第69話
図鑑で地図を確認――する振りをして、更にテレポートスキルを使う――振りをして1階の階段前へと飛んだ。
しかも微妙に端っこを狙ってだ。
よし。見てる人は誰もいないっと。
「じゃあ、これからはあまり無理をしないように」
「……はい」
「レベル4なら、ちょっと無理したところで8階か9階までだな。スキルが欲しいなら5階で粘るしかない」
誰かが倒したという情報を耳にしたら、その翌日はレベル上げに専念。更に翌日からボス探しをすればいい。
もちろん『倒した』と公言しないパーティーも多いが、それは仕方がない。ルール違反でもないし、出会えるかどうかは運次第なのだから。
「とにかく無茶はダメだ。家族を探したいといって君たちがここで死んだら……君たちの家族はどんな顔するだろう。月並みなセリフだけどさ、それをよく考えてみて」
喜ぶはずがない。その事を理解して欲しい。
そうすればきっと……無茶なんて出来なくなるだろう。
「君たちが生きていることが、ご家族の生きた証になるのだからね」
もう……生存者はいないと思う。
九州でも指折りのパーティーが何度も攻略の為に潜っては戻ってきているが、どのパーティーも生存者を発見出来ていない。
内々にされてはいるけど、遺体や遺品だけはいくつか見つかってはいると聞くけど。それが誰の遺品なのか、確かめようもなく公表もされてない。
3人は項垂れゆっくりと階段を上っていく。最後まで見送ろうと、俺たちもそれについて行った。
そしてゲートのある場所で俺とセリスさんは立ち止まる。
俺たちはここから出られない。25階から生還したが、本当の意味での生還はまだなのかもしれない。
地上は見れるが、その地を踏むことは許されないのだ。
「俺たちはここまでだから」
「あ……はい……本当に出られないのですか?」
「うん」
佐々木芽衣さん――二人を守ろうと必死にボスと向き合っていた彼女の質問に、俺は手を伸ばし、それを見せた。
「浅蔵さんっ」
バチチッと火花が飛び、俺の手が見えない壁に弾かれる。
それを見てセリスさんが心配そうに駆け寄った。
「大丈夫。静電気程度だしね」
「あ、浅蔵さんっ……申し訳ありません、変な質問してっ。ごめんなさい……ごめんなさい。ありがとう」
謝りながら、そしてお礼を言いながら彼女は走って出て行った。残りの二人もペコリと頭を下げ出ていく。
「武くん、ごめん」
「あー、いいっすよ。じゃあ瑠璃に言っておいてください」
「うん。ほんと、ごめん。ありがとうな」
俺は佐々木さん同様に謝っては礼を言って武くんを送り出す。
3人が心配だから、付き添ってやって欲しかったのだ。その言葉を聞かなくても、武くんは理解してくれたようだ。
「武くんは大雑把なようで、気は利くんだよなぁ」
「もう浅蔵さん! ちゃんと手、見せてくださいっ」
「あ、うん-―イテテテ。も、もっと優しく握ってくれ」
「知りません!」
今日はちょっと早いけど、あとはのんびりするかなぁ。
「あ、スキル効果調べておこう」
「え? あのゴブリンからスキル貰えたんですか!?」
「あ……う、ん。ごめん、俺だけ貰えたみたいで」
「悔しい」
唇を尖らせ頬をぷくぅーっと膨らませてると、セリスさんも意外と子供っぽく見える。
顔を緩むのを感じながらステータス板を見ると……あぁ、うん。ここで確認するのは止めよう。
「行列の出来る人気ステータス板……」
「30分ぐらい掛かりそうですね」
「うん……」
「やっぱり忍者だ……」
「……やだ……鞭の浪漫語りだす浅蔵さんが増えるんですか?」
「え? なにそれ楽しそう。鞭の浪漫分かってくれない人多くてさぁ。これなら俺ひとりで語り合えるってことか」
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【分身】
レベルと同数の分身を作ることができる。
分身は個々で考え活動することができ、スキル使用時の
術者の思考に大きく影響する。
分身は瀕死レベルのダメージを受けることで消滅。
または60分で自動消滅する。
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レベルと同数ってことは、レベルが上がれば人数を増やせるのか。
