第15話

 ダンジョン6日目。

 もう6日目か。

 だが救助隊――つまり冒険家なんだけど――まだ来ない。


 ただ冷静になって考えると、ダンジョンが生成されたからって直ぐに冒険家が入れる訳でもなかった……よな。

 まずは出来立てのダンジョンの入り口がどこにあるのか調査され、見つかったら周辺にバリケードを設置。

 コンクリート塀と鉄の扉で囲って、更に冒険家が休憩できるプレハブ小屋を建てて……。


 あれ?

 普通に一週間や二週間じゃ、冒険家入れなくないか?


「そんな訳で、救助を待つ場合。もしかすると一か月近くか……」

「それ以上か?」

「……はい。待つ必要があるかもしれません」


 朝食の場に流れる沈黙。


「え? 私たち、自力脱出するものだと思ってましたけど」

「うんうん。その為に頑張ってでんでんむしさん倒してるんだもんね」


 あ、そうなのね。

 いやぁ、今どきの女子高生って、強いなぁ。


「じゃあ後で25階に下りて、スキルを見ようか」

「「はい!」」


 食事の後、装備を整え――まずは感知だ。

 付近に反応無し。


「よし……それじゃあ行こう。俺の感知に反応があったら、様子を見て店に戻るからね」

「分かりました」


 出るときはサービスカウンターの方から出るが、帰りは裏口からになる。

 非常口は勝手に扉が閉まるし、それを塞ぐために何かを挟んで開けっぱなしというのも怖い。

 帰ってきたらナメクジがお出迎え。

 そんなのは嫌だ。


 さて、ここからは真剣に行くぞ。

 神経を研ぎ澄まし、感知の精度を向上させる。

 右の横穴に近づいたとき、感知スキルに反応があった。


「止まれ」


 二人の足並みもピタっと止まる。

 反応があったのは右の横穴からではない。どちらかと言えば、壁の奥にある通路だろう。

 どの方角に動いているのか――。

 俺ひとりで前進し、モンスターがどの方角に向かって感知の範囲を抜けるか調べる。


 どうやら奥に向かっているようだな。


「大丈夫。こっちには来ていないようだから」

「浅蔵さんの感知スキルって、凄いですね。私たちには見えないモンスターまで見えるなんて」

「どのくらいまで見えるんですか?」

「うーん。見えるというか、感じるんだよね。まぁ範囲は俺を中心に100メートルなんだけど……」


 この6日間でもしかしてレベルが上がったかもしれない。

 なんとなくだが、100メートルより少し先まで感じられるようになってる気がする。


「さ、行こう」






 右の横穴を進むこと50メートル程に階段はあった。

 ただその前にナメクジが3匹居たので、これは排除した。


「先に言っておくね。階段ってのは、ダンジョン内での唯一のセーフティーゾーンだと思ってくれ」

「え、そんな場所、あるんですか?」

「うん、まぁ、そう言われているだけで、本当に安全かと言われると……」


 モンスターが階段を使って移動する。その姿をこれまで目撃した人が居ないのと、モンスターに追われても階段を上ったり下りたりすると、追いかけて来ないからというのがある。

 だから冒険家や、それらを管理する協会が――。


「そう判断しているだけなんだ」

「そうなんですかぁ。でも今まで誰も階段を使ってるモンスターを見たこと無いってことなら、安全なのかもですねぇ」

「あぁ。だから下の階に下りてステータス板を使っている最中にモンスターが来たら、直ぐに階段の中ほどまで上ること。いいね?」

「「はい」」


 俺の感知は階層を跨ぐと役に立たない。自分と同じ階層のモンスターにしか反応できないんだ。

 だから階段の上り下りが一番怖い。


 俺が先頭になって、ダンジョン図鑑を左手に階段を下りて行く。

 感知出来ないので、ここは自分の『耳』を頼りに聞き耳を立てる。

 

 ――うん。たぶん……居ない。


 30段ほどの階段を降り切ったところで――感知に反応なし!

