第27話

 アイテムコピー。図鑑に載っているアイテムをコピーして取り出せるのか、それともページが増えるだけなのか……。

 流石に後者な訳ないよな。コピーする意味が無い。


「ページをコピーして取り出せるんですかね?」

「はっ! そっちもあったか!!」

「え??」

「あ、いや。アイテムをコピーして取り出せるのか、ページが増えるのかどっちかなぁと思って」

「えぇ!? コピーして取り出せるんですか? それって……凄い?」


 多分凄いこと。

 頷いた俺は、検証するべくアイテムのページを開く。

 どうせコピーするならアイテムポケットだよな。間違ってもカタツムリの殻なんかコピーしてたまるか!


「アイテムのページに『コピー』ってのが出てるな」

「え? どこですか?」

「ここだよ。ページ右下に出てるだろ?」

「いえ、見えません……地図と同じなんですかね?」


 コピーの文字も俺にしか見えないのか。何か意味はあるのだろうか?

 とにかくやってみよう。

 紙に書かれた『コピー』の文字を押すと、その上に今度は『消費DBP5000。コピーしますか? Yes/No』と出る。

 5000DBPもいるのか……。

 いや、ポイントを使ってレアアイテムのコピーが出来るなら、安いほうだろう。

 取り出せて使えるっていうのが前提だけども。


「ふぅ……じゃあ、コピーしてみるか」

「ページが増えるだけだと、かなりショックですよね」

「今このタイミングで言わないでっ」

「あ、すみませんっ」


 口を押さえ、セリスさんは苦笑いを浮かべる。

 ま、どうなるかはやって見なければ分からない。


「Yesっと――おぉ!?」


 文字を押すと、まるでスキャニングしているかのような光がページ内を左右に動く。

 そして、ぽんっと音がして……。


「ポケットが……」

「出てきましたね」


 図鑑のページの上に、セリスさんが持つポケットと全く同じ物が現れた。

 本物だろうか?


 触れた瞬間――【アイテムポケット超劣化版を手に入れたよ】と、ボーカロイドの声が頭に響いた。


「ん? もしかしてこの時点でゲットってことになるのか。となると、譲渡不可……」

「私の時みたいにです?」

「そう。セリスさん、こっちのポケット、君のエプロンに着けられるかい?」


 手渡したポケットを、彼女はエプロンの空いたスペースにくっつけ――られない。


「ダメですね。くっついてくれません」

「じゃあ俺は――くっついた……譲渡不可だな」


 どうやら最初に触れた人にしか使えないようだな。

 まぁそれはいいとして、超劣化ってどのくらいなんだろう。

 びよーんっと伸ばしたポケットは、畳半畳分ほどの、それこそホームセンターで売っているようなダンボールサイズになった。


「小さいですね」

「うん。まぁ超劣化とは書いてあったしね。これでもリュックを背負うよりはたくさん物を入れられるし、何より重さが無いから便利アイテムではあるんだよ」

「何か入れます?」

「せっかくだし、食料を入れて行こう」


 ここはスーパーだ。ホームセンターより食料は豊富にある。

 それでもこの10年で随分と品数というか、種類は減った方だろう。

 米は九州で取れる物しか置いてないし、野菜や果物もそうだ。

 だからって手に入らないような物も早々無い。

 飛行機が使えない代わりに、船は今でも健在だ。だから海外からの輸入食品だってあるし、日本からはお米を海外に輸出していたりする。

 ここ5年ぐらいは、農業が稼げる時代になった。田舎に移り住んで、脱サラからの農業なんて人も多い。

 そんな人たちのおかげで、今でも食料難は起きていない。

 人口が減ったから――というのもあるだろうけど。






「ほえぇ。アイテムがコピー出来るんですかぁ」


 中がスッキリした事務所へと戻り、集めて来た缶詰を広げながらコピー機能の話をした。


「図鑑スキル、便利ですよね」

「だねだねぇ。モンスターを攻撃出来たりって訳じゃないですけどぉ、ダンジョン攻略を有利に進められますよねぇ」

「え? 図鑑でモンスター、攻撃できますけど? 防御も出来るよ?」

「それは……浅蔵さんの使い方がおかしいんです」


 どこがおかしいって言うんだ!

 だって絶対破損しない、最強アイテムじゃないか。


 という冗談はおいといて……。


「二人とも、お願いがあるんだけどいいかな?」

「どうしたんですか?」

「うん……地上に出ても、アイテムコピーの事は秘密にしておいて欲しいんだ」


 図鑑の存在は隠すのは難しいだろう。なんせ目に見える物だから。


「図鑑は出す。ステータス版にもスキル名が出てるし、それを見られたら隠しようが無いから。だけどアイテムのコピー機能なんかは隠しておきたい」

「そうですねぇ。コピー出来るって知られたら、アイテムポケットを欲しがる人が出てきますよねぇ」

「うん。それに、地上に無事到着してその事を知られたら、あちこちのダンジョンに連れまわされる事になると思う」

「他のダンジョンで取れるアイテムのコピー目的で?」


 セリスさんの言葉に俺は頷く。

 ダンジョン産アイテムをコピー出来る。そんなスキル、一度も聞いたことが無い。

 消費DBPは多いが、ダンジョンに入ればポイントは溜まっていく。

 無理やり最下層なんかに連れていかれれば、かなりのポイントが溜まるだろう。

 ボス産の強力なアイテムでも出ようものなら、それをコピーするために全ポイントを使わされるに違いない。

 拒否すれば命は無いぞ……とか、そんな感じで脅されて。


「だから図鑑は、階層情報モンスター情報、地図。そういった紙面で確認出来るだけの、そういうスキルだって事にしておいて欲しい」

「分かりました。浅蔵さんが誘拐されるのも嫌ですし、絶対に誰にも話しません」

「私もぉ~」

「ありがとう。あとは……」


 ダンジョンから生還した人類なんて、恐らく居ないだろう。

 冒険家サイトには報告はないし、そういう噂も耳にしたことは無い。もちろん、そういった情報を公にならないよう、情報統制を掛けられていて、実は他にもダンジョンからの生還者が居る――場合も考えられるけれど。

 どちらにしろ、生きて地上に戻れば確実に冒険家協会からいろいろ尋ねられるだろう。

 ステータス版を見られたりもする。


「協会の職員なら、図鑑を隅々まで見せろってことになりそうなんだよな……そうなる前に図鑑の中表紙を、表紙の裏にくっつけられればなぁ」

「糊でやってみます?」

「いや、そうするとレベルアップした時に、どんな機能が追加されるのか確認もできないからね」


 マスキングテープとかを使って、不自然に見えないようくっつけられればなぁ。

 

 それとも……勤務先の親会社の社長であり、九州の冒険家協会会長でもある大戸島さんに直接報告するか。

 けど協会に報告しても、結果的には彼らの都合の良いようにコキ使われるだろう。


「協会の方は任せてくださぁい」


 頭を抱える俺に向かって、大戸島さんが間延びした声で言って来る。


「任せてってのは?」

「はい。私のおじいちゃん、冒険家協会の会長ですからぁ」


 ・・・・・・はい?

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