そのうち俺だけ野球チームとか出来そうだな。いや、やらないけどさ。
ステータス板を見るためだけに23階にやってきた。この辺りだと活動している冒険家も少ないから。
「そうだ。少し寄りたい所あるんだけど、いいかな?」
「いいですけど、ホームセンターですか?」
「いや……21階のプールなんだけど。階段で待っててくれないかな? セリスさんに見せるのは……ちょっと……」
あのプールの脇にあったスライムの山。あそこには遺体がある。
体は……溶かされてしまっているだろうけど、何か他の物が残っているかもしれない。
どこの誰か分からないだろうけど、何か……何かを持ち帰ってやりたい。
佐々木さんたちのように家族を探してダンジョンに来てる人は、他にもきっと居るんだろうな。
何かひとつでも、持ち帰れるものがあれば……。
「私も行きます。私も……ここで生き残った人間だから」
「でも……。その、辛いよ?」
「いいと。浅蔵さんだって、辛いやろ?」
そういうセリスさんを連れ、21階にあるプールへと飛んだ。
相変わらずプールの中にはスライムがぷかぷかしてるな。で、プール脇にあったスライムが集った場所――にスライムは居ない。
さて、プールのスライムをどうにかして近づけさせないようにしないとな。
お、そうだ!
「さっそく使ってみるかな。"分身"」
自分の意思で発現させるスキルは、こうして声に出すことで発動する。慣れてくると意識するだけでいいが、初めて使うので声に出した。
特になんの効果音があった訳じゃないが、白い煙は出てきた。その煙が晴れると、隣に俺が居た。
うん。なんていうか……物凄く妙な感じがする。
「ほ、本当に浅蔵さんが二人!? はわっ、はわわっ」
ん? セリスさんはどうしたんだろう。真っ赤な顔して。
それにしても、鏡を見ているような気分だ。だけど相手は俺と同じ動きをしていない。
『うわぁー、これ変な感じだなぁ。鏡を見ているようで、鏡じゃないし』
どうやら考えていることは同じようだ。
「じゃあスライムを――」
『ok。ピーマンボムを分けてくれないか? あと……着ぐるみ……』
何故か死んだ魚のような目で分身の俺が手を伸ばしてきた。
あれを着るのか。そうか。向こう側に渡るんだな。
「ちょ、ちょっと……二人して死んだ魚みたいな目せんといてよ」
「『だってさぁ』」
ボムと着ぐるみを渡すと、分身は後ろの道まで行って着替えてきた。
うん……自分が着ぐるみ着ている姿とか、見たくなかったな。しかもペッタンペッタン音を立てながら歩いては、ばっしゃばっしゃ水の上を歩いて行くし。なんだよその恰好。鼻で笑うだろ。
「い、今のうちに行こう。でも本当にいいのかい? もしかすると白骨化した遺体とか、あるかもしれないんだよ?」
「ス、スケルトンだって白骨ですから」
「まぁ……そうだけど……あ、言っておくけど、あれは遺体じゃないからね。モンスターだから」
「そ、そうですよね。モンスターですよね。ははは」
自分で言っておいて怖くなったようだ。
「手、握っておくかい?」
少しでも落ち着くなら――気を紛らわせられるなら――そう思って手を差し伸べた。
セリスさんは一瞬だけ躊躇したようだが、直ぐに俺の手を取り一歩を踏み出した。
俺は彼女の前を歩く。
スライムが集っていた、今は居ないあの場所へ。
そこで――キラりと光る物を見つけた。
男性物の、そこそこ高そうな腕時計を。
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小説家になろうの方で先行更新中です。
その他の連載作品は以下にて
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~:https://kakuyomu.jp/works/1177354054893791572
(https://ncode.syosetu.com/n4329fz/)
異世界に転移したけど僕だけゲーム仕様~公式ショップが使えてチャージし放題!つまりこれは無双確定!?~:https://kakuyomu.jp/works/1177354054893262163
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