第131話

 新年の階層ボス捜索スタートダッシュに敗北した俺たちは、6日の夜までにボスを1匹も見つけることが出来なかった。


「そ、そんなときもあるさ」

「そ、そうですよね。ありますよね」

『にゃー』


 7日から本気攻略が再開される。

 俺と芳樹、そしてもう一つのパーティーで45階層の攻略を開始する。

 今度こそボス!


 45階へは年末の最後の日に下りてはいた。

 下りたが進んでないだけ。


「ちょうど道は三方向に分かれてるし、それぞれ別方向に進むか」


 芳樹の提案に反対する者もなく。

 俺は真正面の道を、芳樹が左。そうしてもう一つのパーティー、リーダーが三田って言ったかな。彼のパーティーは右に進むことになった。


「じゃあ俺たちも行くか。"分身"」

「ここはふつうの迷宮タイプやね。自転車で走りやすそうやけど……モンスターが多いんやったら、逆に危ないもんねぇ」

『あっしが倒すにゃよ! 任せるにゃよ!』

『虎鉄戦闘狂説』

『説っていうか、そのまんまだろ』


 虎鉄は時折毛づくろいをして防御力を高めている。抜かりないなぁ。


 45階は石畳の、確かに自転車を走らせやすそうな構造だ。

 気になるのは通路の幅が他より広いこと。

 その気になる理由はすぐに分かった。


 45階で最初に遭遇したモンスターは、二足歩行の牛――ミノタウロスだ。

 それが3体セットだが、他で見る道幅だとみっちみちで2体横に並ぶのが限界だろうな。

 道幅7~8メートル。天井も4~5メートルと広く、こうなるとだ……。


「たぁっ!」

『にゃんっとっ!』


 セリスさんと虎鉄が跳ぶ跳ぶ。

 跳ねる彼女らを視線で追うミノタウロスの邪魔をするのが俺の役目。

 鞭で目を狙うのもいいし、顔をピシッと打てば奴らは俺を見る。その一瞬の隙をついて、セリスさんが――虎鉄が技を出す。


 あぁ、俺も攻撃スキル欲しい。


「ふぅ。このエンチャント・ホーリーはいいですね。牛にも効果あるみたい」

「ミノタウロスはたぶん悪魔タイプのモンスターだろうしね。聖属性攻撃には弱いと思うよ」

『にゃー。こんにゃの拾ったにゃよぉ』

「お、ドロップか」


 虎鉄が拾ってきたのは、牛の……鼻輪?

 正直、ちょっとそれ触りたくない。


「こ、虎鉄。それ鑑定してみろ。良いものだったら持って帰る。普通なら捨てていこう」

『にゃー。"鑑定"にゃよー』


 虎鉄は自分の顔ほどもある鼻輪をじっと見つめ、それから――


『鉄よりも硬いタングステン合金の鼻輪って書いてあるにゃよ』


 なんで無駄に良い素材なんだよくそっ。


 その後も出てくるのはミノタウロスばかり。

 ただ時々真っ黒なミノタウロスが出てきて、こいつはなんと魔法を使ってきた。


 イカ墨を霧にしたような、視界を奪う魔法だ。


『"シュババッ"』


 虎鉄の風の刃で霧を拡散できるが、突然やられると慌ててしまう。

 距離を取って霧の中に野菜爆弾を投げ込むのも効果的だ。


 午前中のうちに埋められた地図はわずか1割程度。

 なんだかんだとミノタウロスとの遭遇率が高かったし、体力もあった。

 戦闘が面倒だからと走って通り過ぎようとすれば、次のミノタウロス一行で捕まって挟み撃ちになってしまう。

 スローペースになるが、結局は確実に倒しながら進むほうがいい。


「じゃあ昼ご飯を食べに、階段まで戻るか」

『にゃ~。よく働いたから猫缶~』

「正月の間に美味しいもの食べ過ぎたやろ。しばらくキャットフードだけばい」

『にゃにゃっ。鬼にゃ! 悪魔にゃ!』


 おい虎鉄……どこでそんな言葉覚えてきてるんだ!?

 あ、セリスさん怒ってる。怒ってるから虎鉄ぅ!






『にゃあぁん。ごろごろごろごろ』

「もう虎鉄ったらぁ。食べてすぐ寝てたら、ミノタウロスになるけんねぇ」


 虎鉄……なんて奴だ。

 媚びることに関しては天才か?


 階段に戻ってきてからご飯の準備をしているセリスさんの足元で、ずっともみもみし続けていた虎鉄。

 出されたのはキャットフードだが、それを嬉しそうに食べ、毛づくろいが終わるとセリスさんに頭をこすりつけ甘え始めた。

 じぃっとつぶらな瞳で見上げては、喉をゴロゴロ鳴らして目をうっとり。

 これには鬼だ悪魔だ言われて怒っていたセリスさんも、目元を緩めて笑うしかない。


「他のパーティーの人は戻って来とらんのやね」

「あ、ああ。どっちのパーティーも転移スキルを持ってるメンバーがいないからね」


 俺が歩いた場所じゃなかったら、迎えにも行けない。迎えに行けないってことは、送り届けることもできないんだ。

 階段に戻ってきてまた再出発するより、周辺のモンスターを倒してリポップする前にさっさと食べるもの食べたほうがいいだろう。


「さて、俺たちも進もうか」

「はいっ」

『うにゃ? もう行くにゃか?』

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