかないだろ!!
他は……他は!?
11階のパチンコ店……玉? それともパチンコ台をひっぺがしてくる?
俺馬鹿?
パチンコ店なんてそもそも物を売ってる店じゃないんだぞ。玉をお金に交換する……ん?
「交換……ああぁぁ!」
子供の頃、親父がたまにパチンコ行って、お菓子をよく持って帰って来ていたことがあった。
玉を景品と交換するんだが、玉数が中途半端だとそれをお菓子に交換してくれていたのだ。
俺にとって親父がパチンコに行った日は、お菓子がたくさん増える日。
そんな認識になっていたほどだ。
ま、ゼロって時も間々あったけどな。
俺も大人になって、冒険家を引退した後何度か行った事はある。
景品の種類がお菓子以外にも豊富にあったのを覚えている。
化粧品からバッグ、玩具、アクセサリー。
若い女の子に上げてもいいようなものがあるんじゃないか?
急いでパチンコ店へと行き、店内のカウンターへと向かう。
「うわっ。なんだこの店の景品コーナー……」
まるでちょっとした雑貨屋並みの規模だ。これは当たりか!
どうせ贈るなら使える物が良い。もしくはアクセサリー系か。
アクセサリーが入ったガラスケースには鍵がかかっていて、高価そうな物がずらりと並んでいた。
玉数2500発での交換の物ばかりだ。
お、リュックがある。ちょっとお洒落な感じだけど……少し小さいか?
でもセリスさんがダンジョン攻略時に持って行ってる荷物って、直ぐ飲めるように水筒とハンドタオル。おやつくらいだよな。
よし。これにしよう。
他には――あ、猫のキーホルダーがある。綺麗だな。
同じ猫のネックレスもあるのか。あぁヘアピンも!
このシリーズ可愛いなぁ。
帰宅して、こっそり家の中に入ったが誰も居なかった。
「ミケ、みんなどこ行ったんだ?」
『にゃぁ』
まぁ教えてくれるわけないよな。虎鉄もいないようだし……ってことは風呂ではない、と。
荷物は部屋に置き外に出て食堂へと向かうと、2人と1匹の姿を発見。
「あ、浅蔵さん! どこ行ってたんですかぁ~」
「ここ、片付けるけん、手伝って欲しかったのに」
「あぁ、ごめんっ。今手伝うよっ」
テーブルや椅子を通常営業用の位置に戻していたようだ。
武くんやハリスくんが残っている間にやればよかったのになぁ。
全部を元通りにし終わると2人は風呂へ。
どのタイミングでプレゼントを渡せばいい?
あれこれ悩んで考えた結果、こっそりセリスさんの部屋に置くことにした。
プレゼントを入れた袋を持ってセリスさんの部屋へ忍び込むと――
『にゃー! 不法侵入にゃおっ』
「お前が言うか! お前、いっつも勝手にセリスさんの部屋に入ってるだろっ」
『あっしはこの家に住んでるにゃから、どの部屋もあっしの家にゃよ!』
「だったら俺だってこの家に住んでるんだっ。セリスさんの部屋は俺の部屋も同然!」
「なんですかそのジャイアニズム……」
「セリスちゃんと浅蔵さんは~、壁をぶち抜いたらいいんじゃないかなぁ~」
ふと
風呂上がりの2人が背後に立っていた。
もう、上がって来たんですか? 早くないですか?
「クリスマスの夜に彼女の部屋に忍び込むってぇ~、案外浅蔵さんって肉食なんですねぇ。ふふふぅ」
「ちがっ。これは違うんだ! こっそりプレゼント置いて行こうとしただけで。そうっ。プレゼントだよ! こ、これクリスマスプレゼント」
俺の頭はもう真っ白。
とにかく手にした包みをセリスさんにぐいっと押し付け、虎鉄を抱いてその場から逃げた。
『なんであっしまでぇ』
「五月蠅い。お前も同罪だ」
『あっし何も悪い事してないにゃよ』
「いいからこれでも食ってろ」
『にゃっにゃっ!! こ、こりは最高級のマタタビ入りささみジャーキー!』
ホームセンターへ行ったとき、ついでにと思って虎鉄とミケにも美味しい物を持ってきた。
匂いに気づいたミケもやってきて、親子仲良くジャーキーを貪る。
食べ終わったところで猫じゃらしを見せると、喜んで飛びついてきた。
全力で遊び倒してやっていると、ドアをノックする音がして。
「浅蔵さん。ちょっといい?」
「セ、セリスさん。あの、えっと……い、いろいろ探して、可愛いなって思ったものを持ってきたんだけど……」
セリスさんが俺の部屋に……入って来た。
心臓がばくばくし、足元ではミケと虎鉄が猫パンチ。
「その……プレゼント、ありがとう。外にでられんのに、いつの間に?」
今さっきの間。パチンコ屋で。
これ言ってもいいのかなぁ。でも隠してても仕方ないしなぁ。
「あー、さっき。武君が大戸島さんにプレゼントしてたの知って、慌てて……」
ホームセンター2軒、スーパー1軒。そしてパチンコ店。
そこの景品交換所で見つけて来たと話すと、セリスさんは目をパチクリさせたあと笑い出した。
「そ、そんな穴場あったんやね。なんだぁ、私も連れて行って貰えばよかった~」
「え?」
「ふふ。はい、これ。私は上田さんにお願いして、生地と裁縫道具、あとハリスにミシン買って来て貰ったたい」
生地? ミシン?
「あ、開けてもいい?」
「うん。使えるかどうか、確認して欲しいけん」
使えるかどうか?
紙で包まれたそれは大きくはなく、厚みもそれほどにはない。
いったいなんだろう。
出来るだけ丁寧に包装を開け、取り出した中身は……
「ブックカバー?」
「ず、図鑑が入れられんかなぁって……ほ、ほら、武器にしたり盾にしたりしとるやろ?」
これ、ただのブックカバーじゃない。俺が作ったアクリルシールドのように持ち手が付いている。
革製だろう。刺繍もあって、高級感も漂うデザインになっている。
「"ダンジョン図鑑"――」
肌から離れなければ図鑑は消えない。だからだろう。カバーは持ち手になる部分に僅かな穴がある。
「そこに親指通すと。それでこの持ち手は4本の指を通してね――図鑑の背が掴みやすくなるやろ?」
「確かに。じゃあ盾をして使う時は?」
「手開いて」
なんとぉ!
図鑑の背表紙を掴んだ手を開くと、連動して図鑑も開くようになっている!
盾としての面積も開くことで二倍になる。
凄い……機能的だ。
ずっと持ち歩かなきゃならないのかと思えばそうでもなく。背表紙から伸びたベルトで、今度は腕に固定することもできる。
その場合、袖を捲って図鑑に接触させていなければならないが、その程度は面倒でもない。
「よく作ったねぇ」
「ボタン縫いスキルを活かそうって最初思っとったんばい。けど……活用できたのはほんの三カ所だけやった」
そう言ってセリスさんは今年一番の笑顔を見せてくれた。
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