 俺が落下した所とは、どうやら壁一枚隔てた場所のようだ。

 L字になった通路が続く、ダンジョンっぽい構造だな。


「浅蔵さん、ステータス板ってあれですか?」


 後ろから降りて来たセリスさんたちが、踊り場にある石の台座を指差す。

 台座の上に石板が置かれ、それに触れればステータスが浮かび上がる。そういう仕組みだ。


「見方を教えるよ。こっちに来て」


 俺は自分の手を石板に乗せ、そこに映るスキルの項目に触れる。



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 浅蔵 豊 捕らわれのダンジョン人 23歳

レベル:14

 筋力:D  肉体:E  敏捷:D

 魔力:F  幸運:C+

【スキル】

 感知3

 順応力2

 ダンジョン図鑑2

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 レベル14!?

 い、いや、そうだよな。24階のモンスターと戦っているんだ。何度か眩暈もあったし、こんなもんなんだろう。

 いやいや、でもこれなら自力脱出も夢じゃないな! 


「スキル名に触れるとね、詳細説明が浮かぶんだよ」


 試しに『ダンジョン図鑑』スキルに触れると――。


「詳細は図鑑をみてね……って出てますね」

「……まぁ……図鑑に書いてあるもんね」


『順応力』に触れなおし、そこに書かれた文章を見た。



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     【順応力】

 いろいろと慣れる。だが慣れるだけ。

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 なんか投げやりだな……。


 そうだ。忘れないうちにパーティー設定もしておかなきゃな。


「せっかくステータス板の所に来たからね。今のうちにパーティーを組もう」

「組む?」

「わぁ、ゲームみたいですね~」


 そうなんだよな。まぁダンジョンの存在がそもそもゲームじみてる訳で。

 パーティーの設定もこのステータス板で行う。パーティーを組みたいメンバーで同時に石板に触れるだけだ。

 こうすることで各々が倒したモンスターも、レベルを上げるのに必要な経験値としてカウントされる仕組みになっている。

 その事が発見されたのはダンジョンが出来て4年も経ってからだ。

 その辺りは経験値が数字化されてないのも原因なんだよなぁ。



「よし。パーティーはこれで無事組めただろう。じゃあどっちからステータスを見るかい?」

「セリスちゃん、先にお願いぃ」

「え!? わ、分かった……乗せればいいのね」


 さて、セリスさんのスキルはどうかな?



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 セリス・時籐  捕らわれのダンジョン人 18歳

 レベル:8

 筋力:E+  肉体:F  敏捷:E

 魔力:F  幸運:F

【スキル】

 ラジオ体操1

 跳躍力1

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 あぁ……やっぱりだ。やっぱりラジオ体操だったよ!

 あ、セリスさん……固まってる。『ラジオ体操』の所に視線向けたまま固まってる。

 大戸島さんもさすがに声を掛けられないようだ。


 ピクリともしないので、仕方なく俺が彼女の手を取って、スキルに触れさせた。



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     【ラジオ体操】

 新しい朝を清々しく過ごしましょう!

 ラジオ体操を行うことで、前日の疲れも吹き飛びます!

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 ん? んん?

 もしこの説明が、読んだままの効果だったら……スキルとしては決して悪くないぞ。



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     【跳躍力】

 ジャンプ力が上がります。

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 もう少し具体的にだな……どのくらい跳べるのか、これだとさっぱり分からないな。


「わ、私もぉ」

「あ、うんそうだね。大戸島さんのも見ようか」



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 大戸島 瑠璃 捕らわれのダンジョン人 18歳

 レベル:6

 筋力:G  肉体:F  敏捷:F

 魔力:E  幸運:D

【スキル】

 どこでも睡眠1

 料理1

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 どこでも睡眠……。


「直ぐに寝ちゃうのって……スキルだったんですね……」


 どこか遠くを見るような目のまま、大戸島さんが言う。

 もう一つの料理スキルは、そもそも料理上手な子に備わって何か変わるのだろうか?


「と、とりあえず効果見てみようよ」

「そ、そうですね」



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     【どこでも睡眠】

 どんな場所でもぐっすり眠ることが出来る。

 眠ることで心身の疲れを癒し、怪我の治りだって早くなるぞ!

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 治癒力向上効果付!


 なんだろう……この二人のスキル……スキル名だけ見ると微妙なのに、効果がレア級に匹敵してる!

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